チップが貰えるそうです ~私はなんて愚かなんでしょう~
お読み頂きましてありがとうございます。
「お姉さん。なかなかやるね。俺の出番が無くなっちゃった。」
本当にレイティアさんは凄いね。シセイさんもしっかりと支えてくれたので頼もしかった。
「本当だよ。坊や。男ならもっとガツンと行ったらんかい。」
「そんなこと無かったです。あの場に男の人が居てくれて助かりました。」
まあそれが不純な動機で覗きに来ただけにしても・・・。
「そうかい。それならいいんだけどね。フラウちゃんも彼氏がねえ。」
ヤバい。万が一、エミリー王女にバレたら大変だわ。しっかりと訂正しておかなきゃ。
「いえ違うんです。私、シセイさんの彼女のお家に居候していて、売り言葉に買い言葉でつい言っちゃいました。ごめんなさい。シセイさん。」
そういくら頼もしくても、シセイさんはエミリー王女のものなんだから。
「そうなのかい。身持ちは固いけど、こんなに可愛くて優しくて面白い子、他に居ないってのに。なんで放っておくんだろうね。」
『面白い』ってまた言われた。リュウキさんにも言われたけど、どういう形容詞なんだろう。
どう考えても褒めてないよね。
「もうっ。」
酷いなあ。思わず仏頂面になってしまった。
「ほらほら、こんなふうに膨れっ面をさせるとメチャメチャ可愛いんだから・・・そう思わないかい? シセイとやら。」
レイティアさんが私の後ろから抱きついてきて、ほっぺたをつついてくる。
どうせ、私はシセイさんの好みのタイプじゃないですから。放っておいて欲しい。
「・・・う、うん。まあそう・・・ですね。」
意外にも肯定的な回答が返ってきた。
「あらあら、赤くなっちゃってまんざらでも無さそうだわよ。フラウちゃん。」
頬が赤く染まって童顔が余計に幼く見える。よっぽど、シセイさんのほうが可愛らしい。
「冗談はその辺にしてください。それでマッサージは続けるんですか続けないんですか?」
「続けて欲しい。それとも坊や私を抱いてみるかい? 初めてだから安くしておくよ。」
「坊やは止めてください。ハマって簀巻きになりたく無いんで遠慮しておきます。」
シセイさんなら間違い無く、いや強制的に裏の店コースだと思うけど。
「おっ堅実じゃないか。フラウちゃん、ここまでハッキリ断れるなんてこの坊やお薦めだよ。」
「マッサージを続けるんですね。シセイさん。もう少し時間が掛かるって番頭さんを探して話しておいてください。さあ出て出て。」
どれだけ勧められてもシセイさんはエミリー王女のもの、決して手が届くものじゃない。
「この辺りでしたよね。」
再び内股に手をやると硬くなっている部分を発見した。かなり深い部分まで硬くなっているので少し魔力を多めに投入しながら『治癒』魔法を唱える。
これも戦場で経験したのだが深いキズを表面上だけ塞いでしまうと内部の出血が止まらなかったり、筋肉が上手く動かなかったりと大変なことになる。
そういうときは傷口に指先を突っ込み、多めの魔力を投入しながら『治癒』魔法を唱えると上手くいく。今回も硬い部分が柔らかくなりつつ再生したので股の隙間が少なくなった。
「どうですか? 少しは柔らかくなったと思いますけど。」
完全に元に戻すには、あと数回治療は必要かもしれない。
「ええっ。どうやったの。全然痛く無かったのに・・・。」
しまった。
デリケートな箇所というところばっかり頭がいって、強めにマッサージするのを忘れた。
「あっ・いえ・・その・・・。」
思わず答えがしどろもどろになってしまう。
「ゴメン。ゴメン。秘技だったわね。この技もフラウちゃんのお家に伝承されているのかい。」
レイティアさんからフォローが入る。そういえば、そんな設定だった。すっかり忘れていた。そうだった。そうだった。
「そうなんです。ここはデリケートな箇所なので一気には治せないんです。すみません。」
とりあえず、言い訳はできたみたい。思わずホッとする。危なかった。
「でも・・・そうね。この秘技ならマッサージとは別にお金が取れるわよ。いえガッツリ請求すべきよ。」
それは止めて欲しい。下手に評判になってしまっては何処で何がバレるかわからない。お父さまを殴った医者みたいなひとが現れないとも限らない。
「お客さんが喜んでくれるだけで嬉しいんです。それに時々、チップも貰えますから、それでいいんです。」
「ええそうね。この娼館の人間にだけでもタップリ、チップをはずむように言っておくわね。」
私の言葉をどう解釈したのか。そんなふうに返ってきた。
ーーーお父さま。言葉は難しいです。
お金も欲しい。信頼も欲しい。私はなんて愚かなほど欲望が強いのでしょう。