イモヅル式に嘘がばれました ~嘘をつくことに疲れました~
お読み頂きましてありがとうございます。
ーーーお父さま。何故、嘘がバレるときは、芋づる式に全てバレてしまうのでしょう。
「それで何がダメなのか。教えてほしいな。俺には聞く権利があるよね。」
私はレイティアさんの部屋の中に引っ張り込まれて、真剣な表情のシセイさんに問いただされている。
シセイさんの顔にはアザが出来ている。全力で拒否するときにグーで顔にパンチを入れてしまったらしい。
「えっと、私の前で・・エッチな・ことを・・・しないで欲しいの。」
つっかえ、つっかえ、だけど咄嗟にしてはマズマズの言い訳が口から出てくる。
「エッチって?」
「さっきレイティアさんと抱き合っていたじゃないですか。ああいうのダメなんです。」
「ははん。部屋を覗いていたのか。それで俺の顔を見た途端にエッチなことをされると思ったんだね。」
何故、こんなにも異世界の人は話を繋げるのがうまいのでしょう。
そのものズバリで思わず頷いてしまった。
「フラウちゃん。それは欲情というごく一般的な感情なの。貴女がシセイさんにエッチされたいと思っているの。」
そんなバカなことって。欲情って何?
どうして、そんな理解できない感情が私の中にあるの?
じゃあまさかシセイさんが浮気していた現場を押さえることになってしまったのも私の理解できない感情せいなのだろうか。
「エミリーが幸せそうに笑っているのを見て、浮気されているのを知ったらどうするだろうと、ついついシセイさんを見かけた店を目で追ってしまったのもシセイさんが好きだったからなんですか?」
「そうよ。それも焼きもちという感情よ。ふたりの仲をぶち壊したいと思っただけなの。」
焼きもちって、嫉妬ということだよね。聖霊の神も嫉妬は人間を堕落させるものだと仰っている。
そんな醜い感情が私の中にあるなんて信じられない。
「どうして、あんなこと。エミリーを傷つけてしまったのも私のせいなのね。」
なんと罪深い。まさに堕落。私は堕落してしまったんだ。
「フラウ・・ちゃん・・・君があの場にエミリーを連れてきたのか。」
シセイさんの眼光がさらに鋭くなる。
ごめんなさい。ごめんなさい。
私のせいなんです。ごめんなさい。
「待ちなさいシセイ。それは結果であって、その場所に必ず君が居る保証は無い。君が浮気をしたことが悪いんであって、フラウちゃんを責める権利は無い。」
「相手の女性もヴィオ国に亡命することになってしまったのも私のせい。取り返しがつかない。」
「だから、シセイが浮気していたことが悪いんだって・・・ええっ。なんで浮気現場を押さえたくらいで亡命なんてことになるのよ。」
「それは、エミリーが王女だからです。」
「えええっ。王女って、勇者召喚を成し遂げたという? それじゃシセイは王女のパートナーであり、異世界の勇者なの?」
異世界の勇者が召喚されたことは、お披露目で国中に知れ渡っているらしい。
「そうですよ。俺とリュウキという男とフラウちゃんが異世界から召喚されました。勇者と言っても何も出来ないですけどね。」
「そんなバカな。異世界から召喚されたのって、ほんの2ヵ月ほど前のことでしょう?」
「正確には70日ほど前になります。」
「だって私がフラウちゃんに出会ったのは1年ほど前なのよ!」
全てバレてしまった。もうここまでくれば全てをお話するしかない。
「今、思い出す。召喚されたときのことを思い出すから、ちょっと待って・・・・・・召喚されたとき、俺たちの近くに居たよな。」
「はい。訳があって、あの祠が私の住処だったんです。勝手に住んでただけなんですけどね。」
「なるほど、逆なんだ。フラウちゃんが住んでいるところへ俺たちが踏み込んだだけか。」
「初めに入ってきたのは王女たちで、何やら魔力がどうのという話を聞いて魔力をイメージしていたら、術式に魔力を吸い取られてしまったんです。」
「・・・なんてこった。召喚は偶然だったのか。道理でエミリーが属性魔法を使えるようにならない訳だ。ならエミリーが言っていた異世界に戻れるというのは嘘なのか。そんな! 俺たちは帰れないのか。」
シセイさんが愕然とした表情になる。
「嘘じゃないです。私が祠の術式を解読したところ、あの術式で送還もできます。安心してください。」
「調べてくれていたんだ。ありがとう。」
「お礼なんて。私が術式に魔力を投入しなければ、貴方たちは召喚されなかった訳だから。なんとしてでも、私には送り届ける義務があったわけです。」
「じゃあやっぱりエミリーだけでは無理だったんだな。召喚できたんだから、送還もできると思い込んだというのもわからない話じゃない。じゃあリュウキが勝手に召喚に巻き込んでしまったと思い込んだんだな。」
「ええまあ、実際にこの世界でリュウキさんに見つけられてしまい。勇者召喚に巻き込まれたわけですね。」
「確かに思い出してみると一緒に召喚されたなんて一度も言ってないよね。でもどうして本当のことを言ってくれなかったんだ。」
ここで私は改めて覚悟を決める。
「私はこの世界で『聖霊の滴』と呼ばれる存在なんです。」
「「『聖霊の滴』」」
「はい。このヴァディス王国では悪魔として罵られる存在なんです。」
「そんなことないわよ。『聖霊の滴』は聖霊の神の使徒であって、聖霊教会では先の戦争を止めるために尽力したと教えられているわ。私たち国民に取って戦争のほうが災厄そのものよ。」
レイティアさんが否定してくれる。確かに聖霊教会は初めから戦争には反対で『聖霊の滴』が戦争を止めたと喧伝している。でも私ができたことといえば、一方的な介入でしかない。
「それでもエミリー王女に取っては一方的に加担した悪魔なんです。」
「じゃあ、あの場で本当のことを言えば、エミリーに殺されていたのか?」
「いいえ。私には『転移』魔法がありましたから、逃げられたと思います。」
まあ、一時的に逃げるところはあっても追いかけられる生活を強いられることになっていたでしょうね。
「じゃあ君は殺される危険を侵してまで、俺たちを送還するために残ってくれたのか。」
「結果的にはそうなりますね。本当はこの世界に居場所の無い私は異世界に逃げ出したかったのです。自分勝手でしょう?」
「結果的って・・・ヴィオ国では英雄的存在なんだよね?」
「いいえ。サキさんに私の婚約者だったあの男を取られて追放された。少し魔法が使える醜い心を持った女でした。」
「『聖霊の娘』でいう公爵令嬢なのか。もしかして処刑されるところだった?」
「そうですね。身の危険を感じたせいで封印が解けて『転移』魔法で逃げ出せたようです。」
「じゃあ完全に被害者じゃないか。異世界の人間のせいで追放されて、異世界の人間のせいで身の危険を侵しているなんて。」
「でも、嘘をつきました。その嘘を隠すために沢山の嘘をつきました。」
嘘をつくことに疲れるくらいに嘘を塗り重ねていきました。
「その嘘さえも俺たちのためじゃないか。なんてこった。君を守ると言いながら、君に守られていたなんて。恥ずかしすぎるぞ。」




