キスされました ~罰を与えてやってください~
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「なあ。俺たち必要性無いんじゃないかな。」
ソレを見ながら、シセイさんが呟く。
「・・・それを言ったらおしまいだ。」
黒こげで炭になったソレの腕を手に持った剣でつつくリュウキさん。
「だから、あれほど直ぐにトドメを刺してくださいって言ったじゃないですか。」
私たちの足元には、黒こげになって絶命しているゴブリンが転がっている。
そうは言っても、ゴブリンの巣へ討伐に来ているわけでは無い。はぐれゴブリンが居るという情報を聞きつけて、屈強な兵士たちを数人連れて来ているのである。
あくまでリュウキさんとシセイさんの練習のためだ。
兵士たちがゴブリンの引き付け役を行い、私が『ファイアボール』魔法を一撃当てて、トドメをリュウキさんとシセイさんが交互に行う。
ズルい戦い方だとリュウキさんは反対していたが、ゴブリンに一撃を貰うと一般人なら即死すると言われて無理に納得したみたい。シセイさんはそれが普通と思っていたみたいだけど。
攻撃魔法を生き物へ向けて撃つのが初めてであり、初めの2匹は上手く当てられず、兵士たちに処理して貰ったが3匹目からは相手の身体の何処かには当たるようになってきた。
どうやら、相手の左右に向けて2発連続で撃つと1発目に驚いて反対に逃げたところに2発目に当たってくれることが多いみたい。
ただ威力が強いのか当たった部分が炭になってしまい1分も経たないうちに絶命してしまうのである。
結局、はぐれゴブリンを6匹見つけ出して、初めの2匹は兵士たちがゴブリンを弱らせてから1匹ずつをリュウキさんとシセイさんがトドメを刺して、後の4匹は私が殺してしまった。
それでも一応3人ともレベルアップというものを果たしたらしい。
彼らは『成長』スキルのおかげなのか生命力が5倍になり、ゴブリンに致命傷じゃない一撃を貰っても死なない程度にはなったらしい。私も2度のレベルアップで生命力が2倍近くになり、魔力も少し増えた。
「わかりました。明日からは、先手はリュウキさんたちからでお願いしますね。」
今日の練習でわかったのだけど、シセイさんが神から貰ったという剣で5回ゴブリンに当てないと相手の生命力を削り切れないし、リュウキさんが持っている王宮の宝物庫にあったという剣では7回ゴブリンに当てないといけないらしい。
剣の腕前は『成長』スキルでは上がらないようで、明日からはもっと格下の魔物と戦うことになっている。
「わかった・・・。」
リュウキさんは納得がいかないらしい。歩きながらも周囲の兵士たちに剣のことについて質問している。
「わかってるよ。でも大物が出てきたときはフラウに任せるな。」
やっぱり、シセイさんは軽いみたい。神から貰ったという剣の威力を過信してないといいけど・・・。
翌日はレッドラビットが出たというので、駆けつけてみると、いるわいるわ目が血走った状態のラビットが大発生していた。
この魔物は目が血走っているからレッドラビットじゃない。怒っていると次第に頭が赤くなってくるのだ。それ以外は家畜として飼われているホワイトラビットと違いは無い。
逆にそのことで家畜が逃げ出したと勘違いした村民が襲われてケガをすることが多い。だがヴィオ国では、レッドラビットがこんなに大量発生するなんて話は聞いたことが無い。
「これって、食物連鎖の捕食者が居ないんじゃねえの。」
シセイさんが的確に私の言いたいことを言葉にしてくれる。
「そうだな。捕食者である獣人が居ないから、我が物顔で増殖していく。偶にゴブリンたちが狩猟にくるぐらいか。それも軍が蹴散らす、どう考えても増え放題だ。」
リュウキさんさんはさらに具体的なのでわかりやすい。
