第一章 第七話 冥界の『王』と煉獄の『魔女』
血の匂いは、人の感覚にダメージを与える。
そんなことは、八年前に知っていたと思っていたのに。
こんなにも、まだ動揺している。
「……」
広がる血の海、切り刻まれた肉片から染み出る鮮血が、近い時間のうちに切り刻まれていることを示していた。アレックスは少しだけ顔をしかめた。殺し慣れているアレックスでも無理はない。これは明らかに人の、人としての死に方ではない。
私とアレックスは水下都市の管理局にきていた。私たちの目的はとある人間の捜索だった。彼女のことだからどうせどこかの誰かと入れ替わっているかもしれないから、違和感のある住民票を徹底的にあたってみようと思ったが、どうやら探し物の方からやってきたみたいだ。
痩身を映し出す漆黒のパイロットスーツと、その上に軽く着たマントに身を包んだ女性。黒色の長い髪と目の辺りを覆い隠すように着けられた銀色の仮面を持った彼女は黒色の巨人の肩に乗っている。
「……『冥王』、貴方からやってくるなんて……過去を悔いて、私にでも懺悔に来たの?」
この神聖グローバレー帝国でのA級犯罪者にて、私の国を滅ぼした張本人『冥王』だ。
私は『戦闘許可者』を構えて戦闘の態勢をとる。アレックスも持ち合わせている小型の騎士用ランスを構える。けど私は右手でその行動を制止する。
「離れてて、アレックス」
彼女は私と同じ『力』を持つものの可能性が高い。だからもしかしたら人を一瞬で殺すほどの力があるのかもしれない。だから――。
「そこの三人ッ!手をあげろ!」
天井の壁が崩れ落ち、そこからあの青色のミスリルアーマーが降りてきた。ちょうど私と『冥王』の間に降り立ち、全員を見下ろした。
(――ッ! 何で、このタイミングで……)
「ふふふ……ここまでは全て計算どおり。貴方たちは、私の作り上げた冥界の盤上で踊りなさい」
そう言うと、『冥王』は、カツンと足を鳴らした。
「まて、『冥王』っ!」
私の叫びに反して、『冥王』を載せた黒色のミスリルアーマーは立ち上がった。そして冥府の翼をはためかせるように浮かび上がり、すぐさま消えていく。
私たちは、ただその強い存在が消えるのを見ているしかなかった。