間章 End of justice
――一つの命が、あった。
一つの、救いたいものがいた。
誰かを救いたいという幻想を、私の血族は実現してきていた。
そのための技術。
そのための地位。
そのための犠牲。
そのための懺悔。
そのための嫌悪。
そのための自我。
そのための能力。
そのための記録。
そのための憤怒。
そのための強欲。
そのための色欲。
そのための嫉妬。
そのための怠慢。
そのための傲慢。
救うために存在し、救えない矛盾。
矛盾は綻びを生み、やがて形を成した。
矛盾を成立させるために、殺すために存在し、壊すために存在する。
それこそが、『冥王』の本質。
真紅に光臨するは、絶望と、破壊衝動。
余りにも情けなく、物足りず。
虚しいまでの、空虚感。
彼女は、ただ壊すだけ。
私はそれを、見ることしかできない。
徹底された傍観。
それが私に、生きる代償として与えられた役割。
私はその役割を嫌った。
救うために存在しているのに、救えない矛盾。
そして、私はあなたを見つけた。
全てを記録する、あなた。
あなたが日記を見てくれたことで、私の傍観は終わりを告げた。
しかし、矛盾は余りにも大きくなりすぎた。
私の体はもう耐えられない。私に残された運命はただ――滅びるだけ。
この心には、幻想。
幾多にも連なる、力と知識の鎖。
形は違えども、ここには一つの約束が。
形を成し――幻想と邂逅する。