庶民がお金持ちの学校に通える理由
ここはお金持ちしか本来は通えないはずの学校。
それにも関わらず、庶民の少年も一人だけ通えています。
その少年の名前は椎名洋平と言います。
庶民の椎名洋平がこのお金持ちの学校に通える理由は1つ。
それは、この学校の理事長の娘がお願いしたからだ。
理事長の娘が洋平を通わせるようお願いした理由も1つ。
それは、入学式でのとある出来事が原因だと思われます。
入学式当日、車で理事長の娘さんは学校に向かっていた。
学校まで残り1kmの所でタイヤがパンクしてしまいました。
「どうしましょう。このままでは入学式に遅れてしまいます」
「申し訳ありません。直ぐに代行車を御用意させて頂きます」
「それでは間に合わないので、あの方にお願いしましょう」
「えーっと。あの自転車に乗っている方のことでしょうか?」
「ええ。そうですわ」
「なぜ自転車に乗っている方にお願いされるんですか?」
「理由は単純。偶然近くにいるから。それだけよ」
「そんな理由じゃ自転車に乗っている彼が可哀想です」
「じゃあそこまで言うなら、何か他の理由を教えてよ」
「すみません。他の理由はございません」
「それならば口出し禁止。それで良いかしら?」
「はい。それで結構でございます」
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」
理事長の娘さんは自転車に乗っている男性に声をかけた。
「はい。良いですよ。何か僕にご用でしょうか?」
「車がパンクしたので学校まで送っていってほしいんです」
「良いですよ。学校はなんという名前ですか?」
「学校名は『学校法人架空学園・架空高等学校』ですわ」
「分かりました。では後ろに乗って下さい」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
「お嬢様、本当に自転車に乗って行かれるんですか?」
「ええ。そうしないと入学式に遅れてしまいますから」
「ちょっと君、良いでしょうか?」
「えーっと、呼んでいるのは僕でしょうか?」
「君以外に誰かいるとお思いなんですか?」
「いいえ。僕以外は誰もいないと思います」
「ではお気をつけて。お嬢様をお願いいたします」
「あの、ご質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。質問してもよろしいですよ」
「さっき、女の子のことを"お嬢様"と言ってましたよね?」
「確かに申し上げましたが、何か重要なことなんですか?」
「お嬢様ってもしかして、架空高校の生徒なんでしょうか?」
「はい。理事長のお嬢様でございます」
「そうなんですか。じゃあ僕とは違う立場の人なんですね」
「どういうことでしょうか?」
「実は僕、両親が亡くなった為に高校に通えていないんです」
「あなたは高校に通いたいって思っているんですね?」
「はい。通えるなら通いたいと思っております」
「じゃあ私が理事長にかけあってみます」
「あの、『理事長にかけあう』って、どういうことですか?」
「意味はそのまま、"私が理事長にかけあう"ってことですよ」
「えーっと。よく分からないんで、詳しく説明して下さい」
「つまり、"あなたに学校へ通っていただく"ということです」
「何で学校に通わせていただけるんでしょうか?」
「お嬢様からのお願いだからでございます」
「お嬢様にいつお願いされたんでしょうか?」
「言葉ではっきりお願いされたわけではございません」
「どういうことでしょうか?」
「私はお嬢様とは10年以上の付き合いなので分かるんです」
「さすがに10年以上の付き合いだと分かるんですね」
こうして椎名洋平はこの学校に通うことになりました。