バカンスに行きたい ~絡み上戸のようです~
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「ねえ~聞いている~の?」
侯爵領の屋敷での最後の晩餐辺りでもう既にレイティアさんは随分出来上がっていた。娼館での暮らしですっかりお酒に強くなったと言っていたはずなのに、親分衆一のウワバミ呼ばれているはずなのにどうしてこうなった?
「フラウを幸せにしないと許さないわよ。」
エミリーは飲んでいないはずなんだけど、こちらも管を巻いているよね。
「だから俺に言ってどうする。そういうことはアソウくんに言えよ。」
何故か2人ともトムさんに絡んでいた。リュウキさんとシセイさんはいつの間にか何処かに消えてしまっていた。
「そうじゃないでしょ。フラウちゃんをこの世界から奪っていくのは貴方なんだから、ちゃんと幸せにすると約束してよ。私の大切な家族なんだからね。」
レイティアさんが眦に涙を溜めて抗議する。そうか女の涙はああやって使うものなのね。トムさんが何も言えなくなっている。
「そうよ。いつ別れるかもわからないフラウの男と約束してどうすんのよ。貴方、王様なんでしょ。フラウの王様なんでしょ。だったら、最後まで面倒をみるのが当然じゃない。」
エミリー。本当に飲んで無いんでしょうね。それにそんなにトムさんを揺らしたりして、お腹の赤ちゃん大丈夫かな?
「わかった。わかったから離してくれないか。フラウさんはうちの大事な従業員だから、最後まで面倒をみるよ。約束するよ。だから離してくれないか。」
トムさんの言葉にドッキリとする。今のセリフってプロポーズじゃないよね。違うよね。多分違うんだろうなあ。
「うっ。」
レイティアさんが、とうとうゲロゲロと吐いちゃった。
トムさんは慣れたふうにソレを両手で受け止める。ゲロも自空間に取り込んだのか一瞬で消える。『洗浄』魔法なのか綺麗になっている。
「失礼!」
右手を彼女の背中に持って行き、何かを唱えている。本当に魔法を使っているらしい。なんか抱きしめているみたいで凄く羨ましいんだけど。
レイティアさんの顔が気持ちよさそうに変わってくる。
「ごめんなさい。」
意識を取り戻したレイティアさんがトムさんに謝っている。酔っ払っても記憶は残る不幸な体質みたい。
「1年は禁酒だ。物凄く血の巡りが悪くなっていたぞ。野菜中心の食事にするんだな。」
あの魔法は血の巡りを良くしてお酒を早く浄化できるらしい。ついでに食生活の注意までしている。レイティアさんの食事って、甘いものか酒か肉だものね。
☆
トムさんたちは翌朝から壁画になっている術式を夕方までに回収してきた。観光マップが大活躍したらしい。
「この世界の観光地を一周してきたってことじゃないですか。ズルい! 連れて行ってくださいよ。俺たち一回も観光なんてしてないのに。」
シセイさんが変な抗議を入れている。それもこれも各地の観光地で買ってきたお土産をレイティアさんに手渡していたからである。いつの間にかトムさんとレイティアさんが仲良くなっている。
私はお父さまとバカンスで行ったのだけど、あれも良く考えてみると術式を見に行ったのだと気付いた。
「これだけ長い間いたのにバカンスのひとつもしなかったのかい? 昔から言うじゃないか。よく学べよく遊べって。変なところで勤勉な日本人なんだな。君たちって。」
トムさんたちはしっかりと観光地を堪能してきたようである。




