第二章 第二話 『武神』と第六世代ミスリルアーマー
私とアレックスは、クロエさんに連れられて、第三軍区総督府から八キロメートル離れた私たちの自宅兼孤児院にいた。一応貴族であるのでそこそこ広めの家なのだが、流石に二十人以上居れば狭い。というか、また仕事から帰ってきたときにサーシャっていう六歳くらいの女の子を連れてきたから、二十一人ね。ともかく、狭くて、賑やかな所。
けど、クロエさんの部屋で紅茶をいただいていた年長組――上から私、アレックス、ハンス、ユリアの四人は、クロエさんの話を聞いていた。
「――つまり、また仕事なんですね」
「ええ、大規模反乱組織『フェンリル』の殲滅。場所はここから南のところにあるゼルクレス」
クロエさんは仕事の内容をすらすらと述べていく。……いつも思うことなんだけど、殲滅という言い方は言い過ぎと思うけど、あなたはどう思う?
「ていうか、なんで俺たちが出向かなきゃいけないんですか? 俺たちは貴女から『冥王』を殺すように命令されている。それが俺たちにとっての至上の命題だし、生きがいなんだぜ?」
アレックスの言うことはもっともだ。私たち『ルインズ』の殆どは、『冥王』によって故郷を滅ぼされたものの集まりだと言っても過言ではない。私は『冥王』を殺したいし、ここに居る三人はその意思がある。クロエさんはそれを知っているはず。
「敵はミスリルアーマーを取得している。遊撃隊にミスリルアーマーは最近採用されたばっかだし、軍はそんなことでは動いてくれないのよ」
「……抜けている、惚けている、堕落している」
うわぁ、ユリアの毒舌が炸裂。
「いやぁ、抜けている、惚けている、堕落しているのは認めるとしても、これはあなたたちに最適なのよ」
そう言うとクロエさんが私とアレックスに起動キーを投げる。私には白色をベースに、金色の装飾を施した、翼を模した起動キー、アレックスには赤色をベースに青色の装飾を施した剣の柄を模した起動キーを渡した。
「……! クロエさん、これってまさか……」
「へぇ……義母さん、ついに完成させたんですか?第六世代ミスリルアーマーを」
私の義母であるクロエさんはクロエ・ルナ・ギルフォード中将は、帝国での軍事用ミスリルアーマーの第一人者で『武神』と呼ばれる存在。クロエさんは私がかなり前に話した『冥王』が所持しているミスリルフレーム『JUDAS』に対抗するためのミスリルアーマーを開発するために研究を続けていた。私たちはクロエさんの直属部隊となり、テストパイロットやメンテナンス要員として軍属になっている。その直属部隊は『ナイトオブルイン』といって、私が隊長、アレックスが副隊長、ユリアが技術開発長、ハンスがメインオペレーター。
そして、さっき私とアレックスに渡された起動キー。それこそが第六世代ミスリルアーマー『WING』と『THOR』の起動キー。『WING』が私、『THOR』がアレックスの専用機。
「クロエさん。この起動キーを渡したということは、つまり――」
「うん。初起動は『冥王』の部隊との戦闘。今回の大規模反乱組織『フェンリル』は、『冥王』直下の部隊である可能性が高いわ。『冥王』の騎士の一人である『煉獄の魔女』の姿をみたという人間もいるから」
「……待ってください」
クロエさんの説明の途中でハンスが話に割り込んだ。
「どうしたの、ハンス? 私の話はまだ続いているんだけど……」
「貴女は、何を隠しているんですか?義母さん」
そう言われた瞬間、クロエさんの眉がピクリと動いた。ハンスはさらに攻撃を仕掛ける。
「最近の軍の慌てよう、しかも『冥王』の暴挙のなすりつけ、それに貴女の予定より早い帰国……その根源には、一体誰が存在するんです?」
「……それは……」
クロエさんが黙り込む。ハンス、その疑問は追及しちゃ駄目だと思うけどな、私は。
「私がお答えします」
沈黙が凛とした声によって破られた。
私ではないよ。ユリアでもないし……クロエさんは論外。……じゃあ、誰が?
「レナス殿下!お待ちください!」
その声に少し遅れてレンの声。部屋の入り口に、身の丈はある重剣を背負ったゴスロリ調の服を着た金髪の少女と、騎士服ではなくいまどきの服装に帯剣したレンがいた。