コドモのような人々 ~皆で食べれば凄く美味しいです~
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トムさんが腹ごしらえをしようと言い出した。そういえば、異世界を往復しているのに何も食べていない。
そこで物々交換をしようということになった。既にヴァディス王国の王都にはもう国民が居ないことは説明してあったので希少なヴァディス王国のテイクアウトできる食べ物を並べていく。
沢山買い込んでいてよかった。
シセイさんもスイーツを中心に並べていく。エミリーが目を輝かしては眉を釣り上げているから、これは多くの女性たちと付き合っていたときに買い込んだものに違いない。
トムさんからはファーストフードと呼ばれる簡易レストランの食べ物が配られた。
もうシセイさんは狂喜乱舞であれも欲しいこれも欲しいと大騒ぎ。そして食べると涙を流して喜んでいた。郷里の食べ物は何かが違うらしい。
その中でひとり浮いていたのはリュウキさん。『箱』スキルに何も食べ物を入れていなかったがために何ひとつ手を付けていない。律儀な人よね。私の分を分けようと言ってもルールだからと拒絶する。不真面目だと言われたのを拗ねているらしい。
すきすきのカレーが出てきたときには辺り一面に馨しい香りが漂い。皆が競って一口づつ食べているのにひとり拗ねているリュウキさん。子供みたい。
そこに負けじと渚佑子さんから3回召喚されたそれぞれの世界の国々の名物が出てくる。
3回が3回とも人生で重要な場面だったそうで、最低限の学校しか出ていないらしい。
しかも3回目の召喚は雇用主であるトムさんを巻き込んでしまったとか。
同じ世界でふたりっきりか。羨ましいな。当人である渚佑子さんはとんでもないだろうけど。トムさんがあんなに怒っていたのも頷ける。
凄いと思ったけど、なんか出てくる食べ物が非常に偏っている。好物が偏っているみたい。変なところでお子様なんだ。コレにはトムさんも苦笑している。
トムさんが頭を撫でようとすると噛み付いている。子供扱いされるのが嫌なようだ。その気持ちはとても良くわかる。ヤッパリ好きな男性には、ひとりの女性として見られたいよね。
遠慮がちにトムさんが出した食べ物に食いついた人間がいた。リュウキさんである。一番の好物なのだそうだ。
あっという間にひとりで食べてしまった。そんなに好きだったのか。
私は別に構わないけど、周囲の人々は冷ややかな視線を送っており、リュウキさんは縮こまってしまった。
そして、トムさんがその食べ物の材料が『うなぎ』であるといった途端、エミリーたちはそれを出したトムさんじゃなくて食べたリュウキさんを見て、眉を上げて頭を傾げていた。
うーん。アレが大好物なのか。いくら好物でも、あんなニュルニュルした生き物を料理できる自信は無いです。
最後に渚佑子さんが紅茶を出してくる。意外にも凄く美味しい。熟練した技みたい。
それを飲んだトムさんが満足そうな笑みを浮かべて、渚佑子さんに礼を言う。
それを見てツラそうな笑顔を浮かべる渚佑子さん。
それは過去にあった出来事なんだろうけど、ツラくても大切な思い出らしくて。見ているこちらのほうが苦しくなってくる。
---お父さま。好きな人の好物でも、あんなニュルニュルした生き物は触れないです。
どうしてあげればいいのでしょうか?