「とにかく、シセイさんとリュウキさんが手分けして討伐してください。」
でも今そんなことを話していても始まらない。
「えっ。フラウちゃん無しでこれだけの数討伐するの?」
「そうです。黒こげにしたら、お肉屋さんに売りにいけないですから。」
衣食住が保証されていて、さらに毎月ヴァディス王国からお給料を頂いているけど、遊興費と呼ぶには少なすぎるらしく。良くシセイさんが嘆いていたのを聞いている。
こういうときこそ、稼ぎ時なんだから頑張ればいいのに。
「山火事になっても困るから、『火』魔法系は使いません。リュウキさんの後ろから『風』魔法系を試してみます。だから、リュウキさんの近くには来ないでくださいね。」
「ズルい。俺も、そこで戦いたい。」
リュウキさんが持つ盾はゴブリンの攻撃も殆ど通らない。一撃を当てられても1分間自然回復すれば元に戻る程度だった。だがシセイさんの持つ王宮の宝物庫から持ってきた盾では半分ほどダメージが通るらしい。相手がレッドラビットでもダメージが積み重なれば危ないかもしれない。
「ほら攻撃用と防御用の身体強化魔法も掛けてあげますから、頑張ってきてください。」
攻撃用身体強化魔法は筋力を一時的に上げる魔法で、防御用身体強化魔法は身体の皮膚を一時的に強化してケガしにくくする魔法。持久力を上げてくれる魔法は無いらしい。
「防御用だけでいいよ。攻撃用は後で疲れるんだもの。」
攻撃用身体強化魔法は自身の肉体から力を引き出すので疲労酷い。私も訓練中は常に自分自身に掛けており、半日動き回るだけでヘトヘトになってしまう。だが、徐々に動ける時間が伸びているから持久力がついてきているのではないかと思っている。
それを言ってもシセイさんは嫌がるのだ。
シセイさんは何も考えずに手近なレッドラビットから斬りつけていく。剣のチートにより一撃で倒せるのが楽しいらしい。
私は周囲を囲まれないように気をつけながら、リュウキさんと一緒に慎重に進んでいく。
『ウインドーカッター』魔法は魔法書に載っている初歩的な魔法で、風の力で真空に近い状態を作り出すことで物を切ることが出来ると過去の勇者が残した本に書いてあった。一部の金属を除き切れないものは無いらしい。
レッドラビット相手では切れ過ぎて何度か血を浴びてしまう結果となった。そんなときでもリュウキさんが盾で庇ってくれてモロに浴びることは無かったのだけど。
「助けて!」
声のした方を向くと随分遠くの方に真っ赤な頭のレッドラビットに周りを囲まれているシセイさんの姿があった。
全く考えなしなんだから・・・。
「シセイ。大丈夫だ。生命力の自然回復よりもダメージのほうが少ないんだから、そのまま続けて戦えよ。」
リュウキさんはシセイさんの生命力の動きを『鑑定』スキルで見ていたらしい。
「痛っ。だって痛いんだって、痛くて生命力なんて見ている暇なんてないよ。」
周囲からドンドンとレッドラビットの頭突きがシセイさんの身体に入っている。身体強化魔法があっても痛みは減らないらしい。
「仕方が無いなあ。『フライ』」
私が空を飛んで行って、シセイさんを抱え上げるとよじ登ってくる。前見えないんですけど。
「フラウちゃん・・・痛いなあ。落とすこと無いじゃん。」
わざわざ助けてあげたのに、なんとこの男はキスをしてきたのだ。それも3回も。
思わずビックリしてシセイさんを落としてしまった。自業自得だよね。まったく。
「どうみても、お前が悪い。」
「痛い。痛い。防御用身体強化魔法が切れているんだから、もうちょっと優しく、ごめんなさい! 私が悪うございました。だから殴らないで蹴らないで剣を向けるのも止めて!」
私が空を飛んだのと同時にシセイさんの方へ進んでいたのだろう。リュウキさんが私の代わりに罰を与えてくれる。やっちゃえ!