ネトリ女は消滅しました ~お化け屋敷に召喚されました~
お読み頂きましてありがとうございます。
この世界は私の生まれたところじゃなかった。
たったそれだけのことが私の価値観を全て砕いてしまった。
自分が立っている場所以外は何も無い空間。
「フラウ。」
唇に何か柔らかいものが押し当てられる。そこから侵入してきた細く長い生き物が、私の舌を絡めとるように存在感を示す。
「「フラウちゃん。」」
暖かい感覚だけが私を包み込んでいく。『ここにはお前ひとりが居るんじゃないぞ』と示すように、右手が左手が何かに掴まれる。
☆
気がつくと心配そうに覗き込んでいる皆の視線があった。
リュウキさんの唇が離れていくとそれを追い掛ける。存分に貪りあったあと唇を離す。
「何やっているのよ。貴女ってどうしようもなく破廉恥な女ね。こんなことを平然と皆の前で出来るなんて。」
サキさんの言葉に一瞬にして現実に引き戻され真っ赤になってしまった。
本当だわ。私って、ハレンチだったのね。
周囲を見回すとシセイさんもエミリーも優しい笑顔で見つめている。
「ダメだろ。また嘘をついたね。ひとりこの世界に残ろうなんて酷い女だ。」
リュウキさんの言葉が胸に突き刺さった。
「今度こそ絶対に離さないぞ。フラウは俺のものだ。誰にもやらない。」
リュウキさんはそう言って、抱きついたまま離してくれそうに無い。
「リュウキまで破廉恥女と一緒なの? クールなリュウキは何処いったのよ。」
再び魔力を投入する体勢に入るがリュウキさんは抱きついたままだ。少しでも離せば逃げると思っているらしい、しかもシセイさんも左手を握ったまま離してくれない。
さらに隣では負けないとばかりにリュウキさんに抱きついているサキさんの姿があった。
どうやっても逃げられないらしい。
「ほら行きなさい。これで侯爵に最高の援助が出来たと自慢できるよ。」
オールド王子に顔を向けるとそう返されてしまったらしい。手紙の内容を知っているらしい。
どうも初めから私が残ることを見透かされていたみたい。きっと失敗しなくても、直後に手紙を読まされて茫然自失したところを無理やり向こうの世界に押し出したのだろう。
「私も大丈夫よ。貴女との思い出とこの子さえ居れば生きていけるわ。」
そう言ってエミリーは、お腹をさする。
「エミリーお前。俺たちの子供か?」
「そうよ。貴方と違って他に男の人は居ないわ。ダメよ。貴方は帰らなくてはいけない人よ。初めからわかっていたことでしょ。貴方は貴方の人生を貴方の世界で歩んでください。そして私の代わりに親友のフラウを助けてあげてください。貴方が貴方の子供に顔向けできるような人生を送ってね。」
エミリーはそう言って、お父さまの手紙を返してくれた。
私が茫然自失している間に回し読みされていたようだ。
「ああもう決してフラフラしたりしないよ。エミリー。君と同じくらい幸せな人生を歩んでみせるさ。」
逃げ道は全て塞がれてしまった。
仕方がない覚悟を決めて、魔力を投入し出した。
「また、『召喚』の術式が動き出したわ。こんどこそ成功す」
エミリーの言葉が途中で途切れ、私たちは浮游感覚に襲われ、またしても薄暗い場所に到着した。
『私たち』?
どういうこと?
まだ『送還』の扉に進んでいない。
ここは何処なの?
「フラウ。ここは俺たちの世界に間違いない。マンションのモデルルームのようだ。」
何があったかはわからないけれど、リュウキさんたちの異世界に渡ってこれたことは確かなようである。
突然、周囲が明るくなり、扉が開いて少女が入ってきた。
「ようこそ。異世界の召喚者・・・たち。複数人なのね。しかも『勇者』たちばかり3人だなんて。まあいいわ。この私、『大賢渚佑子』を召喚しようとした理由を聞かせてもらおうかしら。」
その少女はそう言うと私たちの方向に歩み寄ってくると忽然と消えた。
「ここはお化け屋敷かよ。さっきの女、『勇者』だったが固有スキルを3つも持っていた。あんなのと戦ったら瞬殺だったぜ。あれを『召喚』できていればゴブリンたちも一掃できたな。」
『勇者』たち3人?
私たちは4人よね。リュウキさんの声も聞こえたし、シセイさんが目の前で毒づいている。
「本当にお化け屋敷みたい。サキさんが居ない。サキさんが消えている。」
何故? どうして?
サキさんがリュウキさんに掴まっていたことは確認したよね。
「サキは、アレだよな。シセイ。」
「乙女ゲームなんだから、あの身体は向こうの世界そのものだ。こちらに来れたとしても魂だけだ。この辺りに漂っているんじゃないのかな。よし手分けして探そう。『鑑定』スキルなら見えるはずさ。」
さては、こうなることを知っていてサキさんが掴まっているのをリュウキさんったら放置したのかな。
あの世界から連れ戻すには、そうしなければならなかったのよね。
でも魂と身体が離れたままなのは良く無いよね。
とにかく、この世界にある身体に戻って貰わなくてはいけない。自暴自棄になって自殺を図った女が素直に戻るだろうか。
3人共『鑑定』スキルを連発しながら、周囲といってもこの狭い室内を探しまくる。
「参ったな。どうやら結界が張ってあるみたいだな。ここから向こう側に行けないようになっている。」
少女が入ってきた扉に向かったリュウキさんが少女が消えた辺りより手前で動けないでいた。
「気をつけて。それより向こうに『送還』の扉があるはずだから。」
「なるほど。だからあの女は消えたのか。」
一応理屈は通っている。多分見えないだけで『送還』の扉は発動していると思ったほうがいいよね。




