ネトリ女が仲間入りしました ~微笑ましい光景です~
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「そういう訳か。大丈夫。シセイは俺と違って図太いから、死にたくなったりしないさ。」
私がシセイさんの様子をそれとなく見ておいて欲しいとリュウキさんに頼むと軽くあしらわれてしまった。
俺と違って・・・リュウキさんは死にたくなったことがあるんだ。
「そうなんですか。」
そういえば、あの女が自殺してスランプがどうのってシセイさんが言っていたよね。
「まあ確かにこのところ真面目に訓練を受けるようになったと思ったら、そんな裏があったのか。それはキツいよな。」
そこに当人であるシセイさんが現れた。いつも明るいシセイさんが髪を振り乱して目にクマを作っているけど、表情は明るい。どうしたんだろう。もう吹っ切れたのだろうか。昨日はあんなに暗い顔をしていたのに・・・。
「フラウちゃん。聞いた? ツェッペラー伯爵家がヴィオ国に亡命したそうだ。エミリーのヤツ、あんな脅しを掛けやがって!」
なんだなんだ!
全然反省してないじゃない。でも・・・。
「良かった亡命が成功したのね。エミリーがヴィオ国の間者を使ってそそのかしてみると言っていたのよ。私がしっかりと釘を刺して無かったのがいけないんだからって・・・。」
エミリー王女のそのときの寂しそうな表情が忘れられない。これからも私達に会うときは普段通りの表情なんだろうな。
「おいシセイ。浮気の尻拭いを女にやらせるなんて最低だな。キミコさんが聞いたらなんて言うか。」
キミコさんって、リュウキさんの仕事仲間でシセイさんのお姉さんだったよね。
「そうですよ。亡命ってことは地位も名誉も領地も全て投げ出したんですよ。わかって言っているんですか?」
ヴィオ国は獣相が出た場合などの亡命者には割と優しいけど、ただ逃げてきただけの人間には厳しいところだと思う。その中で爵位持ちだった人間が平民として生きていかなければならないなんて、想像以上の苦しみが待っているだろうことは間違いがない。
「わかって・・・なかったのかな俺。」
みるみるうちにシセイさんの表情が暗くなっていく。
異世界でも国境くらいあるのだろうから異世界人だからって言い訳は通用しないと思うんだけどどうなんだろうなんだろう。
「他の女性は全て清算したんですよね。もう2度とあんな修羅場に立ち会いたくはありませんからね。」
良く考えたら、私が反省すべきところはシセイさんの浮気を止められなかったことで、いつかはああいう結果になることは目に見えていたはずなんだよね。
「・・・・・・。」
シセイさんは黙り込み顔を背ける。
ええっ。別れてないの。それは、流石に有り得ないでしょ。
「おいシセイ。」
「シセイさん!」
それはいくら何でも勘弁してほしい。
「わかったよ。煩いな。清算すればいいんだろ。」
本当に煩そうに言う。本当にわかっているんだろうか。多くの人々が不幸になったんだよ。
「シセイさん。くれぐれもエミリー王女の名前を出してはダメですよ。市民階級の人間でも、王家に忠誠を誓っている人間もいるんですからね。」
その表情を見ていたら、追い討ちを掛けてしまう。
「そう・・・いうものなのか? ありがとうフラウちゃん。俺、日本人の常識で考えていたよ。」
ついつい、こちらの世界の常識が口をついて出てしまった。危ない危ない。異世界人がそんなことを知っているはずが無いのに・・・。
「そうだぞ。ってわからないか。俺みたいな家に生まれないかぎり、日本人の感覚じゃあ無理かもな。」
リュウキさんはわかるんだ。お家が宗教家と言っていたよね。それでもわかるということは、お父さまのように襲爵しているお家なのかな。
「サキちゃん。それはズルい。」
とうとうあの女が私達の仲間入りをした。
早速、訓練に加わったのだが、なんと彼女は『ファイアボール』魔法が使えるのだ。しかも1秒間に1発というスピードで連射でき、魔力に関係なく無制限に撃てるのだという。
その戦い方で自分の倍以上の数の魔物を倒すサキさんに先程からシセイさんが悔しがっている。
威力は魔物の強さに関係なく10発当たれば倒せるらしい。だから、ゴブリンのような動きが遅い敵には威力を発揮するがレッドラビットなどの動きが速い敵には苦戦するみたい。
でも何故か他の魔法は使えないし、特定の魔物しか倒せないし、敵を倒してもレベルアップしないけど、彼女を取り巻く兵士たちの数だけが増えていく。特に美形の師団長が急接近している。
「それはミニゲームの機能だろ。」
「いいじゃない。使えるんだから。でも何でリュウキの好感度だけ上がっていかないのよ。」
「乙女ゲームだから勇者であっても同じ日本人を攻略してもつまらないって理由じゃないかな。攻略対象外なんだよ。」
「きっと何かのフラグが立っていないんだわ。」
またわからない単語。フラグってなんだろう。
「それはアリかもな、でももう遅いんじゃないか。別ルートだったんだよ。出会っているのに好感度が上がらないなんていうのは。」
必死に何かを諦めさせようとするリュウキさんに眉間にシワを寄せながら考え込むサキさん。
悔しいけど使える人材が増えたみたいである。しかもリュウキさんの盾の守備範囲の中から、波状攻撃で敵を倒すしか配置しようが無いので、戦闘時には必ずくっついている。敵の接近を許してもリュウキさんが剣で数回ダメージを与えれば倒せるところまで生命力が減っているので相性は抜群である。
戦闘以外のときは、今みたいに逃げるリュウキさんに追うサキさんといった状況になっており、なかなか私の割り込む隙が無い。
私の出番は、サキさんが何故か倒せない敵が現れたときだけになってしまった。
ーーーお父さま。何故でしょう?
そんな彼らを見ていても腹が立ちません。逆に微笑ましい気分になります。