カンキンをカンキンしました ~日本の物価は高いそうです~
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トムさんに続いて謁見の間から出て行こうとするとエラン王子に呼び止められた。私たちが所有する形になっている領地をゴブリンたちへの割譲の一部として割り当てたいということらしい。
隣のトムさんにお伺いを立てると軽蔑した視線をエラン王子に向ける。慌てたように王宮の宝物庫の物で埋め合わせすることになった。
「歴史的価値とか美術的価値には関係無い。君たちの『鑑定』スキルで全体重量から金と白金の成分をグラム換算して価値を決めろよ。過去5年間分、その領地を持っていた貴族に入ってきた収入額に見合う額だ。渚佑子、この世界の金貨を単純に潰した額を日本円で算出してやれ。」
エラン王子とこの宝物庫の担当者が震え上がる。もう既に隣国ヴィオ国からの食糧買い付けで金貨は半減しているらしい。
「そうか。貴金属買取ショップに持ち込むんだな。それに日本円に換算すると安いな。日本の物価が高すぎるだけか。でも大量に持ち込んで不信に思われたりしないだろうか?」
その額を聞いたリュウキさんが不満そうに言う。こちらの世界では一生遊んで暮らしても余るが日本だと普通の暮らしをしても10年で使い切ってしまう額らしい。
リュウキさんが何か不安そうである。貴金属買取ショップって何だろう?
「俺の会社には貴金属買取ショップがあるから、大量でもネックレスとか指輪とかなら問題無く買い取れる。王冠とか金貨は、渚佑子に頼むんだな。錬金術で成分分離くらいはやってくれるぞ。」
渚佑子さんの目が輝いた気がする。トムさんに頼りにされていることが嬉しいのだろう。
「このダイヤモンドのネックレスは高そうだけど無理なのかな?」
今度はシセイさんが何か宝石のネックレスを見つける。
「ダイヤモンドなどの宝石類はカットし直しだから価値は下がる。一応ルートは持っているが大量には無理だな。そのダイヤモンドは大きすぎるから出所を疑われる恐れがあるぞ。それ以前にダイヤモンドの価値が解るのか。光具合や内包物でとんでもなく価値が違うぞ。」
シセイさんは『駄目か』と言いながら、そのネックレスを元の場所に戻した。
「君たちは日本に帰ったら、俺の会社かZiphoneで働いてもらうことになるから、生活費は気にしなくても良い。まあこの世界に誘拐されて監禁された慰謝料だと思ってガッツリと貰って置くんだな。」
「私も働かせて貰えるんですか?」
私が働くことでトムさんにご恩返しできるのなら、是非働きたい。でも逆に足手まといなら、そっと静かに生きていくほうがいいだろう。
「君は国籍の問題があるんだったな。元の国に戻りたいのなら手配はできるが、日本に居たいのならアメリカ大統領に話して市民権を取って貰わなければならない。君はどうしたいんだ?」
やっぱり迷惑なんだ。リュウキさんはいったいどうするつもりだったのだろう。
「アメリカ大統領に個人的な伝手って、どれだけだよ。」
シセイさんがうるさい。
「日本に居たいです。元の国には戻りたくないです。でもご迷惑ですよね。」
私は記憶の奥底から当時にあったことを話す。
ロイヤル・クマリとして国王にも崇められる存在だったが、閉鎖的で拘束時間が長くて全く自由が無かった。それなのにやっと取れた休みの日にアメリカに旅行に行っただけで解任されてしまったのだ。
そのときに親切なアメリカ人が『ここで生活しなさい』と用意してくれたのが日本のあるホテルだったのだが、そこからこの世界に『召喚』されてきたのである。
「CIAかFBIが絡んでいそうだな。そういうことなら、大統領に借りを作らずに済む。逆に貸しかもしれないな。安心していいぞ手配するだけで済みそうだ。」
結局、宝物庫の中身は初代国王が残したという歴史的価値が高く、金額的価値が無いものを残して全て私たちの『箱』スキルに入ってしまった。
そういえば、サキさんの分は取って無かったけどまあいいよね。
☆
控え室に戻るとヴィオ国のオールド王子か帰るというので『転移』魔法で送っていくことになった。
リュウキさんたちだけでなくトムさんたちも付いて来るという。
「過剰な接待は受けたくないからな。まずは王宮を出て、ゴブリンたちに話を通しておこう。明日の朝には戻ってくる。」
扉のところで挨拶するエラン王子にそう告げると苦笑いをしていた。向こうも過剰な接待をするつもりだったようだ。
そんなことをしたら、逆にゴブリンたちの信用を得られなくなるということがまだわかっていないらしい。
まずは、トムさんと渚佑子さんが王宮の門を開けて出て行くと渚佑子さんがゴブリンたちに話し掛けており、王宮の傍にあった宰相の屋敷に向かって爆破魔法を唱えると一発で屋敷は崩れさった。あの宰相の失礼な態度に私と同様に怒りを感じていたらしく凄い威力だった。
それを見ていたゴブリンたちはトムさんたちに頭を下げると立ち去っていった。




