ダイケンジャ様は性格が悪い ~打ちのめされました~
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「わかった。あとの人間もそれでいいか。対価はきちんと払ってもらうからな。無駄死にするなよ。」
対価のことばかりのようでいて、命を粗末にしないように諭してくれている。
トムさんは『送還』の扉を避けるようにして壁に何らかの操作をすると結界が解除されたようで、結界に寄り掛かっていたシセイさんが尻餅をついた。何をやっているんだか。
トムさんが指示するままにリュウキさんたちと共に『送還』の扉を潜った。
★
「あっ、エミリー! どうしたの?」
祠の『送還』の扉の前でエミリーが何か泣きそうな顔をしていた。隣にいるオールド王子も顔面蒼白でいつもの美男子っぷりが影を潜めていた。いったい何があったの?
私が駆け寄るとエミリーは私に抱き付いてくる。何か恐いことがあったらしい。
そう言っても、他にはトムさんの愛する渚佑子さんしか居ない。でも渚佑子さんの周囲は異常に明るかった。
そこでトムさんが到着し、渚佑子さんの傍に行き、声をかけている。
「大丈夫だったか?」
いいなあ。感動の再会。思わず視線が追っていってしまう。
「社長!」
一瞬、渚佑子さんと視線が交差したと思ったら彼女の口元がニヤリと笑った。
それなのに声をあげて泣いている。
何、さっきのどういう意味なの?
長い・・・長すぎる。抱きついたまま離れない。まるでトムさんが『自分のものよ』そう言わんばかりに熱いところを見せ付けてくる。考えすぎだよね。
でもトムさんの感触を確かめるようにモゾモゾと動いたとき、またしても視線が交差する。この人、嘘泣きだ。全然、涙が出ていない。
しかも、いつまでも見つめる私が鬱陶しいとばかりに、シッシと手を振っている。
何よ。この人、物凄く性格が悪いんじゃないの?
トムさんは騙されているんだわ。この人、トムさんには絶対に似合わない。これなら、まだ私のほうが同じ幼児体形でも・・・。
1時間くらい経ってやっと離れた。
それからは質問タイムだった。トムさんが私たちから、情報を聞きだしていく。
渚佑子さんは『知識』スキルを持っていて、時折その情報に補足してくる。この世界で過去に作られた文書になっているものなら、全て取りだせるみたい。
トムさんは気付いていないみたいだが、その度に得意そうな顔をする渚佑子さん。恋する女の特徴であるベタベタした甘え方も平気で皆の前でしている。恥ずかしくないのかな。
「君たちは、この状況を引っくり返せると言うのか?」
トムさんが全て情報を引き出せたと思ったのだろう。ヴァディス王国の王宮に向おうと言うとオールド王子が質問する。
「さあ。少なくとも渚佑子は、そこに居る『聖霊の滴』と呼ばれている女性よりはその実力がある。」
がーん。
確かにそれは分かっている。3つもスキルを持っていて、魔力の量も私とは桁違いに多い。『ファイアボム』魔法どころか、その上の魔法も連発できるに違いない。
でも、それがトムさんの口から出た途端、頭を殴られたような衝撃を食らった気がする。
トムさんに私は取るに足らない存在なんだ。まるで小さい子供のようなもの。女性としても見えていないに違いない。
かろうじて、隣に居たリュウキさんに捕まって耐える。
「ではそれを証明してもらおう。できないとは言わせない。」
オールド王子が無理難題を吹っ掛ける。幾らなんでも、ここで攻撃魔法は使えない。それにそんなにハッキリした差が出るはずが無い。
「うーん。渚佑子。殿下の足を治して差し上げろ。」
えっ。それは・・・私がしたくても出来なかった魔法。魔法書にも載っているが、最後の最後に到達できる最上級の魔法で到底、手が届かない魔法。
なるほど、トムさんは何て賢いんだ。歴然とした差。圧倒的すぎる。
「治せるのか?」
オールド王子がトムさんから差し出されたイスに腰掛けると義足を外す。
そこから僅か数秒、渚佑子さんが魔法を唱えるとオールド王子の足が再生された。
先程までの不信感が嘘のような歓喜の表情を浮かべるオールド王子と安心した表情のエミリー。シセイさんは『すげえ』を連発していたし、リュウキさんも私を強く抱き締めた。
だけどその喧騒をよそに私は打ちのめされていた。こんなにも違うんだ。あそこまでいかないと愛してもらえないんだ。




