バージンなんです ~押し売りしちゃいます~
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「眠れないのかい?」
半日ほどかけて馬車で走った。そこには立派な城壁都市があり、その領主の屋敷に泊まることになった。明日中には王都に到着出来るらしい。
世話を焼こうとする侍女たちは鬱陶しかったが久しぶりのお風呂を満喫して涼んでいた。
裕福な暮らしから貧乏生活に転落したときは、2度と裕福な暮らしができるようになるとは思わなかった。だが実際にそうなってみるとこの生活を手放したくない。
だがヴィオ国から追われる身、いつかはこの生活が終わってしまう。
この生活を失わずにすむ方法は簡単だ『聖霊の滴』であることをヴァディス王国に告げ、ヴィオ国を滅ぼすことに協力すればいいだけ。
だがそれでは、無関係な人々を巻き込み、多くの人々が不幸になってしまう。
「身体が冷えているじゃないか。」
リュウキさんがそっと抱きしめてくれる。
暖かい。この腕が欲しい。私の傍にずっとついていてほしい。
出来れば異世界に帰るときに連れて行ってほしい。この世界には私の居場所がなさそうだもの。
でも、この人も男の人だ。オーディンと同じにしたくないがエッチもさせてくれないような女の傍にずっとついていてくれるとは思えない。
この辺りが私の売り時なのかもしれない。だけど、こんなとき何て言えばいいのだろう。
「あのう・・・その・・・私のことどう思います?」
「かわいいよ。素直そうだし、俺の周囲では見たことが無いタイプだ。」
シセイさんの話では、お金持ちで遊び人らしい。でも好みのタイプだし、なんと言っても声が好き。もう地位も財産も無い私の初めての相手として、今これ以上の人は居ないに違いない。
「貴方、お金持ちなんでしょ。私を買ってくれませんか。」
「は?」
物凄く驚いた顔をされてしまった。何かを間違ってしまったらしい。遊び人というから、女性を買うことに慣れていると思ったのに・・・。
でも今更引っ込みがつかない。とにかく押して押して押しまくってダメなら諦めよう。
「日本で住みたいんです。世話して頂けませんか。」
「なんで・・・。」
「慈愛の心でお願いします。私困っているんです。助けてください。感謝します。」
「慈愛の心?」
まただ。聖霊教会の教えを持ち出してしまった。向こうの世界と違うのかな。
「死んだあとに幸せの国に行きたいでしょ。人に親切にすると行けるんですよ。」
『慈愛の心』を物凄く要約するとこんな感じ。
「待って! ちょっと待って!!」
全力で拒否されてしまった。
ちょっと売り込みが激しかったかな。初めてなんだもの。全力でぶつかるしかない。
「私、処女です。お買い得だと思いません?」
王族相手だと処女か非処女かで価値が天と地ほどに違う。
「ええっ。」
あ、あれ!
なんか拒絶反応が強くなった気がする。
「もしかして、処女のほうが価値が無いんでしょうか?」
言わなきゃ良かったのかなあ。
「もちろん、処女のほうが高いよ。高いけど・・・違うだろ。そういう問題じゃない。」
「私、お金を持ってないんです。」
もう正直に言うしかない。
「ああ、コスプレのときに日本に置いてきたんだね。もしかして旅券も無いの?」
旅券・・・。旅をするときの身分証明するものだよね。あるはずがない。
「はい。全て無くしてしまいました。」
向こうの世界のものは何ひとつ持っていない。
「わかった。君を買うよ。住むところを世話しよう。そうだ、俺のマンションのハウスキーパーをしてくれたら、月給も出そうじゃないか。」
嬉しい。嬉しいけど・・・どうして。
「ええっ。多すぎじゃないですか?」
「いや。君の値段は住むところを世話することで、ハウスキーパーは処女代と思ってもらえばいい。」
なるほど。そういうことね。
でも、なんでこの人私の顔を見ながら笑っているんだろう。
「なんで笑っているんですか?」
「君って、変わっているね。良く言われないか?」
「はあ。ちょっとズレているとか、世間知らずとか言われます。私は普通のつもりなんですけど。」
お父さまにさえも言われたことがある。そんなに変わっているのかな。
「面白いね君。物凄く楽しいオモチャが手には入った気分だよ。」
「それじゃあ。エッチしましょう。」
「ええっ。もうエッチするのかい? 何も用意していないよ。」
用意ってなんだろう。
「用意って・・・もしかして、初めてが痛いということを心配してくれているんですか? 痛みには強いんです。」
いっぱい、いっぱい血が出るという話だけど、『治癒』魔法を使えばいいよね。
「違うよ。避妊しなきゃ。俺はこだわりがあるんだ。」
遊び人だから、こういうところに気遣いができるのね。エッチすることと妊娠することは切り離せないものね。妊娠しない手段が日本にあるなら、使ってもらったほうがいいに違いない。
「そうか。そうですよね。」
こだわりの意味はわからないけど。
「それに俺はまだ対価を払っていない。日本で住めるところを世話してからでいいさ。」
ーーーお父さま。あれだけ頑なに守ってきたものだけ押し売りしちゃいました。でも、勇者さまはとても誠実な方でした。