ゴブリンをオカシました ~笑いましたわね~
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当初の予定通り、エミリーを侯爵領に『転移』魔法で置いてきてから、トムさんが希望するままにヴァディス王国の王都の南門に『転移』魔法で移動した。
周囲に居たゴブリンたちは一瞬殺気立つが、意外にも攻撃を仕掛けてこない。ジッとこちらを観察しているばかりである。
メインストリートを通っていく。所々でゴブリンと出会うがやはり襲ってこない。まるで王都を守る兵士みたいである。
それにもっと建物が壊されているかと思ったのだが、ほとんどそのままで壊れた所は以前私が『ファイアボム』魔法で壊したところだった。
王宮に到着すると現在の状況の説明を受ける。
「渚佑子。聞いていただろう? 敵は数千、居ても2万足らずのゴブリン。君ならどうする?」
王宮で謁見の準備が整うまで待たされることになった。
ヴィオ国の王子のお墨付きを貰ったため、早急に準備が進められる。
別室で着替えて出てきたトムさんは明らかに何処かの国の正装で凛々しくて素敵だった。渚佑子さんも着替えて出てきたのだが、見たことも無い衣服だったのだが何故か興奮気味のシセイさんによると魔法使いっぽいそうだ。
「魔法が使えるとはいえ、まだ簡単な魔法しか使えていないようですし、私ひとりでも全滅させられます。さっさと終わらせて帰りましょう。」
ひっ。渚佑子さんの鋭い眼光に思わず身震いする。本気だ。本気で皆殺しにできるつもりなんだ。
だがトムさんからはため息がこぼれている。思っていた答えと違う答えが出て来たようである。
「なんでしょう。間違ってました?」
渚佑子さんは即座に反応する。愛する人の想いを汲み取れない自分を戒めているようで下唇を噛んでいる。
だけどそれ以外の答えを私もリュウキさんたちも持ち合わせていないみたいでリュウキさんたちの顔を見ても他の意見が出てくるわけでもないらしい。とにかく、ゴブリンたちを倒してしまわなくては、ヴァディス王国に人々が安心出来ないと思うのだけど違うんだよね。
「これだけの現代世界の『勇者』が揃いも揃って同じ答えなんだな。まあいい。この世界の人が受け入れられないかも知れないからな。まずは謁見して聞いてみよう。」
呆れられてしまった。何かを見落としているらしい。それはなんだろう。
トムさんよりも多くの情報を見聞きしているはずなのに、見落としているなんて悔しい。何を間違ってしまったのだろう。
そこに兵士たちが入ってくる。謁見の準備ができたらしい。控え室から謁見の間に移動する。
トムさんが中央に立ち、渚佑子さんが隣にきたときに何かを囁くと彼女がニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
「王の御前である。そのほう無礼だぞ。」
トムさんは立ちっぱなしである。礼儀を知らなければ正装などしようはずもないよね。
ヤッパリ、この人は王なんだ。王はどんな場合でも頭を下げないと聞く。
王が頭を下げるということは国が頭を下げているのと同じと教えて貰ったことがある。
逆に言えば、国が悪いことをすれば王が頭を下げなければいけないということだ。
「ポセイドロ国の元国王トム・ヤーマダ・チバラギだ。」
騒がしかった周囲が静まり返った。
本当に王様だった。なんて恐れ多い。今までの私たちの行いを思い返してみる。
王の愛する人を誘拐しようとするなんて、それだけで死罪ものなのに数々の暴言にも寛容な態度で接してくださった。不可抗力だったとはいえ愛する人を王の元から引き離した。
なんてことをしてしまったんだ。それさえも寛容に許してくださり、更に手を貸してくださるというのだ。
「そろそろ、話を進めさせて貰っても構わないだろうか。俺は、『境渡り』魔法が使える。従っていつでも渚佑子つまり君たちのいう『大賢者』様を元の世界に連れて帰れる。その上で聞いてほしい。」
何ですって!
私たちの答え方次第では『召喚』の術式を使わずとも元の世界にすぐさま帰ることができるということらしい。『召喚』の術式を人質に言うことをきかせようということも不可能ということだ。
「俺はゴブリンに対して、『話し合い』による解決を提言する。」
トムさんの言葉を聞いた途端にトムさんのこれまでの言動や私たちから引き出した情報が全て一つの方向を指し示していることに気付いた。
しかし、謁見の間に集まった貴族たちから聞こえてきたのは嘲笑だったのだ。
「そこの貴方! あっちの貴方も! こっちの貴方も! 今、笑いましたわね。」
私は笑った貴族たち3人に『ファイアボール』魔法を放ち、威嚇する。
なんで一番でヤジを飛ばす人間って、遠くのほうなんだろう。威嚇し易くて良かったけど。
「「「何をする!」」」
なんで、こんな簡単なこともわからなかったんだろう。
「私は報告しましたよね。
初めて訪ねたゴブリンの村とも言うべき暮らし振りはまるで農村のようだと。
攻めてきたゴブリンたちは軍隊のようでしたと。
王都の民衆たちが逃げるときも静観するだけで襲ってこなかったと。
今王都に居るゴブリンたちを見ましたか、占領軍の兵士のように整然と並んでいます。
はぐれゴブリンも『話し合い』の使者だったかもしれません。
ここ20年はゴブリンたちによる女性の誘拐も発生していないし、農村を襲って食糧を強奪したことも無かったと聞いています。
これだけの社会性を持つ亜人たち、イヤ亜人の国に私たちは非人道的な侵略行為を行ってしまったんです。
初めから『話し合い』による解決をすべきだった。そうですよねトム陛下。」




