ツラかったのかな ~涙が溢れ出して止まらない~
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結局、ヴァディス王国は国境の砦こそ合同で建設し、防備戦力も折半となったが国境の主力攻撃部隊は私たちとヴァディス王国の兵士たちが担うことになった。
ゴブリンの巣へのルート上へ簡易砦を建設することで砦を落とされない限り、それぞれのルートでゴブリンの流入を食い止めれる。
ルートの両側が谷底になっていることから、当初ルートの山道を取り壊してゴブリンの流入を食い止める案も提示されたのだが、同ルートが海辺に出る最短ルートであったことから、ヴァディス王国の辺境伯から強硬な反対にあい成立しなかった。
海辺の村々と断絶してしまうというのが理由らしく、危険を冒してまで届けられる海産物が辺境伯領の主要な収入源らしい。
「良かった! フラウちゃん生きていたんだ。でも何故『聖霊の滴』が勇者たちの仲間に・・・?」
勇者の紹介を行うために進み出た私の姿を見てオールド王子が駆け寄って来た。
とうとうヴァディス王国の王族たちに私の正体がバレてしまった。
お父さまの襲爵の際に1度、面と向かって会っただけなので覚えていない可能性に掛けてみたのだけど無駄だったみたい。
「この娘が『聖霊の滴』なのか? オールド。」
「そうだ。可愛いだろ。こんな女の子をアイツは追放どころか処刑しようとしたんだ。私はクルミの死から立ち直っておらずアイツの動きを察知できなかった。あんなにクルミに気をつけるように言われていたのに。」
ヴァディス王国の王族たちに動揺が広がるかと思われたが私の顔を食い入るように見つめるばかりで意外と動揺している姿ではない。
想像していたのと反応が違う。
「私の好感度が。王族たちを操れるように上げた好感度が・・・。」
隣でサキさんが何かを呟いているが意味がわからない。
「フラウが『聖霊の滴』・・・そんなっ。」
でも一番動揺しているのはエミリー王女だった。
「ごめんなさい。黙っていてごめんなさい。結果的に騙してしまってごめんなさい。」
私は周囲の人々に謝り続けた。
「エミリーよくやった。勇者召喚を成功させるだけでなく『聖霊の滴』まで連れてくるとは。俺は兄として誇りに思うぞ。本当に可愛いな君は。我が国に来てくれてありがとう。こんな危機に立ち向かってくれてありがとう。」
意外にもエラン王子から出た言葉はエミリー王女を賞賛する言葉と私に対する感謝の言葉だった。
私は訳が分からず、周囲を見回すがリュウキさんもシセイさんもこうなることを知っていたかのように頷くばかりだった。
☆
「フラウ。どういうことなの?」
控え室に戻るとエミリー王女に捕まった。
私はこれまでの経緯を説明した。
サキさんにオーディンを寝取られて、お家を取り潰され、処刑されるところを逃げ出して、祠で貧乏生活を送っていたことを話した。
そこまで話し終えたところで私はエミリー王女に抱きしめられていた。
「大変だったのね。そんな言葉じゃあ言い表せないわね。ツラかったね。良く頑張って生きてきたね。」
その言葉を聞いた途端に瞳に涙がせり上がってくる。
涙が止めようと思っても止まってくれない。
ツラかったのかな。大変だったのかな。
聖霊の神を信じないつもりだったけど、死を選ばなかったのは聖霊の神の言葉であり、お父さまの言葉だった。
それにレイティアさんをはじめ、国境の村々の人たちはとても優しかった。生きていて良いんだと感じられた。
マッサージをすれば対価と共に優しい言葉もくれたし、他の人々もこんなどこの誰ともわからない人間に声を掛けてくれた。
侯爵家令嬢として、何不自由なく生きていたと思っていたがあれこそが閉鎖的で不自由な生活だったと思い知った。
いつの間にか、私は声を出して泣いていた。
誰にも言えなかった。
ツラいなんて思ってはバチが当たるとさえ思っていた。
甘えていいんだ。ここに甘えさせてくれる存在がいる。
そして仲間が居る。ここに居ていいよと言ってくれる仲間がいる。
「ゴメンね。そして、ありがとう。私の傍に居てくれてありがとう。」
ようやく涙が止まってくれて、皆を見回してお礼を言う。
そこにはサキさんも居たけど、まあいいや。




