セーブポイントって何でしょう ~偏見の塊ですよね~
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目の前ではヴィオ国とヴァディス王国の会議が行われている。
私たちは衝立の中で出番が来るのを待っている。
遡ること2週間前、ゴブリンの巣の斥候隊からとんでもない報告がもたらされた。
ゴブリンの巣が両国間での戦争前に調査したときよりも数十倍に増えているらしい。
どの巣でも100から200のゴブリンが生活しているらしくて、女や子供も含めると数万にも上るということだった。
そのことは隣国のヴィオ国にも伝えられ、合同の調査チームが組まれて、つい3日ほど前に大人の男のゴブリンだけでも1万を超えているだろうという推定結果が出たところだった。
しかも、両国の南部に位置するゴブリンの巣の周囲には食料となる森の恵みが不足してきており、いまにもゴブリンたちがこちらに移動してきそうだという話らしい。
そこで、両国間ではゴブリンの巣に攻め入る作戦を立てている最中だという。
ゴブリンの巣に至る道には、ヴィオ国側、ヴァディス王国側、国境付近と3通りのルートがあってどの国がどの程度の戦力を投入するかが課題となっている。
そこでヴィオ国の作戦のトップである王太子がやってきて話し合いが行われている。
ゴブリンとはいえ亜人と戦うことに消極的なヴィオ国と『勇者』を持つがために多くの戦力投入を迫られているヴァディス王国という構図が出来上がってきており、話し合いが紛糾しているようである。
実はゴブリンの生殖能力に密接な関係があるらしい。本来ゴブリンは他の亜人と交配し増えるはずなのだが、亜人の中でも人族に近い女性のほうが交配に成功する確率が高いらしい。
つまり、ゴブリンたちが攻め入ってくるとしたら、ヴァディス王国側のほうが可能性が高いらしい。
「だから、我が国は『勇者』を投入するのだから、ヴィオ国も『聖霊の滴』を投入すべきだ。」
先程から聞いていたが結局、実務者同士の話し合いは終わり、トップ同士の話し合いで大筋を決めようというわけらしい。
ヴァディス王国のエラン王太子が発言すると会議場には重苦しい空気が流れてくる。
きっとヴィオ国のオールド王太子は困った顔をしているよね。なにせヴィオ国には『聖霊の滴』が居ないから投入したくても出来ない。
まさか、ここに居るとは思ってもいないだろう。
「『聖霊の滴』を投入したくても、我が国にはもう居ないんだ。」
散々、思考を逡巡したのだろう。随分と時間が開いてから、オールド王子の声が聞こえた。
「何っ。『聖霊の滴』を追放したという噂は本当だったのか。耄碌したかオールド。愚かな真似をしたな。」
「第2王子の独断だったとはいえ、返す言葉もない。」
「あんな弱虫で大馬鹿のオーディン王子に任せたお前が悪い。先の戦争で左足首を欠損したとはいえ、お前のほうが何倍も優れているんだから。杖をついても、お前が都を治めるべきだったんだ。」
「高く評価していただけるのは嬉しいが、私の能力なんぞオーディンと大した違いは無い。私にはクルミの助言があったからこそ能力を発揮できたんだ。そのクルミももう居ない。」
「亡くなったんだったな。」
ウソ! あのクルミ様が亡くなっただなんて嘘よ。5年前にお父さまの襲爵の際にお会いしたときにはあんなにお元気だったのに。何があったの。
「何故なんだ。何故クルミだけ時間の流れが違うんだ。過去に勇者召喚された人々は我々以上に長寿だったというのに何故クルミだけがこんなっ。」
「・・・そんなっ。」
声をした方に振り向くとサキさんが青い顔をしていた。
「『セーブポイントに戻る』を繰り返したんじゃないのか。その度に肉体年齢だけが加算されていったとしたら、辻褄が合う。サキちゃん、前回のセーブポイントはどこだった?」
またシセイさんがわからないことを言い出した。
「『聖霊の滴』の正体がリュウキにバレた所で強制的にセーブされたわ。」
サキさんが私を見て凄く悔しそうな顔をする。だから、そのセーブってなに?
「どこまでも忠実に『聖霊の娘』を再現している世界観だな。」
「忠実じゃないわよ。リュウキたちに会ったあとは『セーブポイントに戻る』が使えなくなったのよ。それは無いわ。」
サキさんが本気で膨れっ面をしている。
「それはマルチプレイモードに移行したからだろう。都市伝説だとばかり思っていたが運営が動かしている攻略対象が居るときは『セーブポイントに戻る』が使えないという情報が公式サイトの掲示板に書いてあったぞ。」
「なんでそんなに詳しいのよ。まさか、男のくせに乙女ゲームをやり込んでいたなんて言わないでしょうね。」
「それは性的差別だぞ。俺の場合は、姉ちゃんがプレイするために情報を集めさせられていたんだよ。」
「あのキミコさんが? 嘘よ。バリバリのキャリアウーマンのキミコさんが乙女ゲームをするの?」
「あんなの見た目だけだよ。今でこそ描いてないけど同人誌活動していたときもあるバリバリのオタクだぞ。修羅場のときなんか、1週間も風呂に入らなくても平気そうだった。」
「止めて! イメージが崩れるじゃない。キミコさんは私の理想像だったのに。」
「漫画雑誌の編集者がオタクじゃないわけが無いだろ。」
ーーーお父さま。あのクルミ様が亡くなったそうです。
しかも、『セーブポイント』というものが原因なのだそうです。
このセーブポイントっていったいなんなのでしょう?




