ネトリ女に言ってやりました ~したたかに生きていこう~
お読み頂きましてありがとうございます。
ーーーああっお父さま
この女は、どんな権利があって
私の幸せの邪魔をしようとするのでしょう?
二度と会いたくない女がこんなところに出てくるなんて・・・
フラウの幸せはもうここで終わりなのでしょうか?
「ヴィオ国からご招待しました。第2王子の婚約者であらせられますキララ様でございます。」
勇者召喚した場合、周辺国に披露するしきたりがあるらしい。
王宮の大広間は多くの招待客で溢れかえり、エミリー王女が片っ端から招待客を紹介してくれる。
だが、寄りによってヴィオ国の招待客があの女だなんて、そんなのあり?
ヴィオ国とは休戦状態だから王族は誰も来ないという情報を聞いていたから、大丈夫だと思っていたのにもうこれで終わりなの?
あの女のことだ。この場で私が『聖霊の滴』だと暴き立てるに違いない。
そうなれば、逃げ出すほか無い。祠にも戻れない。どこに行けばいいんだっ!
「ええっ。なんでリュウキが勇者なの?」
だが彼女の視線は私に向かずにひとりの男を捉えていた。
「お、お前。サキなのか?」
彼女と視線を合わせるリュウキさんの表情を伺うと驚いた顔をしていた。知り合い?
「そうよ。貴方の姪だった月光寺サキが生まれ変わったキララよ。それより、なんでリュウキまで『聖霊の娘』の世界に居るのよ。」
リュウキさんの姪ってことはリュウキさんのご兄弟の娘さんってことよね。どういうこと?
リュウキさんは異世界から召喚されたのだから、この女も異世界から召喚されたのか?
そんな話は聞いたことが無い。それが本当なら、すでにお披露目されているはずだ。
しかもリュウキさんの表情からするとそんなに昔の話でもなさそう。いったい、この女はどこから来たんだ?
「『聖霊の娘』って、お前がやり込んでいたゲームのことか? 道理でどこかで聞いたことがある世界観だと思った。キララってデフォルト名か。」
ゲームって? デフォルト名って?
なんのことなんだろう?
コスプレの話以上に良くわからない。
「そうデフォルト名を使えば、声優が名前を呼んでくれるだけでなくイージーモードに入るって教えてあげたでしょ。あっという間に王子様をゲットしたんだけど・・・なぜか第2王子。微妙にゲームと違うの。」
そこでチラリと視線が私と合わさる。気付いている。絶対に気付いているよね。
「もしかして俺も攻略対象なのか?」
「そうよ。乙女ゲームの中では会う男、会う男全て攻略対象だったからね。現実世界では落とせなかったけど、この世界では主人公キララよ。しかもイージーモードなのよ。絶対に落としてみせるから。」
この女の次の標的はリュウキさんなのか。
なんで、この女は私の好きな人ばかり・・・。
「・・・無理だ。お前はあくまで姪で・・・愛情はあっても、欲情はしないんだから・・・仕方が無いだろう。」
あっ。もしかして!
異世界では、姪と叔父の肉体関係はタブーなのかな。
「そんなことを言って・・・手が届かない存在になってから・・・後悔しても遅いんだからね。」
「やっぱり、お前が自殺した理由はそれなのか? 俺も苦しんだし、姉さんも苦しんでいるんだぞ。いい加減戻って来いよ。」
この女・・・自殺したのか。それもリュウキさんが原因らしい。
自殺は生まれたことへの冒涜だ。聖霊の教えの中でも一番罪が重いとされている。
この様子ならリュウキさんがこの女を振ったのが原因だ。それも、異世界ではタブー視されている肉体関係が原因のようだ。
リュウキさんも苦しんでいるみたいだし、この世界では違うよと教えてあげたほうがいいのかな。
「えっ。もしかして、私死んで無いの?」
「ああ。昏睡状態で眠ったままになっている。それとも俺がキスしたら起きてくれるのか?」
「嫌よ。起きたら、姪と叔父に逆戻りじゃない。ここなら、赤の他人よ。エッチしても何の問題も無いわ。のっぴきならないくらい好感度を上げて、私を欲しがるようにしてやるんだから、覚悟していなさいよ。」
やっぱり、嫌。
今度こそ、この女にリュウキさんを取られたく無い。
絶対に叔父と姪がタブーじゃなくて、そんなことで子孫を残さないことのほうが聖霊の教えに反しているなんて教えてあげるもんか!
「そっちがその積もりなら、こっちも考えがある。主人公には『聖霊の滴』というライバルキャラがいたはずだ。」
えっ。私のこと?
「それがどうしたのよ。」
「攻略対象が『聖霊の滴』と出会うとそれまで貯めた好感度を奪い取られるんだったよな。お前、それでいつもヒステリーおこしていたもんな。」
「いくら勧めてもゲームをやらなかったくせに、なんでそういうことだけ覚えているのよ!」
「見つけ出してやる。そうすれば、お前に対する姪としての愛情も全て無くなってスッキリするはずだ。」
「絶対に無理ね。殆ど隠れキャラ同然だったのよ。今もどこかで隠れているはず、どうやって見つけるつもりよ。」
また、視線が合わさる。『聖霊の滴』だってことを隠していることもバレているらしい。
「そうなんだよな。『聖霊の滴』の出現場所はヴィオ国だもんな。無理か。でもまあ、今は彼女も出来たことだし、お前にさえ会わなければ、好感度もあがりようが無いだろ。」
そう言って、リュウキさんが私を横抱きにしてくる。
「へえ・・・。もう彼女作ったの。相変わらず手のお早いこと。フラウさんと仰るんでしたよね。リュウキは抱かれたい男のトップ3に必ず入るような男なの。貴女の手に余るわ。直ぐに手を引いたほうが身のためよ。」
怖い。
オーディンの時は冷めた視線だったけど、今は本気で怒っている。
なんで私が怒られなきゃいけないのよ。こっちが被害者なのに・・・。
「お前。何勝手に説得しようとしてるんだよ。」
リュウキさんが私を背中に隠すように間に入り込んでくる。
「そうでしょ。いつも、長く続くのは大人のいい女ばかりでしょ。貴女のような小娘はつまみ食いなんだから。」
ーーーお父さま。今やっとわかりました。
この女は今でもリュウキさんのことが一番好きで、オーディンのことなんか好きでもなんでも無いということでしょうか。
鈍すぎると笑われてしまいそうですね。
「そういう貴女も小娘でしょ。」
私がリュウキさんの背中から顔を出してそう言うと真っ赤な顔になり、眉毛がつり上がる。
「へえ結構言うじゃない。貴女みたいなのが一番したたかなのよね。大嫌い。」
そう捨て台詞を残すと人ごみに消えていった。
したたか・・・そんなこと初めて言われた。
そうよね。したたか・・・したたかに生きていこう。
ーーーそして幸せになるんだ。そうですよね。お父さま。




