キレイなお姉さんを推します ~領主が嫌なら仕方が無いよね~
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「これは内緒なんだけど10年後を目途にトムさんがエミリーを迎えにくるそうよ。そうすれば、ヴァディス王国の復興なんて空中分解するからって。」
表面上は分からなかったけど、トムさんは怒っていたらしい。休戦協定を纏めた自分の顔に泥を塗られたわけだから仕方が無いのかもしれないけど、怒っているなら怒っていると顔に出して欲しい。
「まさかシセイはそれを知っていて、あんなことを言ったの?」
私たちばかりでなく、その家族であるエミリーとその子供のことまで考えた上でトムさんは最大限のことをしてくれている。
トムさんは初め対価を貰うなんて言っていたけど、どうやって、してもらったことへの対価を払えばいいのだろう。一生掛かっても払いきれない気がする。
「違うわよ。オールド王子とトムさんが難しい顔で今後のことを相談しだしたら、シセイさんは離れていったわ。難しい話は嫌いなんじゃないかな。リュウキさんは『聞かないほうがよさそうだ。』と言って離れていったけど。」
「そうよね。私が少しでも政治絡みの相談をしようものなら、聞く耳持たないみたいだったもの。全く何も考えていないんだから。」
日本という国は民主主義国家で選挙で国を動かす人を選べるにも関わらず、政治を国民の力の及ばない領域と考えている人々が多いらしい。
それなら、もっと国民の力が政治に及ぶように選ぶ人を多くすればいいと思うのだけど、逆に少なくすることに力を入れている不思議な国である。そんなことをすれば役人が言うことを聞かなくなりそうなのに良く分からない。
わが祖国のように国王と役人と国軍が絶対的な権力を持っている国からすると羨ましいと思うんだけどなあ。
「ちょっと。ちょっと待ってよ。その後、この侯爵領はどうなるのよ。」
やっとそのことに思い当たったのか。レイティアさんが焦ったように聞いてくる。
「そんなの決まっているじゃない。レイティアさんが領主よ。ねえフラウ。」
「そうなの。ごめんなさい。権力を移譲してもらうまでも無く、レイティアさん無しでは侯爵領が動かなくなっているだろうし問題無いわよ。」
もう既にレイティアさんをトップとした元親分衆による権力構造が出来上がりつつある。親分衆は表舞台に出たくない人々が多く。今まで担いできたレイティアさんならば文句は無さそうだった。
それに過去にオーディンが直轄地にしていたころの人たちは元々サポート役だったこともあり、オーディンが私にしたことを知っているらしくて、何も言ってこない。
「大有りよ。私に政なんて務まるわけがないでしょ。」
そうかなあ。あれだけ長期間に渡って娼館街周辺だけとはいえ君臨しておいて、それを言う?
「どうしてもダメだったら、オールド王子からオーディンを借りてくれば?」
「なんで! そこに奴の名前が出てくるのよ。」
「あれっ言ってなかった? オーディンはこの国の元王子でこの領地は元直轄地ね。今はゴブリンの女王の種馬。オールド王子は女王の種馬のままの身分で借りてきて政を手伝わせるみたいなことを言っていたけど。」
「聞いてないよ。ヴィオ国の王子でゴブリンの女王の種馬を私は男娼にしたの?」
レイティアさんは少々混乱しているみたいで順番がバラバラである。
「違う違う。ヴィオ国の元王子をレイティアさんは男娼にしたんだよ。その後、ゴブリンに連れ去られたことは知っているじゃない。」
「ひっ・・・。私はなんてことを・・・。」
レイティアさんは目を白黒している。
「だから大丈夫だって、その頃には失脚していたんだから。それに男娼をしていたころはレイティアさんの言うことを良く聞くようになったと言ってたじゃない。きっと使ってあげれば喜ぶんじゃないかな。女王の種馬のままだけど。」
「適材適所なのかな。私はどちらかと言えば、レイティアさんがオールド王子の目に止まって奪い取られる未来しか見えない気がするけど。」
エミリーからはさらに的を得た答えが返って来た。
「私もそう思う。オールド王子はあれで姐さんタイプが好きで尻に敷かれるのを良しとするタイプだから、未来の王妃でも狙ってみればいいんじゃないかな。今はその座が開いているはずだよ。」
私はクルミ様を思い出す、彼女も姐さんタイプだ。尻に敷いていたようだし。
「だって私は娼婦だし相応しくないよ。」
普段のレイティアさんからは想像できないほど小さくなっている。
「レイティアさんが娼婦だったなんて、知っているの親分衆くらいのものでしょ。もちろんオールド王子は知っているけど。レイティアさんの顧客なんて殆ど死んじゃったものね。それに内股の形も元通りだから大丈夫でしょ。」
オーディンも男娼をしていた過去なんてバラされたくないだろうから、口が裂けても言わないに違いない。




