バカな男は失脚しました ~流石はネトリ女です~
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「出掛けるの? ひとりで? 危ないよ。俺がエスコートするよ。」
リュウキさんは訓練が足りないと認識したのか。あれから、昼食後も兵士たちと訓練に費やすようになっている。守ると言った手前、私に討伐数で負けたのが悔しいらしい。
シセイさんは逆に王宮の宝物庫で何か無いかと探している。
この間も攻撃力が上がる小手を見つけ出して喜んでいた。基本的な剣術や体術が身についていないことがまだわかっていないらしい。
そう言う私もエミリー王女から魔力の消費を抑える指輪を貰ったばかりだ。
エミリー王女は私が魔法書から新しい魔法を覚える度に自分のことのように喜んでくれる。私もエミリー王女のために宝物庫に魔力を上昇させるものが無いか調べているのだが、そんな便利なものは無かった。
この指輪にしても消費を抑えるというよりは使った魔力の一部が戻ってくるみたいで、『ファイア』魔法に魔力100必要なのは変わらないらしい。
「いいですよ。私には魔法もあるし、ほら後ろから護衛の兵士も見守ってくれているので平気ですってば。」
余程、シセイさんのほうが身の危険を感じます。そう言ってやろうと思ったが止めておく。
「本当だ。もしかして、俺にもついていたのかなぁ。ヤバいかな。ヤバいよね。」
他の女性とデートしていたことを言っているのだろう。
「そんなことは無いですよ。リュウキさんが一緒に出掛ける時にはついてきていなかったから。」
きっと、シセイさんの裏切り行為はエミリー王女にはバレていません。多分ね。
「ヤッパリ知っているんだね。俺が他の女性と居るところでも見かけた?」
どうやら、私の顔に出ていたらしい。
昔、お父さまにも良く言い当てられた。わかりやすいらしい。
「大丈夫ですよ。エミリーには言ってませんから。それに・・・。」
この間、シセイさんにキスされたことを思い出す。
なんて言えばいいのよ。
この男は誰にでも手を出す男なのよ。私もキスされたこともあるの。
なんて絶対に言えない。言えるわけが無い。
「良かった。キスのおまじないが効いているようだね。フラウちゃんの性格なら絶対言えないよね。」
「言いませんよ。そんなことのために私にキスをしたんですね。なんていうことをするんですか。」
あれから、エミリー王女の好きな人とキスをしてしまったと随分悩んだのに、あれほど信じないと誓ったのに思わず聖霊教会でお祈りして心を落ち着けようとしてしまったくらい真剣に悩んだのにそんな理由だったなんて、有り得ないでしょ。
怒ってはいけない。こういうひとなんだから、怒るだけ損よね。
しばらく深呼吸を続けると心が落ち着いてくる。
「だからついてこないでって言ってるじゃないですか。」
「放って置けないんだよ。君って騙されやすいだろ。それにリュウキに頼まれているんだよ。ついていてやってくれって。他人に無関心だったあのリュウキに心配させるなんて、どんな女だよ。」
騙されやすいのは自覚しているけど騙すのは主にシセイさんでしょ。
仕方が無い。無視しておくしかない。まさか嫌だからって街中でシセイさんに向かって魔法をぶっ放すわけにもいかないものね。
「そうよ。いい加減に返してくれない。リュウキは私の物なんだから。」
また現れた。
後ろを振り向くとあの女が男の腕にしがみついていた。
隣に居るのはオーディンじゃなくヴァディス王国の王太子だ。
いい加減にしてほしいのはこっちよ。
何で毎度毎度、この女が現れるのよ。
「エミリーには既に伝えてあるが、仲間がひとり増えることになった。彼女はヴィオ国が召喚した異世界人だそうだ。仲良くしてやってくれ。」
しかも、仲間に入ってくるなんて私が異世界人じゃないってヴァディス王国にバレているのかしら。
それなら追い出されるか処刑されるかするはずよね。
王太子の様子からして、それは有り得ない。彼はもっと喜怒哀楽が単純なタイプだ。
異世界人という良い手駒が増えて、さらにいい女でそれが自分の物で気分がいいって顔をしている。
「お前、ヴィオ国の王子はどうしたんだよ。」
「オーディンのこと? 何か大きな失敗をしたらしくて、失脚したらしいわ。」
ヴィオ国の王も王太子も身体が弱くて静養中だったけど、私を追い出したことが伝わったのね。ヴィオ国の実質的な施政者だったオーディンが失脚するなんてそれ以外に有り得ない。
自業自得といえばそうだけど、もっとこの女の足枷になってくれればいいのに使えないにもほどがある。
「バカな男だな。せっかく召喚した異世界人を有効に使わずに手放してしまうなんて。」
ーーーお父さま。何故でしょう。
あんなに憎かった男が失脚したと聞いても、ザマアミロと思えないのです。
しかも他人が悪口を言うのも嫌です。
まだ思いが残っていたのかもしれません。
でも今日かぎりにしたいと思います。いいですよね。