フラフラしません ~義務を全うしたいんです~
お読み頂きましてありがとうございます。
「ごめんなさい。試したりして、フラウちゃんが言いたくないことを言わせてしまったよね。」
試す?
「試したって。いったいどういうことでしょうか?」
「あのね。シセイにマッサージのやり方を教えて欲しいって、お願いされたの。」
「そうなんだ。よく考えたら、この世界でできることが何も無いんだ。魔物の討伐はそれで給料を貰っているから、冒険者ギルドで受けたら二重取りになってしまうわけだし、そんなお金でプレゼントを買うわけにもいかないじゃないか。それでマッサージができるという、フラウちゃんから技を盗もうと思ったんだ。」
「それでフラウちゃんがやってくれた手順と強さを教えていたんだけど。この通り、身体中アザだらけにされてしまったのよ。」
確かにレイティアさんの身体中アザだらけになっていた。今の今まで情事の痕だと思っていたけど、腕の辺りまであるのはおかしいよね。
「せっかく綺麗に治したのになんてことをするんですか。あれっ。でも裸で抱き合っていましたよね?」
「レイティアさんの指示通りの強さでマッサージしていたら、物凄く汗を掻いたから上半身のシャツを脱いだだけだよ。」
じゃあ私の勘違いなの?
それであんなイヤラシイ想像をして、芋ずる式に全ての嘘がバレてしまったというの?
なんていうバカだ私は。
「それで試して何がわかったんですか?」
「フラウちゃんはシセイが好きなのかなって。好きなら、お節介を焼いてみようかなと思ったんだけど。本当にいらないお節介だったね。」
そうか。私もわからなかった私の感情を読み解いてくれたんだ。
「とにかく、そのアザは治しますね。」
私は、アザの一カ所、一カ所に『治癒』魔法を唱えていく。
「ええと。この頚元にある茶色くなっている奴は、どうしましょう?」
これは明らかに情事の痕だよね。
「俺は違うって、そんな所は触って無いぞ。」
ふふふ。何を焦っているんだか。
「わかってます。ちょっと古いのであと1日あれば自然と消えていくと思いますけど。」
「ちっ。昨日の客の奴だね。痕になっていないといっていたのに。時々いるんだよ、痕を付けたがる男が。ゴメン、それも消しておいてくれるかな。」
レイティアさんの身体を全て点検してアザがもう無いことを確認した。
「シセイさん。マッサージを習いたかったら、別の人に頼んでください。」
私のマッサージは『治癒』魔法を使っているから、他の人にはちょっと無理だよね。『ファイア』魔法で温めた温石と『治癒』魔法で凝りを取りやすくしているからこその効果で力ずくでやればアザにもなる。
「それって、どういうこと。まさか、俺たちの前から居なくなるなんてことは無いよね。」
「さあ。おふたりのお心次第ですね。もう運命に抗わないことにしました。全てをエミリー王女に話して頂いても構わないです。直ぐにでも異世界に帰りたいというのであれば、お送りすることも可能です。リュウキさんにも告白したほうがいいですよね。」
自分ひとりでもボロを出してしまったんだ。これを他人にやってほしいというのは無理だよね。
「ちょっと待った。エミリーに話したいけど、話したらどうなるんだ?」
「さあ。良くって監禁されるか。即座に殺されるか。抵抗できないように奴隷にされるか。それとも戦争の道具にされるか。どちらにしてもエミリー王女は私を使って貴方たちを異世界に送り返してくれると思いますよ。レイティアさんは如何ですか?」
親友と言ってくれるエミリー王女だけど、楽観はしていない。彼女は王女の役割を放棄するような女性では無いはず。
「『聖霊の滴』にもフラウちゃんにも感謝しか無いよ。シセイみたいな中途半端な奴に任せておけないね。フラウちゃんは私が守るよ。」
嬉しい。そう言ってくれる人が居るということは幸せなことよね。でも無理だよね。
「中途半端って。仕方がないじゃないか。右も左も知らないこの世界に放り出されてどうやって生きていけというんだよ。」
「シセイのは知らないんじゃない。知ろうとしていないんだ。誰かに聞けよ。嘘か本当かわからないんだったら100人に聞けよ。100人が100人共、嘘を教えるとでも思っていたのか? シセイは何もしてないじゃないか。」
「うぐっ・・・。」
「なまじっか近くに王女という人間が居たから、余計聞けなかったのかもしれないが。拘束されていたわけじゃ無いんだろ。物語の主人公になったつもりでハーレム形成か。守るって約束したんだろ、勇者なら勇者らしく、お姫様を守ることだけを考えろよ。」
「とにかく、私は彼らを送り返すという義務を投げることだけはしたく無いんです。だからレイティアさんにただ守られるつもりもありません。」
「フラウちゃんがここまで言っているのにシセイは、これまで通り中途半端なままで、あっちへフラフラ、こっちへフラフラでいいのか?」
「くそっ。まるでこれまでの人生を見てきたようなことを言いやがって、好きでこんなにふうに生きているんじゃ無いんだよ。」
「わかるんだ。村に居たときの私とソックリなんだよ。村に飢饉が襲い、私の容姿は切り札として有効活用されたけどな。あのままだったら、シセイと同じようにあっちでいい顔して、こっちでいい顔する生活を送り続けていただろうよ。」
「売られるために・・・?」
「ああそうさ。農作業も繁忙期しか手伝わされず、人との調整役ばかりの仕事だった。それがいきなり娼館での生活だ。覚悟していたとはいえ、この容姿を磨き上げてくれたフラウちゃんが居たから、こんな生活を送れているけど。それが無かったらと思うとゾッとするね。」
ーーーお父さま。レイティアさんに想像を絶するような告白をされてしまいました。
私には掛けてあげられる言葉を見つけることが出来ませんでした。情けないです。




