ストレスで胃が痛い ~目を背けたくなるような光景です~
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結局、何度説得しても帰る気が無いオジさんを置いてリュウキさんたちのところへ戻った。
その場に居た案内役の斥候隊の兵士とリュウキさんたちにことの顛末を話すと、私たちは『転移』魔法で簡易砦に戻りエミリーに報告する事となった。斥候隊の兵士たちは何かやることがあるらしく。その場で別れることになった。
「そんなことが・・・。」
報告を聞いたエミリーは唖然とした表情を浮かべた。
オジさんの話によるとゴブリンのメスは妊娠すると半年くらいで出産して次の半年で出産した子供は人族の5歳くらいの大きさまで大きくなり、さらに3年も経てば立派な成人になるらしい。
しかも俗説通り、人族の女性をゴブリンが妊娠させると腹を裂いて子供が出てきて母体は死んでしまうのに対して、ゴブリンにメスの場合は人族の女性の出産のように生まれてくるのだそうである。
「はい。まさか『人族が攻めてくるので逃げて下さい。』とも言えず、救出を諦めて帰ってきてしまいました。」
「いいのよ。それで間違って居ないわ。そうね。襲撃するときに声を掛ける役割を兵士たちに与えるわ。それなら、逃げ出してくれるでしょう。」
☆
「それにしても、この女を皆して甘やかし過ぎじゃないの?」
情報共有のため、エミリーに報告しに行った時からついてきたサキさんが因縁をつけてくる。
「おいサキ止めろ!「だって、兵士が残ったのはその男を殺すためでしょ。敵の味方は敵なのよ。それくらいわかりなさいよ。でないと今に足元を掬われるわよ。考えが甘いのよ。」」
リュウキさんが間に入って止めようとするけど、サキさんは構わずに話し続けた。
「えっ。だって・・・そうか。そうよね。」
あのオジさんもゴブリンたちと意志疎通が出来そうだった。表情には出てなかったけど私たちが攻めてくると察知したかも知れない。
空中を飛んでるのも見られたから、魔法使いということはバレているよね。『聖霊の滴』だとわかったかもしれない。
近々戦闘があるとなれば、ゴブリンたちも十分に準備するに違いない。そうなれば犠牲者が出るのはこちら側になってしまう。
そう言うことならば、不用意に接触した私が悪かったのである。嫌な役目をエミリーたちに押し付けたようなものである。
「サキさん。自堕落で男を落とすことしか考えられない女性だと思ってましたけど、少し話を聞いただけで話の裏の裏まで読み取れるなんて尊敬します。」
私はサキさんの手を取り、手放しで賞賛してみせる。
「急になによ。そんなの当たり前でしょ。」
思って見なかった反応だったのか。うろたえる表情が可笑しい。
「おいおいフラウちゃん。結構酷いこと言っているよ。でも凄いよ。こんな天敵みたいな女の言うことでもそこまで素直に受け入れてしまうなんて。」
前の戦争の時もそうだったが、始まる寸前の緊張感によるストレスで胃が痛い。
戦いなんて始まって欲しくなかったのに早く始まらないかなと思う自分が居る。
私たち4人は襲撃部隊に加わることになった。エミリーは強固に反対していたが4人で話し合って選択した結果である。
私もそうだったが、私たちは他の兵士たちと比べると浮ついた気分になってしまう。そこでゴブリンの子供やメスとかに関係なく襲撃する部隊で攻撃に参加することで覚悟を決めてしまおうという寸法だった。
襲撃部隊の数、およそ100人、多いのか少ないのかと言われれば少ないのかもしれない。3人の兵士でやっとゴブリン1匹と同等に戦闘できるからだ。
ゴブリンの巣の前に私が立ちはだかる。『ファイアボム』と呼ばれる広域魔法は私の半分以上の魔力を使い、およそ1分の時間が掛かるため、こういった戦闘の開始時にしか使えない。
あっという間に巣の全体が火の海に陥る。
驚いて逃げ出してくるゴブリンたちはこちらに辿り着くまでに半死半生状態に陥っていた。子供のゴブリンは目を背けたくなるような状態で死体となりはてていた。
後は仲間の兵士たちやリュウキさんたちの出番だ。それもものの30分ほどで片付けてしまった。
こちらの被害はほとんどゼロに近い。死に物狂いで攻撃してくるゴブリンに弾き飛ばされた兵士たちがいたが『治癒』魔法で全快している。ほぼ完全勝利だった。
☆
だが、勝利の余韻に浸れたのは始めの3日だけだった。
奥に行くに従いゴブリンの巣の規模が大きくなり、『ファイアボム』魔法だけでは網羅できなくなった。そうなれば撤退戦となってしまう。
それでも初めの頃は、簡易砦の前で『ファイアボール』魔法でサキさんと十字放射で片がつくほどだったが、次第に一昼夜戦ってもまだ敵が攻めてくる有り様になっていた。
ゴブリン側の物量の前に多くの兵士たちが負傷しだすと私が夜間に3つの簡易砦を回り『治癒』魔法を使い続ける戦略へと切り換えられていった。
初めはなかなか進まないゴブリン攻略にイライラするエラン王子の姿も見られたが、それでもなんとか1ヶ月後には、ゴブリンが半減し手応えを感じ始めた矢先の出来事だった。
初めは一発の『ファイアボール』だった。私が唱えた魔法じゃなく、死にかけていたあるゴブリンが放った魔法だったのだ。
たった一匹のゴブリンだったが次第に魔法が使えるゴブリンが増えていった。そうなると一気に形勢は逆転した。国境付近を守る私たちにはリュウキさんという力強い味方がいたから、なんとか耐えていたがヴィオ国側もヴァディス王国側も撤退を余儀無くされてしまったのだ。
ヴィオ国のオールド王子は万全の対策を取っていたようで、簡易砦を放棄するタイミングでゴブリンの巣に通じる道に落とし穴を仕掛けており、道自体を使えなくしたことでゴブリンたちの流入をせき止めたようである。
ヴァディス王国のエラン王子は撤退戦を余儀無くされ大幅に兵士たちを減らしながら王都の城壁の中へと逃げ込んだのだった。




