勇者の俺が自分の母親に転生したので、俺を育て直す
魔王の強さを侮っていた。
俺の魔法を載せた聖剣による必殺の一撃は、あっさりと躱され、カウンターで放たれた一撃で俺の命は霧散した。
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わたしが、そんな勇者の生まれ変わりだと言う事に気がついたのは7歳の時だった。男だった記憶を持っているのは変な気もするが、それは記憶でしか無い。普通の女の子として生まれたわたしは普通に恋して、普通に結婚した。そして息子が生まれた。
恥ずかしながら、その時まで自分が俺の母親に生まれ変わった事に気がつかなかった。あの時の人生で、母は母だったし、父は父だった。生まれた時から勇者として育てられた俺は親の名前も知らずに育っていた。だから、俺がわたしに生まれ変わったなんて事に気が付きもしなかったんだ。
前世の後悔からわたしは勇者として生まれた息子を、死なせないように徹底的に教育した。
「ママ、遊びたいんだ」
「ダメ、魔法の勉強をしなさい」
前世では魔法と剣技のバランスがちょうどよかった。それはどちらも中途半端だったてことだ。きっと、それが敗因だったのだろう。だから徹底的にやり直す。愛する息子を守る為、わたしは鬼になる。
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わたしの最大の敵は夫だった。
夫は何かにつけて、剣技を息子に教えようとする。
「あなた、この子には魔法を教えるの、余計な事をしないで!」
「駄目だ。魔法では限度がある。一番大切なのは剣技なのだ!」
あんなに愛し合い結婚をした……そう思っていたのに分かり合えなかった。それでも、わたしは息子を守る為に、鬼になる。
そして、息子は旅立った。
旅先で魔王と出会い、戦い、死んだ。
わたしは間違っていた。魔法では倒せなかったんだ。わたしは酒に溺れた……わたしが、息子を殺したんだ……
そしてある日、私は酒に酔い、川で溺れ、死んだ……死の瞬間まで、わたしの失敗を呪いながら……
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私が、わたしの生まれ変わりだと気がついたのは、9歳の時だった……
今度は失敗しない。生まれてくる息子には、きっちりと剣技を教えよう。魔王を倒すために、息子を守るために……私は鬼になる。