第一章 第六話 都合が悪い過去への茨の道
さて、とりあえずミスリルアーマーの追撃を避けた私とアレックスは、最下層、つまりは水下都市の、倉庫街の一倉庫にいた。
「アリス姉ぇ……今のは無茶しすぎですって」
私もそれは自覚している。けど、私とアレックスの両方を守ろうとするには今のが一番良かったと思ってるから、まあいいや。
「にしても、アリス姉ぇって装甲義肢だったんだな」
「あれ? 言ってなかっかな?」
兄弟ならそんな重要なことは兄弟なら知っておくべきだとも思うけど、うちの兄弟がこんなに見た目が違うのや、個人個人を知らないのは、ウチの特殊性があるの。
私たちは義母上であるクロエさんが各地の孤児を集めた兄弟、通称『ルインズ』。ちなみにアレックスやユリアやハンスの他にもまだ何人もいる。
(一応点検しておこっ)
私は着ていた皮のジャケットを脱ぎ、両腕についている肘辺りまである手袋を左手だけ外す。すると手袋のあった所に、銀色の装甲が見えた。これが私の装甲義肢『戦闘許可者』です。とある機械国家で製作されたもので、その進歩した機械国家が自国の技術を高める為に、こちらとは違う進化を遂げたあなたの世界と交信する為の装置が作られたの。そんな機械を所持しているのが私『接続者』である。私の交信方法は交換日記であり、私の意識の中で日記を書くことによって、あなたとの交信を完成させる。
この義肢は名前のように人との戦闘をコントロールする能力がある。これをあまり使いたくないのは結構エネルギー消費するからなの。あ、いまお腹なったかな?
「よし、壊れてないね」
もし壊れていたら、交信しているあなたは死ぬことになるから、使用した後は一応確認しているの。まぁ、交信を始めたのは最近なんだけどね。
「それで、これからどうするんです?アリス姉ぇ」
うーん……確かに目的地も近いと言えば近いけど……、流石にさっきのミスリルアーマーと出会うのもやだしなぁ。
……にしても、さっきのミスリルアーマー、一体何だったんだろう。私の故郷はとっくに消え失せていて、私のことを知っている人なんて、いないはずなのに。
「アリス姉ぇ、大丈夫っすか?」
「え、うん。大丈夫、大丈夫」
どうやら結構考え込んでいたみたい。私はアレックスに心配をかけたくないし、軽く笑顔を見せて皮のジャケットを着て、新しい煙草を取り出した。
「アレックス、私行くあてがあるから一緒についてきて」
私がそういうと、アレックスはうなずき私に付いてくる。
銀色のセミロングの髪が、私が立ち上がり、歩くたびに美しく揺れていた。