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ウソツキ女の選択 ~仕切り直します~

お読み頂きましてありがとうございます。

「すまない。こんなものしか渡してやれなくて。」


 あれから1ヶ月が過ぎてもゴブリンたちは王宮の周りを取り囲むだけで、手を出してこない。まるで秤量攻めの様相になってきている。


 こちらには『勇者』という名前の食糧倉庫があるから、飢えることは無いがそうでなければとっくの昔に王宮側から攻めているはずである。そうなれば王宮を守るだけの軍備しか持たないヴァディス王国は滅んでいただろう。


 その王宮の謁見の間で『勇者』の襲爵の儀式が行われている。異例ながら一代限りの爵位ではなく領地持ちの伯爵という地位を受けている。その全てがゴブリンたちの支配地域であるため、どこからも反対の手があがらなかったらしい。


 儀式には普段メッタに顔を出さない国王様がその手から儀式の道具が手渡される。


 実質名誉しか無いものになっているが、ほんとうにそれしか今のヴァディス王国には無いから仕方が無いのである。


「恐悦至極に存じます。」


 伯爵の儀式の道具は金色の剣だ。金色だからといって金でできているわけでも無いし、刃も付いていないから剣として役にもたたない。しかも本当なら新品が手渡されるのだが、この状況下で新しく作れるはずもなく、面責された元伯爵から取り上げたものが倉庫で眠っていたらしい。


 そして、ヴィオ国に住む私たちに何故このとき襲爵の儀式が行われているかというと、王宮に籠もっていた人々がゴブリンに対して最後の抵抗を試みるらしい。


 もちろん、その戦いにも私たちは参加するつもりだったのだが私には違う任務がかせられることになった。


 それは『勇者』を帰すことだという。


 最後の抵抗という名前の無駄死にに巻き込まずあの祠の術式を使い、リュウキさんやシセイさんを異世界に帰すことことがヴァディス王国の最後の名誉なのだという。


 そして再起をはかるため、侯爵家の領地にエミリー王女とその子供を住まわせて欲しいということだった。


 そうシセイさんの子供である。もちろんシセイさんもリュウキさんも知らない。知れば帰らないと言い出しかねず、それがヴァディス王国の名誉を傷つけることになるからという理由からだった。


 当然、シセイさんとリュウキさんに知らせず幾度となく説得を試みたが、何ら伝手を持たない私にはろくに動くことも出来なかった。


     ☆


 そして、私たちは祠の壁の術式の前に居る。見届け人はヴァディス王国を代表してエミリー王女とヴィオ国を代表してオールド王子に決まった。


「フラウ。それで君はどうするつもりなんだ。君は言ったよな。『日本に住みたい』と、そして俺は約束した。まさか俺の名誉を守らせてくれないなんてことは無いよな。」


 この場所でリュウキさんが困ったことを言い出した。


 あのときと今じゃ状況が違うなんていうことは彼も重々承知の上で『私を連れて行きたい』と言ってくれているのだ。


 私だって、彼と別れたくは無いし異世界に連れて行ってほしい。だけど私の肩には、ヴァディス王国の未来が掛かっているのだ。ヴァディス王国の再起は無理でも名誉を守っていくことこそが、私を置いてくれたエミリーへの恩返しであり、ヴァディス王国への恩返しであると思っている。


「エミリー王女や領民のことなら心配しなくてもいい。私が王位に着いた際には、侯爵領を新ヴァディス国として独立させることを誓うよ。だから、安心して行っていい。」


「でも・・・。」


 それでは余りにも無責任だ。全てを放り出してリュウキさんの所へ行ったとしたら、後悔し続ける人生を歩むことになるだろう。


 聖霊の神も『親を大切にしろ』と言っている。


 私の父は、この祠で拾ってくれたあの父親であり、勇者召喚と偽った私をヴァディス王国に置いてくださった方々のことである。


 これらを放り出して、自分の欲望のままに突き進めば不幸になることは目に見えている。


 しかし、リュウキさんにどうやって断ればいいのだろう。


 そうか、行かなかったんじゃなく行けなかったことにすればいいじゃない。


「わかりました。では送還が成功した後でエミリーを送り届けるついでにレイティアさんたちに挨拶してから、追い掛けるから待っていて欲しいです。1時間もあるから余裕で戻れると思うよ。」


 確かレイティアさんは、今日ヴィオ国の首都に出掛けているはず、探し回ったあげく会えなくて、ここに戻ってきたら、もう閉じてしまっていたという話なら皆が納得できるよね。


 最後に嘘をついてしまってごめんなさいリュウキさん。


 私は術式の前に立つと魔力を放出する。あのときの数倍の魔力を持つ今の私なら、気絶するなんてことも無いはず。


「動き出したわ。あのときと同じよ。」


 召喚の対象は『大賢者』様である。事前にリュウキさんやシセイさんに聞いて、異世界にそういう人物が居ないことは確かめてある。


 万が一、そういう人物が居たら、逆に幸運である。その人物なら今の状況をなんとかしてもらえるかもしれないからである。


 あっという間に術式からの魔力の吸い込みが止まる。


 いよいよだ。


「あ・・・あれ。どうしたんだろう。術式が元に戻ってしまったわ。失敗したのかしら。おかしいわね。」


 術式の様子をみていたエミリーがそんなことを言い出した。どういうことだろう。確かに送還用の入り口が開く場所にもなんの変化も無い。


「召喚者であるフラウちゃんに迷いがあるんじゃないかな。そうだ。こんなときこそ、お父さんの手紙を読んでみたらどうかな。」


 突然、オールド王子がそんなことを言い出す。


 あのときは確かにこの世界から逃げ出したいという思いで一杯だった。今は迷っている。


 この世界に生まれたものとして、父なる国の名誉を守らなくてはいけないという義務感と愛するリュウキさんの所へ行きたいという欲望が入り交じっている。


 あのお父さまのことだから、聖霊の神の教えに沿ったことが書いてあるに違いない。そしてシッカリ覚悟を決めてしまえばいいのよ。

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