アルバイトを始めます ~フタマタ男は酷い~
お読み頂きましてありがとうございます。
今日は何をしようかな。
このところ、エミリー王女の魔法の練習に付き合う回数がめっきり減っている。私が新しい魔法を習得して見せてもぼーっとしていることが多くなった。
私とお出かけすることも減っている。私と一緒にシセイさんの浮気現場を押さえたことを引きずっているみたい。
この頃はまる1日、ぽっかりと時間が空くことも珍しくなくなっている。そこでアルバイトを始めることにした。いつ正体がバレて逃げ出さなくてはいけなくなっても、暫く隠れて暮らせるだけの蓄えを残して置きたいと思っている。
私にできることと言えば、マッサージという名前の『治癒』魔法による治療と掃除くらいだ。
でも今の生活を失う可能性の高い『治癒』魔法を使う気になれないので専ら掃除婦をしているのだが、全然お金にならない。
一応、王宮から冒険者ギルドのBクラスのライセンスが支給されているが女性1人を募集しているのなんてごく僅かだ。
その僅かな募集に応募してみたこともあるのだけど、顔を見るなり門前払いも同然に追い返されてばかりだった。
「あれっ。フラウちゃん。どうしたの、こんなところへ。」
私が冒険者ギルドの募集の張り紙を真剣に見ていると後ろから声が掛かった。
この声はシセイさんだ。
「アルバイトを探しているんです。用が無ければ話しかけないで貰えませんか。」
私は振り向かずに言う。冷たいようだが、1日仕事の締め切り時間が迫っている。サッサと見つけないと。
「俺も一緒。エミリーに何かプレゼントをしようと思っているんだ。女の子の機嫌なんて、自分で働いたお金でプレゼントすれば、コロッと変わるだろ。だから何か無いかなと思って来てみたんだ。」
確かに女の子はそういうところがある。でもそれは少し喧嘩をした程度のときの話だよ。あんなにがっつり浮気をしておいて、そんなことで簡単に変わるなんて甘いというほかないよね。
「じゃあ。これなんていいんじゃないでしょうか?」
それでも今の冷戦状態よりはマシに違いない応援のつもりで目に付いた張り紙を取って渡す。
「ふむふむ。娼館の用心棒か・・・童顔で低身長なら厚遇だと。俺にピッタリじゃないか。店の名前は・・・男娼館薔薇族・・・って、ホモの売り専じゃねえか。有り得ねえ!」
自分の身体で稼ぎたいんじゃなかったの?
「じゃあ。こっちはどうです。こういうの得意ですよね。」
さらに隣にあった張り紙を渡す。
「ほう何々。寂しい女性を癒やす簡単なお仕事です。宅配ボーイフレンド『S企画』・・・って、ホスト売春じゃねえか。フラウちゃんがどういう目で俺を見ているか、わかったよ。」
どういう目って、中途半端に女性に優しい人だよね。エミリー王女を本当に好きなら、相手のことを思いやって真剣にどうすればいいか悩むと思うんだけど、プレゼント攻撃だもんなぁ。
「真面目なんですね。貢がれるのとか好きだと思っていたんだけど違うんですね?」
「誤解だよ。お金持ちの女の子って『こんなにしてあげたのに』って堂々と言うんだけど。嫌いなんだ。そういうの。だからエミリーにも特別何かを買って貰ったことは無いかな。」
「へえ意外です。・・・良しこれにしようっと。」
これなら掃除婦をやるよりは高給を手にできそうだし、閉鎖的なところだから、魔法を多少使ってもバレる心配は無いわ。
「何見せてよ。・・・ええっ。娼館で・・・娼婦相手のマッサージって。こんなの大丈夫なの? 心配だなあ。」
「大丈夫ですよ。ああいう職業の方々って、物凄く腰を酷使するから、良く教会でマッサージしてあげたんです。とっても喜んで下さるし、お金にもなるなら、これ以上のことは無いじゃないですか。」
「そうじゃなくて。無理やり、娼婦をさせられるなんてことも・・・無いか。こんな色気もない娼婦、誰も買わないか。」
酷い。何てことを言うの。私だって、色気のひとつやふたつ・・・。と思って自分の身体を見下ろす。
そこにあったのは、僅かな膨らみとウエストは細いけど寸胴体型の身体・・・。
色気・・・無い・・・どうせないわよ。良くこの身体でリュウキさんが買ってくれる気になったなあ。そういう趣味なんだろうか。
「でも、後でリュウキにバレるとヤバいから、初めだけついていってやるよ。」
ーーーお父さま。シセイさんに酷いことを言われました。
本当のことだとわかっていても心が痛いです。