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コスプレって何? ~異世界からやってきた3人~

お読み頂きましてありがとうございます。

「おい大丈夫か?」


 誰かが私に声を掛けている。お父さまの声に似ている気がするが、もうちょっと若い声でとても心地良い声だった。


 目を開くと間近に男性が1人。いや3人。1人はさきほどの王女らしき人物のほうで何かを話している。さらに奥にはお年を召した方が内緒話をするように王女の耳元で囁いている。助言役らしい。


 そして、もう1人は何を思ったか突然文字が描いてあった壁の方向に歩いていったかと思ったら、そのまま消えてしまった。あれは、なんだったのだろう。

 

「ここは?」


 祠だよね。思わず変なことを聞いてしまった。だが返ってきた言葉はもっと変な言葉だった。


「異世界みたいだぞ。途中、神から聞いただろ。夢では無かったらしい。しかも、こんな女の子を巻き込んでしまうなんて、大変申し訳ない。君のことは絶対に俺たちが守るから安心してくれ。」


 この人の声、とても心地良い。とにかく、任せてもいいらしい。


 それに隣国ヴァディスなら私が『聖霊の滴』とバレないかぎり危険性は無い。私のこの顔を知っているヴァディスの人間は居ないはずだし、クオ国内でも屋敷の人間と王族くらいだから。


「フラウと申します。すみません。何か記憶が混乱しているみたいです。」


 一番簡単な言い訳を思いつくとそれを実行した。とにかく守ってくれるというのなら甘えておけばいい。いざとなれば、移動する魔法で逃げ出せばいいよね。


「俺は麻生劉貴(あそうりゅうき)で、向こうにいる彼が穂波志正(ほなみしせい)くんだ。そうだろうな。とにかく、俺たちに任せておけば大丈夫だ。さあ召喚者が待っているから行こう。」


 彼が私を立ち上がらせると王女と思われる人のところへ連れて行った。


「あれっ。この女性だったの。コスプレのイベントに居たっけ?」


「居たさ。居なければここにいるはずもない。それにファーストファンタジー7の精霊のコスプレだろ。」


「ホナミさんよろしくお願いします。フラウと申します。」


 私は丁寧に挨拶をする。挨拶は基本中の基本だとお父さまにしつこく躾られたから、自然にでてくる。


「シセイって呼んでよ。フラウのことも呼び捨てでいい? ファーストファンタジーの精霊か。随分マイナーなの選んだね。この格好じゃあ注目されないよ。せめてもう少し露出を増やした格好をしないと。せっかくこんなに可愛いんだからさ。」


「俺のこともリュウキと呼んでほしいな。だからシセイ、いつも言っているだろ。コスプレイヤーの中には、そのキャラになりきるのが目的の人間と注目されてスターの気分になりたい人間が居るんだって。フラウちゃんはなりきるタイプだな。どうみても既製品じゃないし高そうな生地使っているぞ。」


 リュウキさんの視線はとても柔らかくて他の人と違う。


「もうひとつコスプレイヤーの仲間に入るためなら、どんな格好でもお構いなしの人間も居るけどね。女装しているのに女性の仕草ひとつしないのは気持ち悪いよね。」


「あれば例外だ。出入り禁止のカメラ小僧が編み出した技だからな。正直言って俺もあれは気持ち悪い。キモイ以前の問題だ。」


 目の前で奇妙奇天烈な会話が展開されている。コスプレってなんだろう。


 どうやら、私の格好がそのコスプレに合致するらしい。


「ようこそ勇者さま。ヴァディス王国の王女エミリーと申します。」


 少し腰を落として王女らしい挨拶をする。決して頭を下げないのが特徴である。それでも会釈するだけ、マシかもしれない。ヴィオ国では常に見下す態度が普通の王族も居たから。


 勇者さまか。やはり、壁に描かれた術式は勇者召喚のものだったらしい。人々から魔法の使い方が失われたと同時にこういった術式も失われたと思っていたんだけどまさか、私が暮らしていた祠にあったなんて。ヴァディス王国の王室には密かに術式の読み方が伝わっていたのね。


