マンガ家さんだそうです ~誤魔化しきれません~
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「とにかく、ここでは何ですのでお城のほうに来ていただきます。」
エミリー王女が意を決したように発言する。コスプレの話をされて、チンカンプンだったらしい。それは私も同じだけど。
「そうだな。城はどこにあるんだ?」
「ここから、100キロメートルほど西に向かったところにあります。」
「こちらの距離の単位もキロメートルなんだな。それは勇者召喚された人間から伝わったのか?」
「はい。ほかにも1年12ヶ月365日、1日24時間と伝わっておりますが正確な時刻を計ることができませんので若干ズレているかもしれません。過去の勇者さまから伝えられた日時計というもので時刻を知らせる鐘を鳴らしております。」
早朝・昼前・昼・昼過ぎ・夕方・夜に3時間ごと1時間刻みで違う音色の鐘で時刻を知ることができるようになっている。説明に補足しようとして踏みとどまる。ダメダメ、私も知らない側だったんだ。
「そんなところだろうな。シセイはスマホを持ってきたか?」
また知らない単語が出てきた『スマホ』ってなんだろう。結構、過去の勇者さまから伝えられた言葉の意味は伝承されているけど、『コスプレ』とか『スマホ』とかは全く聞いたことがない。
「床に置いた鞄の中に入っていたけど。こちらには着いていなかったな。リュウキはもちろん持ってきていないよね。」
「そうだな。コスプレを楽しむときは、懐に名刺入れくらいしか入れていないんだ。そうじゃないと楽しめないからな。」
良かった彼らも持っていないらしい。私も手ぶらだから、持っていないことにすればいいけど。詳しいことを聞かれたら困るところである。
「リュウキってば、有名な漫画家さんなんだよ。後で名刺貰ってあげようか。」
漫画家ってなんだろう。画家と言うのだから絵描きさんなのかな。しかも有名人なんだ。みんな知っているといことだよね。どうしたらいいのだろう。困ったなぁ。また笑って誤魔化すっていうわけにもいかないよね。
「お前なあ。その手段でナンパするなと何度言ったら・・・『龍騎』というペンネームで漫画を描いています。」
リュウキさんが懐から小さい小銭入れみたいなものを出して、可愛い絵が描かれた掌に乗るほどの角張った紙を渡してくれる。
「ごめんなさいっ!」
知らないものはどうしようもない。これ以上、嘘をつくのは無理だよね。
「ほら、どうしてくれるんだよ。最近の若い女の子は知らないみたいなんだよ。ましてや外人じゃあ無理だろ。」
「言い訳をしない。編集部から催促されている癖に3年間も新作を出してないリュウキが悪いんでしょうが。単行本を出せば50万部は固いっていうのに。そのうち忘れ去られるよ。アニメ化・ドラマ化・舞台化と成功してきたけど。」
「スランプなんだよ。人の傷口を抉るなよシセイ。」
「この絵を描かれる方なんですか。凄い素敵です。それに素敵な声だと思います。」
とにかくリュウキさんを落ち込ませたのが私というのがイヤで必死に褒める。
「この男、自分のアニメの声優どころか舞台の演出までしてるんだぜ。マルチな才能のひとかけらでも分けてほしいもんだ。」
なるほど、声優は声のお仕事なんだ。ひとつ覚えた。舞台の演出はわかるけど、この話題はいつまで続くんだろう。もう限界っ。
「ほらほら、日本人にしかわからない話題だからフラウちゃんが困ってるじゃないか。さっさとお城に行こう。」
限界が顔に出ていたらしい。お父さまにもコロコロ表情が替わってわかりやすいと言われたんだよね。
「ごめんなさい。」
「いいんだよ。それでここから、お城まで歩いて行くんじゃないだろうな。」
リュウキさんが改めてエミリー王女に質問する。リュウキさんは違うのだろうけど。普段、魔法を使って移動するので100キロメートルも歩けない。
「はっ。お話は終わりました?」
あまりにも訳の分からない話題でエミリー王女はうつらうつらと居眠りをしていたらしい。私も訳わからないけど必死で着いていっているのにっ。
「馬車か何かでお城に行くんですよね楽しみ。」
エミリー王女のフォローと話を戻さないために口を挟む。いい加減ここから出て行ってほしい。ここは私の家だ。と大きな声で言えないのがつらい。
「あ、はい。1キロメートルほど先に馬車が置いてありますので、そこまで歩いてください。」
祠の入口で待っていた兵士たちと共にしばらく歩いていくとヴァディス王国の王室の旗がはためく大きな馬車が置いてあった。エミリー王女専用車らしく、内部は可愛らしい装飾がしてあった。