第一章 第二話 機械の力、獅子の帝国
さて、私はちゃんと屋上にやってきました。
「お姉ちゃん、ちょっとだけ遅い」
最初にユリアが迎撃。うん、こっそりシャワーでも浴びてきたら、結構な時間になっちゃいまして……。
「アリス姉ぇがどうして遅れたのかは置いておくとして、あれですよ」
アレックスがおおよそ北の方角を指差す。私はそこを見て――って、目逸らさないの。見づらいのは分かるから。
アレックスの指の先に見えるのは、小さな協会だ。いや、協会だった建物と行ったほうが適切かも知れない。柱は焼け、壁は砕け、焼け焦げた肉片は周りに散らばり、神父と思われる人の腕が鮮血を流しながらびくつき、軍の遊撃隊が状況の整理と管理に走り回っている。
これが私たちの住んでいる国――あなたが住んでいる所とは少しかけ離れた世界、神聖グローバレー帝国の、植民地です。ここは電気の改良型エネルギー『導力』というもので照明をつけ、機械を動かし、生活している。そしてこの技術の最たるものは――。
「お? なんかミスリルアーマーまで出てきたぞ」
そう。今アレックスが言った、生体電気感知駆動人型装甲兵器『ミスリルアーマー』だ。液状の導力を最大限に高める能力をもつ核水晶と呼ばれる特殊な水晶を使用したエンジン、クリスタルドライヴで動く、大きさが大体三メートルの人間の形をした兵器だ。
元々は『生体電気感知駆動』というところから、介護用として開発されたの。足とか動かない人の、交通手段として。けど、その機動力の高さを軍が買い、大体七年前から軍用が作られるようになったの。
今出動しているのは、軍遊撃隊用の白色の旧式機体『ジークムント』です。出力は現行機である『ジークフリート』より劣るものの、通常の装甲車両より優秀で、軽度の爆発や火災などでもびくともしないというものです。まあ、ミスリルアーマーなんてそんなものだけど。
「相当な被害みたいね」
私は小さくあくびをしながらいった。これくらいの事件ではもう、動じなくなってるのはここの植民地の人は当たり前となっているからね。
世界の三分の一を占めるこの帝国、神聖グローバレー帝国は、ミスリルアーマーを用いた圧倒的な機動力で、周りの小国を植民地にしてきたから、地元住民のテロ、南方にある反グローバレーを歌う共和制の国レシス共和国との小競り合い、そんなことは本国以外は日常茶飯事。特にこの植民地『第三軍区』は共和国との国境沿いにあるため、戦争が日常となっているからね。
「面倒なことに、ならないといいなぁ……」
私は本当に大きく溜め息をついた。私はできる限り、戦争は嫌なのに。
けどね、運命は皮肉なまでに良く回るんです。
私の願いは、叶えられそうにもなさそうなのでした。