マヌケな男の告解 ~頭の中が真っ白です~
お読み頂きましてありがとうございます。
親愛なるフラウ
君に本当のことを告げずに逝ってしまう父を許してほしい。
君と共に生きてきたこの十年、私はとても幸せだった。反面、常に罪に苛まれてきたのも事実だ。
君は僕が戦争で沢山の人々が亡くなったという理由で落ち込んでいると思っていたのだろうが違うのだよ。
まずは『聖霊の滴』から、話さなければならない。
君は、あの戦争で君に付けられた名前だと思ったかもしれないが実は違う。
歴史は古く1000年以上前から聖霊教会では助言役だったり、奇跡を起こす預言者だったりしている。
そして先代の『聖霊の滴』は僕自身だからだ。
この世界は常にゴブリンやオークといった外敵が理由はわからないが突然変異したり、大量に子供が生まれたりして、戦うことを強いられてきたらしい。
そう言っても、前回そんなことがあったのは500年前らしい。初めのころは数年に1回という頻度で人族も魔法を開発し対抗してきたのだが、その間隔が開くにつれ魔法を使える人がどんどんと減っていったらしい。
そこで人々は考えたのだ。魔法を使える人間が生まれてこないならば、よそから連れてくればいいと。
それが『勇者召喚』だった。
僅かな魔力だが、その場で気絶する代償に人を異世界から連れてこれる魔法だ。
だがそれも、僅かな延命に過ぎなかった。
君も知っている通り、その僅かな魔力も持たずに生まれてくる人々ばかりになってしまったからだ。
最後に『勇者召喚』を行ったこの世界の人は言ったそうだ。
自分の命を差し出すから、代々魔法を使える人を『勇者召喚』してほしい・・・と。
そうして、『勇者召喚』された人々は『勇者召喚』という名前の誘拐を代々行っていたようだ。
僕を『勇者召喚』した人も罪の意識に苛まれていたし、僕を召喚した数年後には死んでしまった。
でも僕は違う。元の世界に妻も子供もいたけど、そんな子供に顔向け出来ないようなことをするつもりも無かった。
だから僕は、これまで『勇者召喚』された人々が築き上げてきた地位やお金を使い調べた。聖霊教会に入り、出世し教会本部の禁書まで調べ尽くした。
そして、ついに見つけ出したのだ。元の世界に帰る方法を、そう『勇者召喚』の術式には元の世界に帰る送還の術式が含まれていることに。
だが違う人間を『勇者召喚』してしまってはこの輪廻は終わらない。そこで僕は考えたんだ。召喚相手を指定できるならば、絶対に失敗する相手を指定すればいいじゃないかと。
絶対に失敗する相手、それは『神』だ。万が一、失敗しても罪の意識を持たずバトンを渡せるし、『神』をその世界から引き離して連れてこれるはずも無い。
もちろん、その場で気絶したら帰れない。だがそれも持っている魔力の量で克服できることも調べればわかった。外敵であるゴブリンやオークといった怪物をこの手で殺せばいいだけである。
僕は『勇者召喚』を行った。
そして、君が現れた。
君の額に描かれた赤い模様を見たとき、あの世界には人間の『神』がいることを思い出していた。
ある国の『クマリ』と呼ばれる女神がいることに。
『クマリ』はある条件の幼女が女神の生まれ変わりだとされている。
そう初潮も迎えていない幼女を誘拐してしまったのだ。
もう僕は帰れない。帰って子供に顔向け出来ない人間になってしまったのだ。
それも最悪の形で・・・
これらのことを伝えなかった理由は君が全てを忘れてしまったからだ。向こうの世界で何があったのか。それとも、『勇者召喚』の衝撃に幼女の君が耐えられなかったのかはわからない。
きっと、この手紙が君に渡っているときには十分に大人になっているはずだ。そして、何かを選択しなければならないときかもしれない。
さらに大問題を押し付けて申し訳ないが、君には元の世界に戻るという選択肢が残っていることを伝えなければならない。この手紙を渡した人物も惜しみない援助を申し出てくれているはずだ。
そうでなくても、僕が調べた全ての情報が君を元の世界に連れて行ってくれるはずだ。
文章はこれだけだった。
2枚目以降には、お父さまが調べ上げた情報が事細かく書かれていた。
☆
「フラウ。大丈夫か?」
誰かが私を揺すっている。リュウキさんだ。
私は1枚目の手紙をリュウキさんに手渡すとあとの残りを『マジックボックス』・・・いや、『箱』スキルの中にそっとしまった。
そう私もリュウキさんと同じ『勇者召喚』された『勇者』で同じように召喚された際にスキルを頂いていることを思い出していた。
「フラウ。君は知らなかったのか。」
ああそうか。彼は私を『鑑定』スキルで見たのだった。
ネタバレが完了したため『異世界転移』の必須タグを設置しました。
「小説家になろう」の運営方針上は設置しなくてもいいはずですが・・・。
これから初めて読む人間が混乱してしまうでしょうか?
ご意見をお待ちしております。




