第二章 第七話 笑うことができるから
「……あ」
私は思わず声を出してしまった。
静観な佇まいを持つ、金と銀の装飾を施された白磁の騎士。
どこまでも飛び立てそうな、石英の刃でできた二対の天翼。
全てを切り裂くことができるであろう、光輝之剣。
全てを受け止めるその聖杯は、どんな器よりも美しく。
どんな刃よりも、残酷に人を狩る、荒涼の大地を翔け抜ける戦車。
今、私は、世の中で一番危険な契約を、してしまったのではないだろうか。
後悔の念だけが私に襲い掛かる。
その後に、希望が訪れる。
それは、それは――!
「はい、感傷に浸るのそこまで!」
「私は別に感傷に浸ってはないですよ、クロエさん」
私はクロエさんの方を見る。この人の全てを見通すような瞳には、昔から勝てたためしが無い。私は、改めてその力の具現を――第六世代ミスリルアーマー『WING』を見た。
今後、私の体の一部となる、機体。その美しい機体は、人を殺すために生まれてきたとは思えない美しさを誇る。いや、生まれたばかりだから未だその運命を知らないのかもね。――せめて、この時代に生まれてこなかったのならば、未だ何らかの活路が見出せたはずなのに。
「――まあ、いいや。うん、クロエさん。相変わらず仕事がいいわね」
「ふっふーん! 私にかかればこのようなこと、朝飯前に済ませれるわよ」
クロエさんは胸を張りながら答えた。私は苦笑いを浮かべながら、もう一度、しっかりとこの目に『WING』を焼き付ける。
「さあ、アリス。同調訓練が終わったら、アレックスと共に出撃よ。――覚悟はできてる?」
「――はい。私は、帝国の剣に成り下がった時から、覚悟は決まっています」
強く、強く。
私は笑った。
誰かに見てもらえなくても、この存在が、あなたに覚えられているうちは。
私は、誰かのために、笑うことができるのだから。