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ザマァミロだわ ~祠にて~

お読み頂きましてありがとうございます。

「ここ何処?」


 今、気絶から立ち直ったと思ったけど。ここはきっと死者の世界なのね。真っ暗だもの。


 あれから気絶したまま、処刑されてしまったんだわ。


 気絶したまま女の処刑を公開しても面白くなかったでしょうね。


 『ざまあみろ』だわ。


 しかし、どこまで歩いて行っても真っ暗ね。


 真っ暗で何も見えていないのに足元はわかる。不思議なんだけど死者の世界なんて来たことが無いから、正直言って何が正解なんて、お父さまでもわからないに違いない。


 お父さまは迎えに来てくれないのかしら。来てくれないでしょうね。最後の最後に思ったことがあんなことだものね。きっとお父さまは聖霊さまの近くにいて、私はずっとずーっと遠くのほうに居るんだわ。


 あは。


 あれだけ、聖霊の存在を否定したくせに、もう聖霊さまのことを考えている。


 もうクセになっているのよね。きっと。


 あ、向こうのほうは明るいわ。


 ようやく明るいところが見えだしたので先を急いだのだけど・・・。


「何よ。ここ祠じゃないの。」


 明かりは朝日で祠の入り口だった。


 ここは以前私が住んでいた祠。お父さまに出会った場所。


「元に戻っている。」


 自分の身体を見るとこの祠で暮らしていた当時の姿に戻っていた。


 お父さまが慈しんでくれた姿はもうそこになかった。


 どうやら命の危機がお父さまが施してくださった封印を解いてしまったようだ。


 そこにはお父さまの娘フラウじゃなく、『聖霊の滴』と隣国から恐れられた私の姿があった。






















 私が不思議な力に目覚めたのは、いつだったかしら。そうお父さまに引き取られて聖霊教会で暮らすようになったときだったわ。近隣のお年寄りたちにマッサージを施す日だった。ひとりの老婆の腰痛が治ったことをきっかけに私のマッサージは評判になっていた。


 あるとき、聖霊教会で揉め事があった。私のマッサージが近隣の医師たちの仕事を奪っていると問答になり、お父さまがひとりの医師に殴られてしまったの。


 私は、冷たい水に浸した手拭いで一生懸命、お父さまのほっぺたを冷やした。そしたら、スッと治ってしまった。そう私の不思議な力がお父さまのほっぺたや老婆の腰を治していたようなの。


 そしてもうひとつ不思議なことがあったわ。お父さまと出会って何年も経つというのにずっと同じ姿のままだった。どうやら私は人間じゃ無かったみたい。


 昔、人間は魔法と呼ばれる不思議な力を使えたそうだったけど、いつしかその力を使えるものが居なくなってしまったという。こんな力は誰も使えないのが普通だ。


 だから、お父さまは隠した。聖霊教会の書庫を漁り、封印する方法を探し出して私に施した。そうするとお父さまの思いが聖霊さまに通じたのか。力は使えなくなり、私は成長する普通の人生を歩み出した。


 だがそれも長くは続かなかった。隣国ヴァディスが攻めてきたのだ。お父さまも戦死者を弔うために戦争にかり出されることになり、私も同行することとなった。


 多くの戦死者を出す戦争はいつしかお父さまの心を蝕んでいき、ついに私の封印を解除して戦争を終わらせることを決意するに至った。


 封印を解かれた私は私の中にある魔法の力で何が出来るかを把握しており、兵士の怪我を治したり、兵士たちを敵の中枢へ移動することでお父さまの言う通り戦争を終わらせることが出来たのだった。


 それは、国の中枢部の知るところとなり、お父さまは名誉侯爵という地位と財産を得ることになった。


 だがお父さまの心を蝕んでいたものは止まることは無かった。もう戦場に駆り出されないように封印は施し直されたが、お父さまの心はいつしか病んでいったのだった。


 お父さまが病気になったときも死んでしまったときも封印は解けなかったというのに、いまさら封印が解けるなんて・・・。


















 そこからは貧乏生活が始まった。


 近くの村でマッサージをして、お金を得る生活。決して評判にならなように、活動する村々を点々する生活をおくっていった。家は祠で生活してなんとか食べるものには困らない程度のカツカツの生活。


 復讐は決してしてはいけないとお父さまから教えて頂いていたし、オーディンやキララという女の顔を見たくなかったこともある。唯一の贅沢は、お父さまから頂いたこの服を買うこととお父さまが好きだった髪型をすること、いつしか髪型や姿も元通りに魔法の力で維持できるようになっていったけど。


 そんな生活を送り出してしばらく経ったある日のことだった。


 もうすぐ明け方という時間に目が覚める。それ自体は珍しくない、聖霊教会で生活していたときからの習慣でお父さまが名誉侯爵となった後も続いている習慣。


 でもその日は違った。祠の入り口付近で煌々と灯りが点されていたのだった。


 誰かが壁に描かれた文字を見ながら、ボソボソと喋っている。


 私は移動する魔法をいつでも使えるように準備しながら、声が聞こえるところまで近づいていった。そこに居たのは、隣国ヴァディスの人間らしく。その服装に見覚えがあった。


 この祠は隣国ヴァディスとの国境付近に位置しているので、ヴァディスの人間が現れてもおかしくない。おかしくないのだが、そこに居た少女の服装や言葉遣いがとても高貴な人間がする喋り方だった。


 長くオーディンの兄である王太子や王女たちに接してきたので間違い無いはず。


 隣国ヴァディスの王女ということになる。そんな女性がこんな寂れた祠に何か用事があるとは思えないのだが・・・。


 未だ隣国ヴァディスとは休戦状態で良好な関係とは言い難い。オーディンたちに頼まれて私のことを調べにきたとは思えない。


 ん。今・・・魔力と言った?


 お父さまの話では、普通の人間でもわずかな魔力は持っているらしい。だがそれの使い方がわからないのだそうだ。


 私にはわかる。戦場で散々使ったから・・・魔力をどうするというのだろう。


 そう思いながら、いつしか掌の上に魔力が流れ出した。拙いと思いながらも止められない。無理やり私の中から魔力が吸い出されていく。


「どうしたのかしら。突然、術式が動き出した。私が上手く魔力を放出できたの? やはり我が王室の人間は大きな魔力を持って生まれてきたんだわ。」


 それが私が気絶する前に聞いた最後の言葉となった。

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