ピアスは呪う ~片ピアスなのは何故だろう~
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シセイさんとリュウキさんを侯爵領に置いてきた。
トムさん曰わく『勇者』が居て貰ったら邪魔なのだそうだ。『話し合い』の場に連れて行くわけにもいかない。引き渡しを要求されるかもしれないし、武器を持って話し合いに行くようなものと言われてしまった。
それでもなんとかならないかとお願いすると謝罪役として『聖霊の滴』の私だけを連れて行ってくれることになった。
ヴィオ国の王宮に到着すると早速謁見の用意をしてくれるという。ごく僅かに控え室で待たされただけですぐに謁見の間に通される。
「異国の方、オールドの足を治して下さり礼を言います。これで問題無く退位を進められる。」
「陛下! 早すぎます。」
寝耳に水だったのか。オールド王子は驚きを露わにしている。
「そうだな。少し早すぎる。オールド殿にあと10年は働いてもらうつもりだ。」
「私にも何か仕事を与えてくださるわけですね。」
「ああ。あの国が純血主義のままでは休戦協定が上手くいったとしても長続きすまい。ヴィオ国が援助すると見せかけて経済的に息の根を止めてしまえ。形式的にはエミリー王女を主軸とした新国家設立でも何でも構わない。10年後を目途に併合しろ。」
目の前が真っ暗になった。
あの国が無くなってしまうなんて。
確かに亜人を排除し続けるならば、ゴブリンだけでなくどのような国とも仲良くしていけないに違いない。
理解はできても感情がついていけない。
「その仕事は頂けませんな。」
意外なところから反対の手が上がる。オールド王子である。
「どういうことだ。」
トムさんは意外そうな顔をする。
「あの国があるからこそ、亜人に対するわが国の優位性が誇れるのですよ。今後ゴブリンたちのような国が次々と建国されていくならば、仲良くできる勢力が増えるというものです。対立構造があったほうが解りやすいじゃないですか。」
今度はオールド王子がニヤリと笑う。なんだろう。この会話。
「ふふふ。お主、なかなかの悪だな。わかったわかった。生かさず殺さずといったところだな。その優位性を確実なものにするためにも、これはお主に渡しておこうか。」
トムさんからオールド王子に小さな耳飾りが渡される。ピアスというもので耳朶に針を突き刺して装着するらしい。痛そうです。
「これは何ですか?」
「相手の言葉が解りこちらの言葉が伝わる魔道具だ。」
「『勇者』の『翻訳』スキルみたいなものでしょうか?」
「この世界ではほとんど同じだな。」
「それは素晴らしい。それをわが国が頂けるんですか?」
「もちろん、お主に渡す。この国と聖霊教会が持つ術式に関する書籍と交換だ。渚佑子。」
渚佑子さんが思い切り良くオールド王子の耳朶にピアスを突き刺す。当然、オールド王子の耳朶から血が流れるが『治癒』魔法で止めてみせた。これって片方だけなのだろうか?
「これはお主専用だ。他人が着ければ呪いが掛かる。お主が生きているうちに翻訳辞書を作れ、通訳を育てろ。大変だぞ。」




