マンテンを貰いました ~滑稽な貴族たち~
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「100点をあげるよ。補足しておくと、500年前にあったゴブリンたちとの戦争でも人族・ゴブリン共に相当な被害を出して『勇者』が通訳して、休戦協定を結んでいるようだね。」
この情報は知らなかったが、『勇者』が召喚されたときに貰える『翻訳』スキルでゴブリンたちと話ができることは少し考えれば誰でも考え付くことよね。
良かった。トムさんは100点と言ってくれたがギリギリ及第点と言ったところなのだろう。少し笑顔を見せてくれた。
変わって渚佑子さんは自分よりも早く答えに辿りついた私に対して思うところがあるのか睨み返してくる。
周囲からはぼそぼそと『腰抜け勇者』という声が聞こえてくる。
私はその人物を睨みつける。お父さまの手紙にあったその時代の『聖霊の滴』のことである。
私のような一方的な介入じゃなく、戦争を止めるという立派な行いをした人物に対して蔑むようなことを言うなんて、この国は何処まで腐っているのだろう。
「それをゴブリンたちが覚えていたのじゃないだろうか。人族から『勇者召喚』したらしいという情報を身振り手振りで得たゴブリンたちが通訳をして貰おうとしていたとしたら、まだ話が通じるかもしれないな。」
でもそれは希望的観測というものじゃないだろうか。私たちは余りにも酷い行いをしてきた。命を差し出せと言われても当然のことをし続けて来たに違いない。
「話はわかった。我々が『勇者』を通じて『話し合い』をしろということでよいのかな。」
それは無理だ。あれだけ攻撃を加えた『勇者』を信用しろと言っても絶対に無理だ。
「違うな。俺が第3者としてゴブリンたちに休戦の条件である損害賠償の大枠を決めてくるしかないだろう。『勇者』の言うことも君たちの言うことも耳を貸さないに違いない。」
「お前にその力があると言うのか?」
失礼にも宰相がトムさんに問いかける。あるに決まっている。無ければ、こんな面倒なことに顔を突っ込まないだろう。
「ああ俺がここに居られる日数も少ないので多少手荒な手段を使ってでも、話を纏めてきてやる。こうやってな。」
突然、トムさんが手を掲げると謁見の間の3階の天井が無くなった。どうやったの。こんな魔法は魔法書には載っていなかった。
「渚佑子。今だ! もう一発。さらにもう一発。」
渚佑子さんが無くなった天井に向って魔法を放つ。
これは『風』魔法と『火』魔法の最上級の混合魔法だ。2階部分の壁の一部が剥がれて空に吹き飛んでいく。渚佑子さんは3回撃ってもまだ余裕の表情。私に取っては全く未知の領域の魔法である。
これはゴブリンたちに対する示威行為なのだろう。王宮の屋根を吹っ飛ばすような人物が現れたと宣伝しているようなものである。ヴァディス王国の完全な味方なら、そんな行為をするはずがない。
そんなことまで理解出来ないのか。立ち会った貴族や兵士たちは大慌てで頭を抱えて右往左往している。
「わ、わかった。お、お願いする。」
王も大慌てで回答する。ここまで実力を見せつけられたら、協力どころじゃないかもしれない。下手をするとトムさんに国を滅ぼされるとおもっているのかもしれない。
「本当ならここまで圧倒的に負けていたのでは命だけでも助けてやってくれと言うしかないだろうが、なんとか国としてやっていける程度まで条件を引き出してみよう。最低限、王の謝罪と退位・国土の3分の1を割譲くらいはできるように取り計らってくれ。」
あまりにも当たり前の要求だった。ゴブリンたちは数を約半数以上失っている。今でもほとんど占領しているようなものだもの。
それでも貴族たちは罪のなすりつけあいを始める。こんな状況下でも領地を奪われるのは嫌らしい。自分勝手なことである。
「明日の朝までに条件を決めてくれ。もちろん好条件なら好条件のほうが良い。最低限の条件も呑めないのなら俺は『勇者』たちと一緒に帰るよ。」
「それでトム殿には何をお渡しすれば良いのかな。タダでやってくれるわけではないのだろう?」
それでも、宰相はトムさんに失礼なことをのたまう。まあ敬称が変わったから、彼も怯えているのかもしれない。
「ああ。祠にある『召喚』の術式とこの国とヴィオ国にある術式に関する書籍を全て頂いていく。何度も『召喚』されては敵わないのでな。」




