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クランクイン!  作者: 雉
究極の魔導具
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Chapter13-7

 さらっとした柔らかい風が吹いたかと思えば、時として風音を立てて通り過ぎていく突風もある。心を落ちかせている今だからこそ、幾多の種類の風を聞き分け、感じ取れるのだろう。


 大小様々な風を肌で感じながら、ゆいは村長の家の屋上でクリスタルと共鳴をしていた。

 目を閉じ、やや下を向く体勢のまま少しも動かない。

 そのゆいの胸の前で組まれる手の中には、赤い光をやんわりと放つクリスタルが握られていた。


 手の中に宿るクリスタルから漏れる暖かな光。 

 クリスタルの鋭利な外見とは裏腹に、その光の動きはまるで、母親の腕の中で抱かれている幼児の様だ。ゆいに安心しきっている。そのような感じだ。


 ゆいは最初クリスタルを渡された時、こんなに大きな魔力の宿る物とは共鳴できないと思っていた。

 私ごときの力では跳ね返されるどころか、相手されないであろうと。


 だが、それは違った。屋上に上がり、クリスタルを手にした瞬間から、クリスタルから溢れんばかりの暖かさを感じていた。

 それはまるで、ずっと使いこんできた道具の様に、自然と手に馴染んでくる感覚。初めて手にしたとは思えないほどの安心感。


 想像とは違った違和感を覚えたが、その共鳴はゆいに自信を持たせた。

 ゆいはクリスタルを包み込むように抱き、手から伝わる赤い魔力を、魔芯を介し全身に行き渡らせ、この広大な森林地域に向けて精神を集中させた。


 クリスタルに波長を合わせると、リリオットを含むこの広大な森林の、全てを文字通り、「見る」ことができたのだ。


 木々の一本一本は勿論のこと、その枝の上を走り回る無数の小動物の位置や種類。下流に向かって川を流れ行く落ち葉の枚数まで、まるでこの森を真上から見下ろしているかのように、手に取る様に森の状態が把握できる。


 ゆいはその中から、一際魔力の強い痕跡を見つけては追い、見つけては追いを繰り返した。

 細かく当たって行けば、どこかに杖があるはずだ。


 しかし、いくら手に取る様に森の全てが把握できるとは言っても、相手は最強の杖、劫火煌月。その欠片の力を持ってしても、やはり一筋縄では見つからない。

 共鳴を始めてから幾つもの強力な魔力痕を当たっているが、どれも外れ。大抵は自然に結晶化した魔力か、魔法耐性を持つ原生種のどちらかだった。


 日は暮れはじめ、鳥たちが大麗樹へと戻ってくる。

 目を閉じていても、耳に集中していなくても、全てクリスタルが教えてくれる。

 目を閉じる自分に突き刺さっている強烈な西日は、次第に地平線の彼方に消え去るだろう。新しい大地に太陽を届けに向かっている。


 コンパスが正しい位置を示し始めるのは夜と言うだけで、明確な時間は無いそうだ。

 一般的にまだ夜と言える時間ではないが、日が落ち始めているのは事実。ここからは時間との勝負だ。


 だが、この森は人が一人で物を探し当てられるような森ではなかった。


 手に取れるようにして分かったこと。それは、自分が想像していたよりも、この森林地帯は複雑という事だ。


 何百本と流れる川。何千段もある崖。複雑に入り組むようにして育っている木々たち。

 リリオット周辺と森林の南側。つまり、自分たちが進んできた地域はましな方だったのだ。


 森林のほぼ中心部に位置する大麗樹とリリオット。それより北側は更に原生林が広がっていた。 

 この村に向かった時に出会った分かれ道。反対側の進まなかった方向は、リリオット側とは比べ物にならない程の原生林が広がっていた。


 うっそうとした森がどこまでも広がる、迷いの森。その先は人の手が届かぬ自然の王国だ。木々がひしめき合うように繁茂する複雑な原生林が北側の森の限界地点まで延々と広がっている。

 原生林のあちこちに感じる魔力は、ざっと感じる限りでも千ヵ所はゆうに超えている。

 空は更に夕暮れ、全てを当たることは不可能だ。ゆいはその中でも大きな魔力を感じるところを優先的に当たっていくが、それでも百を超える数があった。


 このままではまずい。ゆいの額から汗がにじみ、頬を伝って顎の方へと流れていく。


 顎先に溜まる汗の雫。その雫は次第に大きくなり、その重さに耐えられなくなって――


 引力に引かれるようにして顎と離れた。


 落ち行く雫は今日の最後の日光、夕日を目いっぱいに受け、ダイヤモンドの様に光り輝いている。


 ぴとん。 


 重さにひかれた雫はゆいの足元へと落下し、弾け消えた。


「見え、た……」


 そのダイヤモンドの命と引き換えに、ゆいはとうとう場所を探し当てた。


 最強の杖、劫火煌月の位置を。

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