第二章 第五話 『絶対者』は運命を突き動かす
私は驚かざるを得なかった。
「レ、レン……? その目、まさか……」
私は見たことがある。六年前、『黒薔薇事件』が起こる一年前に作られた、私の『戦闘許可者』と同じ様に、本来はないはずの兵器、『絶対者』。その中の一つ、英知の象徴である『絶対者』No.XII『賢者之魔眼』だった。
「僕は――」
レンが私に話しかける。私は身構えた。
「アリス、君が昔、何を望んでいたのか、何で苦しんでいたのかは解らない。だが、僕は婚約者だった君を助けたかった。だから、君と同じ異能『絶対者』の一つである『賢者之魔眼』を手に入れ、この左目に埋め込んだ」
その言葉に、私は躊躇した。
この言葉を述べてもいいのか。
しかし、私の口が、勝手に、私の意志とは関係なしに言葉を紡いでいく。
「な、なんで……。なんで私なんかの為に……?」
聞いてしまった。私は言い終えた後に急いで口を手で隠す。
すると、レンの鉄面皮が形を変えた。
朗らかに、私を見つめてくる。
レンの口元が開く。私はさらに手で顔を隠す。多分、顔は赤らめていて、とても見せれるものではないの。
「弱きものをを守る。騎士として、その事に理由などは存在しない」
そして、その言葉に私は落胆した。ゆっくりと足が床につく。
何を期待したのかわからない。もう私はあまりにも恥ずかしいので、そのまま反撃の台詞を言う。
「私は、別に弱くないもん」
しかし、レンは私に近づき、ゆっくりと手を広げる。
そのまま、レンは私を抱きしめる。
私は顔を赤らめ、レンに体を任せる。レンが、私の耳元で囁く。彼の吐息が、私の耳に吹きかかり、私はさらに堕ちた。
「そう強がる。そこが、弱いというんだよ、アリス」
「……馬鹿」
私は、もう駄目かもしれない。うん。
レンの付き添いである『ヴァルキュリア隊』がこれを見たら、卒倒か速攻だろうけど、もう私はそうでも良かった。
久しぶりの婚約者の温もり。それを感じて、私はもう、溶け出しそうだった。
「ところで、だ」
レンにもたれかかっている私に対し、レンが語りかけてくる。もう少しくらい、もたれかからせてほしいかも。
「アリス。やはり、『冥王』を狩るのか?」
そのレンの言葉に、私は嫌な気持ちにさせられた。けど、レンにはしっかりと伝えなきゃ。
私はもたれかかるのを止めて、レンを見つめた。
「うん。私は、彼女に人生を変えられた。彼女がいなければ『ルインズ』の皆に会えて無いのは確かだけど、私たち『ルインズ』は『冥王』を殺すためにいるの。それだけはレンにも譲れない」
「どうしてもか」
レンが聞き返してくる。私は頷き、言った。
「うん。お父様やお母様、それにレティアお姉さまの敵を、私は討ちたいの」
その言葉に、レンは少し残念そうにして頷いた。
「ならば、とめる理由は存在しない。自由にすればいい」
その言葉に、私はうれしくなった。
「ありがと、レン」
「だが、あまり無茶はするな。僕とレナスは、君たち『ルインズ』の帰る場所になる。辛かったら、頼ってくれ」
ああ、もう。相変わらずさりげないところで心をくすぐらせてくれるな、レンは。
私はその言葉に、ひとつだけ返事をした。
「うん」