「先ほどは失礼しました。シセイです。こちらの女性がフラウさんであちらの男性がリュウキです。」


「突然、召喚されたんですもの。混乱されるのは仕方がありませんわ。」


「しかし、戻れると聞いて安心しました。」


 シセイさんとエミリー王女が話していたのは、元の世界に戻る方法らしい。きっと王室に異世界に戻る術式も伝わっているのね。この祠のどこかにあるのかもしれない。


「早速ですが勇者さまの能力を教えて頂けないでしょうか?」


 あう。早速拙い質問がエミリー王女から出される。『聖霊の滴』として有名な怪我を治す魔法と場所を移動する魔法は絶対に秘密にしなくては。


「そうですね。僕は神さまにこの世界では簡単な魔法しか使えないとお聞きしましたので、この攻撃力補正がついた剣と『成長』スキルを頂きました。」


 勇者はこちらの世界にくるときに、神さまから何かを貰うらしい。私はといえば『聖霊の滴』で有名な魔法は言えないから日常魔法とこの魔力くらい。


「俺はこの防御力補正がついた盾と『成長』スキルを頂きました。」


「それは素晴らしいですね。ではそちらのお嬢さんは如何ですか?」


 彼らの話を聞いたエミリー王女の顔に影が陰ったと思ったのは気のせいだろうか。


「私は・・・簡単な魔法と『魔力』スキルを頂きました。」


 彼らと同じようなことを言うことにする。


「やっぱり異世界に来たら、魔法使ってみたいよね。わかるよ。その考え。まあ君は僕たちが守ってみせるからさ。安心してよ。」


「元々、神さまに仕える仕事をしていたお陰か相性がいいと言われてそれで選んでみました。」


 こう言っておけば、将来、怪我を治す魔法や移動する魔法が必要になった場合に言い訳できると考えておいたのだけど。


「へぇー職業チートだ。いいな。神社の巫女さんも似合いそう。」


「外人なんだから、神官見習いか。シスターだろう。」


 リュウキさんが話に入ってくる。


「そうなんです。神官見習いです。」


 聖霊教会でも神官のお手伝いだったからこれでいいよね。


「フラウさん。素晴らしいです。」


 エミリー王女が私の両手を掴み、ブンブンと振り回してくる。よほど嬉しいらしく今までの笑顔が作ったものとわかるほど満面の笑みを浮かべている。


「そ、それでどんな魔法を使えるんですか? 聖魔法? それとも属性魔法? 闇魔法じゃないですよね。」


「ごめんなさい。聖魔法がどんな魔法かわからないものでなんとお答えしたらいいか。」


「そ、そうですよね。えっと、聖魔法は怪我を治したりできる『治癒』魔法とか場所を移動できる『転移』魔法とかあるみたいなんです。属性魔法は『火』『水』『風』『雷』それぞれに関する魔法のことで、闇魔法はよくわかりません。」


 これは聖魔法と言うべきじゃないよね。モロに『聖霊の滴』のことを指しているみたい。


「属性魔法かもしれません。神さまが教えてくれたのは『ウォーター』と『ファイア』でしたから。」


 右手で水を出しながら、左手の掌に炎を出してみせる。


 これらは、お父さまが昔話で教えてくれたものを自分なりに再現してみたもの。


 もちろん、風を吹かせる魔法も雷を落とす魔法もある。


 本当は攻撃する魔法もあるけど、1度お父さまにお見せしたときに悲しい顔をされて『使ってはいけない』と仰られたので戦場でも使っていない。


「いいな。神さまも可愛い女の子には優しいんだな。僕なんて教えて欲しいって言ったのにズルいな。」


 拙い拙い。イロイロとくれる神さまなら魔法の使い方くらい教えてくれると思ったんだけど、先走ってしまったみたい。


「それはそうだろう。あのヤマダっていう神さまも男だったじゃないか。可愛い女の子には優しいさ。」


 リュウキさんも一緒になって会話に入ってくる。神さまは男だったんだ。聖霊教会の像は女神像だったから、女神さまと勝手に思っていたけど、先走らなくてよかった。


「可愛いって言って貰えて嬉しいです。ありがとうございます。」


 とりあえず、会話の方向性がそちらにいったのでその流れに乗っておくことにした。


「ほら、こうやって一生懸命にお辞儀をする姿のほうが、『グッ』とくるだろう。こういうコスプレイヤーのほうが変に露出した格好をしてカメラ小僧を集める女よりも人気がでてくるものさ。」


 コスプレの話に戻ってしまった。この流れにも乗れないのでニッコリと笑っておくことにする。


「うわあ。本当だ。いま光輝く笑顔が見えた。僕が君の一番のファンだ。」


「全く調子がいいんだから。そのセリフ何回目だよ。1回のイベントで5回は聞いているぞ。」


 シセイさんは調子のいいことを言うタイプらしい。本気にはしないほうがいいみたい。


 それでも、その場はみんなで笑いあえてそのノリに乗せて貰った。

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