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睡深計  作者: えびちち
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謎の病気---眠り病---がある日突然に人類を襲う。

症状は眠り続ける、ただそれだけ。

当初は一度眠った後目覚めるケースも多くあったが、眠りにつく人口が増えるにしたがって目覚める確率は小さくなっていき、全人口の半数が眠りについた頃から目覚めるケースがゼロになる。



病の研究は遂に大きな進展を迎えないまま、最後の研究者が眠りについた。

眠りについた人数に応じて症状が変化したことから、ネットワーク的な要素があるというのが公式発表された最後の論文だが、そんなことは誰でもわかる。

国家機密扱いで研究結果はほとんど発表されていないので、実際の研究がどこまで進んでいたのかは今となっては不明だ。

その国家も、人口の半数が眠りについた頃から徐々に機能と意味を失っていった。



薬の開発も試みられ、あらゆる覚醒系の薬物が開発された。

眠り病発症時点で既に人類以外の自然生命はなく、人口モルモット(倫理上、姿形はネズミだが遺伝子的にはほぼ人間)での治験はあちこちで行われたのだが、芳しい成果はなかった。

また民間療法も数多く生まれたが、もちろん効果はなかった。



僕達は開発部門で不眠不休で働いた。

発症者が衰弱死しないよう生命維持装置を開発し、それを維持するための装置も開発した。

ソーラーパネルと大容量(少なくとも数百年分)のバックアップバッテリーも開発した。

近隣国家間で共通規格の安全回路が接続され、どこかで万が一の事故があっても相互に電力を融通し合う仕組みも作られた。

分散型コンピュータで自動制御され、地球の裏側からでもバケツリレー方式で電力を供給できる蜘蛛の巣状のネットワークだ。


仲間は一人、また一人と眠り病に侵されて、自分たちの開発した生命維持装置に入り、自分たちの開発した睡眠深度計に繋がれていく。



一方で、さまざまなドラマも生まれたのだろう。

悲劇も喜劇もあったようだが、架空の裏組織から国家を対象とするものまで、陰謀説も数多く生み出された。

だが結局、お互いを攻撃するより引き籠る方が選ばれ、表面上は大きな戦争もないままに覚醒人口は減っていった。

眠るとはいっても死ぬわけではないので、誰も戦争は嫌だったんだろう。



いよいよ人口が数万人単位になってくると、自然と人々は首都に集まってきた。

その頃には、ほとんどの国家で全人口分の生命維持装置は完成していた。

定期的に覚醒している人の集団間での通信は続いていたが、一定数---大体100人を切ったところで、これから全員で眠りにつくと通信が入り、連絡は途絶えた。

最後の一人になってしまうと自分を生命維持装置に繋いでくれる人がいなくなるので、それなら覚醒しているうちに生命維持装置に自ら入って眠ってしまおうというわけだ。


眠り病の原因は結局分からずじまいだったが、人口のほとんどが眠っている今、普通に睡眠するだけで眠り病を発症する状態だった。



つまり"僕"は眠っていない。



僕が最後の一人になったのは、数億分の一とも思われる稀な機器トラブルの対応をしていたからだった。

気が付くとここで覚醒しているのは僕一人になっていて、通信の応答もどこからも返ってこなかった。



それからどのぐらいたったのか、僕だけは眠り病を発症していない。

つまり全人類の生命は僕の手にあるともいえる。


僕は、全人類の生命維持をやめてもいいし、そのままにしてもいい。


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