カンチガイ女は誑される ~激しい愛情に嫉妬しました~
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「はい。『召喚』の術式は3人の『勇者』を勇者召喚するか、1人の人物を指定して召喚できます。今回は『大賢者』という人物を召喚しました。国の危機を救ってくださる方を召喚したかったのですが、万が一失敗しても、その後に発生する『送還』の扉で前回来て頂いた『勇者』たちを送り返すつもりだったのです。」
包み隠さずお話する。何かを焦っているような雰囲気もあるが杞憂かもしれない。
「なにっ。もしかして『召喚』と『送還』がワンセットになっているのか?」
目の前の男は顔を歪ませる。それでも44歳という年齢の割には若いというか幼い感じでちっとも醜くない。むしろ何か引き込まれるような魅力を感じた。
ダメよ。多情な女もいい加減にしないとリュウキさんに捨てられる。それほど、魅力的な男性だった。この男性にこんなにも思われている先程の女性が羨ましい。
「そうです。そして、私たちの前に現れた女性は、目の前でかき消えました。いったいどうなっているのかさっぱりわかりません。」
もしかすると『送還』の扉に触れたのだろうか。丁度、あの位置にある。
しばらく沈黙が続く。
心底心配そうな表情を浮かべる男性。先程の女性に嫉妬を覚えてしまうほどだった。
「女性・・・渚佑子はどの辺りで消えたか教えてくれるか?」
「そんなことより、どうなっているか教えてくれ。」
シセイさんが今までの苦労をぶち壊してくれた。目の前の人が怒っているのが分からないの?
「そんなことだと! 君たちは安全な日本に居るんだから、ここでしばらく生活できるだろう? だが、異世界に渡った渚佑子はどんな危機に陥っているかわからないんだぞ! どちらが優先順位が高いか一目瞭然だ。サッサと答えろ。」
『全くだ』と私が言う資格は無い。シセイさんの家族もリュウキさんの家族もこうして心配されているに違いない。改めて自分の行為がどれだけ罪深い行為だったかが分かってしまった。
「大切な女性なんですね。」
どう考えても愛する女性を心配する男性にしか見えない。どす黒い嫉妬の感情が芽生えてしまう。
「かけがえのない女性だ。」
やっぱりね。そうだと思ったんだ。
いいな。こんなにも一途に思われるなんて、私もリュウキさんと結構ラブラブな関係だと思っていたがここまで激しい想いは無い。
今までいかに稚拙な感情に振り回されてきたのかが分かる。
「失礼しました。丁度、貴方の前方3メートルくらい先で忽然と消えました。魔法書で解読した術式によると『送還』の扉は、およそ1時間開いた状態になるそうです。」
トムさんは何も無い空間を凝視している。不用意に触れることは無いと思うが補足しておくことにした。
「それはありがたい。それでは、渚佑子を向こうの世界に行って連れて帰ってくるから、君たちはここで大人しく待っていてもらえないだろうか。食事なら奥の給湯室に非常食がおいてあるから、長くても4日程で戻ってくる。」
こちらが勝手に押し掛けたというのに食事の心配までしてくれるなんて、物凄く優しいひとなのね。
「待ってください。俺たちも連れて行ってください。」
リュウキさんが進み出る。
その気持ちは良くわかる。トムさんならあの危機的状況をなんとかしてくれる。そう思わせてくれる何かがある。
「君たちはこちらの世界に帰って来たかったんじゃないのか?」
そしてその結果を見届けたい。そう思うのが普通だよね。
「俺たちは何も果たせなかったんだ。トムさんが向こうに行ったら戦うんだろ。」
そう人々は私を必要としてくれたのにあの結果である。悔しく無いと言えば嘘になる。
「わからない。君たちの言う。国の危機がどの程度かによるな。なにせ休暇は4日しかないんでね。」
最後の一言に思わず硬直してしまう。このひと、たった4日でなんとかしてしまうつもりなんだ。
渚佑子様と仰る方を連れ戻すだけのつもりなら1日もかからないだろう。
わざわざ4日と期間を区切ったということは本当に結果を残してくるつもりなんだ。凄すぎる。
「休暇だとう! そんなことで何とかなるものか。ふざけるなよ。」
リュウキさんにはその意図が伝わらなかったみたい。違う意味で捉えたみたい。
「ふざけているのは、そっちだろう。俺の肩には何万人もの従業員の生活が掛かっているんだ。これだけの休暇を取るだけでもどれだけ大変か。それもお前たちが勝手に渚佑子を召喚しようとしたからだ。例え4日でも対価は払ってもらうつもりだからな。」
何万人。凄い。このひと何処かの王様だったのね。その王様が見ず知らずの世界の国を助けようとしてくださるなんて凄すぎる。このひとが行動を起こしてくれるなら、何を犠牲にしてもいい。この命さえも捧げよう。
「すみません。ごめんなさい。私たちはもう少しあの世界の人々にお役に立ちたいんです。対価は何でも払いますから、連れて行っていただけませんか。」
とにかく、こちらは助けてもらうんだ。対価が何であるかは関係ない。きっとそんな無体なことは言わないそんな気がする。




