シカタガナイそうです ~嬉しいのに悲しい~
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「ええ、聞いています。リュウキさんの親戚に当たるということは、先日のお披露目の際にわかっていたことで、報告もしてあったのでヴィオ国が召喚したという状況証拠は揃っています。ですが私以外に異世界人を召喚できた人間が居たことが信じられないのです。」
エミリー王女は、今までの人生全てを異世界人の召喚に費やしてきたのだという。
「サキは召喚されたわけじゃ無いと思うぞ。別の仕組みによってこちらに来たんだと思う。」
リュウキさんがエミリー王女を慰めるように言う。
「乙女ゲームというやつですか?」
意外にもエミリー王女から、私が知らない単語が飛び出してくる。
「わかるのか?」
リュウキさんも驚いているみたい。
「はい。向こうに居る間者の話では、ヴィオ国の王太子妃がその方法で世界を渡ってきたそうです。そして、彼女が『聖霊の滴』を見つけ出して、ヴァディス王国が圧倒していた戦争を盛り返したと言われています。」
確かに戦争中、聖霊教会でお祈りをしていたときに王太子妃となっていたクルミ様に声を掛けられたのが、戦争に関わるようになった切っ掛けだった。
クルミ様が何度も訪れて、お父さまを説得したことを思い出す。
あのクルミ様が異世界人だったというのだろうか。あの優しかったクルミ様とあの女が結びつかない。
「そもそも戦争の切っ掛けとなった我が王家に対する侮辱はその王太子妃が追い出した王太子の婚約者だったフランソワーズという公爵令嬢の発言によるものだったそうです。」
私と同じようにお家を潰され処刑されたという。まるで同じような場面だけど、片や戦争を引き起こした女性と片や王子に言い返しただけの私。余りにもしたことが違い過ぎる。
「シセイ。『聖霊の娘』は3まで出ていたんじゃ無かったか?」
「そうです。イージーモードを3周まわらないと開かない筋書きなど沢山の筋書きで遊べることで有名だったけど、発売後2年で全てのルートを攻略されたため、続編が出たと聞いた覚えがある。ただイージーモードが無くなったことで余り売れず、全く違う世界観で新しい話が作られたはずだよ。」
「そういうことは、この世界は『聖霊の娘2』なのか。サキが『聖霊の娘』のイージーモードだと思い込んだだけなのだろうか。」
「さあ『聖霊の娘2』の情報は少なかったのでわからないですね。この世界が『聖霊の娘』に良く似た異世界なのか。もしかすると『聖霊の娘』の世界を妄想するサキちゃんのインナースペースに取り込まれただけなのかもしれない。」
ヤッパリ、チンプンカンプンだ。2とか3ってなんだろう。
インナースペースも良くわからない。
「怖いこと言うなよ。でも何らかの力が働いて俺がサキとエッチすることにはならなさそうだな。サキは現実世界では男を食い散らかしていたらしいから、こちらの世界でもモテているだけなんだな。きっと。」
「それはリュウキがどうしても抱いてくれないからサキちゃんがヤケになっていただけだろ。あれだけの美人が肉体関係を迫ってきたら、大抵の男は落とせるさ。フラウちゃんのことはチャンスかもしれない。」
片やエッチさせない女と片や肉体関係を迫る美人か。ヤッパリ、私って固いのかなあ。
「どういうことだ。」
「サキちゃんが諦めきれなかったのはさ。リュウキが本当の恋人を作らなかったからだろ。」
「イヤイヤイヤ。女は切らしたことはないぞ。」
ヤッパリ、私がここに居ることを忘れているよね。この2人。当人を目の前にして赤裸々にここまで言うか普通。
「女だろ。遊びだろ。結婚したいと思った女じゃないだろ。相手に男が出来ても笑って別れられるだろ。そんな存在は恋人とは言わないんだよ。でもフラウちゃんは違うだろ。俺がキスしただけでマジで怒っていたよな。あんなリュウキを見たのは初めてだったよ。」
へえそうなんだ。少しは私のことが好きなのかなあ。
「じゃあ私と同じですね。私もリュウキさんのことが大好きです。これからも、よろしくお願いします。」
「ああぁ。うん、そうなのか。そうかも。確かにムッとした。ムッとしたよ。シセイ。俺を試したのか?」
「まあね。ここまで吊り橋効果が出ているとは思わなかったけど。」
「おい。違うだろ。そんなもので俺の感情が変化するわけが無い。」
「じゃあ本気なんだ。本気でフラウちゃんと結婚したいと思っているんだ。」
「確かにこれまでに感じたことが無い感情が芽生えていると思うよ。それが結婚に結び付くかと言われるとなあ、どうも良くわからない。」
「とにかく。ここにサキちゃんが加わっても、常にフラウちゃんを優先していけば何れ諦めると思うよ。」
「そうだな。そうするか。今は特定の女も居ないし、全く問題無いな。うん問題ない。そういうわけでフラウ・・・どうした。何で泣いているんだ。」
私は泣いているらしい。リュウキさんと相思相愛になれて嬉しいから・・・じゃあ、何でこんなに悲しいんだろう。止めようと思っても止まらない。
「リュウキ! 今、フラウちゃんに酷いことを言ったぞ。残り物みたいに、仕方がないみたいに言った。どうしたんだよリュウキらしくも無い。」
「イヤ、スマン。許して欲しい。この通りだ。」
目の前で土下座している男がいる。
ーーーお父さま。こういうときこそ、慈愛の心で優しくしてあげるべきなんですよね。
フラウは愛しいという思いと悲しいという思いに心が引き裂かれそうです。