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バカな男の使い道 ~仕える先を間違いました~

お読み頂きましてありがとうございます。

「これはいったいどういうことだ。」


 トムさんとゴブリンの女王の休戦協定の話し合いは上手くいったはずだった。


 領地の割譲も10年間という期間が限定された上で一時的にヴィオ国の管理下に置かれ生産された食糧の余剰分の引渡しとその土地に住む農民のうち、希望者によるゴブリン国内への入植・農業指導という形に大幅な条件緩和された。


 ゴブリンの女王は増えすぎた国民を食べさせるため、農業という生産を行なう決断をして使者を送っていたそうだ。それをことごとく、私たちがはぐれゴブリンとして討伐してしまったらしい。


 簡易砦と王都の中間地点にある静かな農村でヴァディス王とゴブリンの女王が顔を合わせ調印され休戦が成立するはずだった。


 この場には王の他に立会い人としてトムさんと渚佑子さん、通訳兼ゴブリン側代理人としてオールド王子。そしてヴァディス王国側として私とリュウキさんとシセイさん、ゴブリン側として屈強な男のゴブリンが20名ほどが居た。


 その場に突然1000名を越えると思われる農民たちと共に500名ほどの王国軍が雪崩れ込んできたのである。


 トムさんは女王を庇う形でヴァディス王の前に立ち塞がる。


「これだから、異世界人は甘いと言うのだよ。わしがそんな蛮族に本当に頭を下げるはずが無かろう。」


 トムさんの顔が曇る。そんな顔をさせたくなかったのに。


「どうするつもりだ。」


 あれだけ強気だったトムさんでも民間人を含むこれだけの人々に向って攻撃はできないに違いない。


「ゴブリンの女王を渡して貰おう。人質に『ファイアボム』」


 頭が煮えたぎっていた。こんな人間を敬い仕えていたなんて思いたくなかった。ここまで段取りを整えて貰ったというのに頭ひとつ下げることができない王だったなんて。


 今まで守っていたはずのヴァディス王国の人々に向って、私は『ファイアボム』魔法を唱えていた。


 狙いは僅かに反れて、ヴァディス王の後方に居たエラン王子を巻き込み円形状に百名規模の人々の居る場所が燃え上がった。


「リュウキさん!」


 リュウキさんとシセイさんは迷う様子もなく『箱』スキルから装備を取り出し私を守る体制に入ってくれていた。


「この裏切りものめが! これまで散々立ててやった恩を忘れてわしに向って攻撃するとは何事ぞ!」


 私たちが攻撃を仕掛けてくるとは思っても見なかったという顔だ。


 トムさんは手に機関銃を持っていた。


「機関銃かよ。あいつ本当に日本人?」


 シセイさんがうるさい。トムさんは女王をゴブリンたちに任せると燃えさかっている場所を避けるように敵をなぎ倒していく。軍人も民間人もお構いなしだ。


 反対側からは渚佑子さんが敵を一掃していく。ものの数分で片付いた。


 残っているのはヴァディス王ひとりだ。


「そんなバカな。本当にお前たち人族なのか。何故、蛮族の味方をする。人の皮を被った化け物なのか。」


「オールド王子。禍根を残さないためにその手でヴァディス王を討て。」


 名指しされたオールド王子が心ここにあらずといった雰囲気でヴァディス王を睨みつける。


「ふう。全くやっかいなことをしてくれる。先の戦争でもそうだったな最後まで頭を下げなかった。見上げたものだと思ったが今は違う。最低だよ。悪いことをしたら謝る。ガキでもできることだろ、王ができなくてどうする。」


「だが王が頭を下げるということはあってはならぬ。あってはならぬことなんだ。」


「私は・・・私だけは、そんな王にはならない。仕方が無いから、代わりにやってやるよ。」


 オールド王子は剣を抜き放ち、ヴァディス王の心臓に向って一突きすると王の身体は崩れおちた。


     ☆


「なあトム殿。王宮・後宮の開放から王都の残党狩りも私の仕事なんだよな。」


 ヴァディス王の代わりにオールド王子を代理人とした休戦協定の調印がその場で行なわれた。


「そうだ。ヴィオ国への併合に王都を直轄地にしたり、各領地の再配分や領主の任命とやることは沢山あるぞ。地方貴族の力を分散化させるための新たな貴族の任命が一番難しいところだな。」


「なあ・・「ダメだ。俺は4日で帰る。あと2日だ。まあ王宮・後宮の開放くらいは手伝ってやるよ。術式の回収もあるしな。」」


「そうか、あと2日か。それまでに全ての術式の回収か。とても手伝って貰えう暇は無さそうだな。」


「まあ、そう悲観するな。今日の夜と明日の夜はヴィオ国の王宮に泊まっていくことになるはずだから、相談には乗ってやるよ。」


「あー、本当にオーディンの奴を取り返したくなってきた。奴のほうが事務処理や人の使いかたは上手いんだよな。」


「いいんじゃないでしょうか。」


 私はトムさんとオールド王子の話に割り込む。


「いいのか?」


 遠慮がちにオールド王子が私に聞いてくる。


 これ見よがしに私に聞こえるように喋っておいて良く言うわよね。


「いいです。許可します。身分は女王の種馬のままであればいいですよ。私は居なくなる人間なんですから。」


「女王の種馬ね。決定だな。今度、交渉してみよう。」

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