新快速 『同窓会』
同窓会
~一番、おぼえていますか~
「おねーさん!ノンアル、ダースで追加ね!」
大衆居酒屋で、久能麻衣子は声をはりあげていた。
店の中の雰囲気で、どうも酔っぱらった感じになっているらしい。
「久能さん、まだみんなは、揃ってもないんですよ!」
ゴイゴイと喉をならして飲み続ける彼女に、となりの席の ”レンジャー” 友野が話しかけている。
「・・・大丈夫だよ、友野さん!
それより、あなたちょっと変わったのかな?高校生になって、まわりを見捨てないようになったりした?」
「いえ・・・」
なぜか照れたように、少女は座敷席でかしこまってしまう。
「― ああ! そういえば、2番の『悟り』の辻宮さんは小学校によってから来るそうですよ。
たしか天上さんを手伝って、校庭にインパチェンスを植えに行くとか・・・」
レンジャーは、店の入り口にいる、委員長に目をそらしていた。
「了解ですー、美景ちゃん。
みんな、もう少しで『主役』が登場しますからねー?
」
ほんわかとした口調で言う中城は、いつものように、すべての同窓生の話を頭におさめている。
「おお、もうグダグダになるのは目に見えてるけど ― 習志野だ!」
そこに、今回の飲み会の原因がやってきた。
「高一にして個人戦、全国制覇!
期待の超新星剣士がやってまいりました!」
「あぁ、みんな。けっこう久しぶりだ・・・な?」
座敷の前で靴をぬぎながら、習志野恭子は惚けたような顔になっていく。
「こら仁科!居酒屋でチョコレート食べてるんじゃないよ!」
視線がとろけそうになっている仁科は、ウイスキーボンボンで遊んでいるようだった。
ずいぶんおかしなテンションに入っているようである。
・・・そういや、ガモリも全国区になったんだよな? と横に話しかけていた。
県選抜でMVPと、町の横断幕に天才剣士とならんであったはず・・・
「ガモリって呼ばないで!前は秋ちゃん、『フジ』って言ってた!」
少女は正座したまま下を向き、両手をそろえていた。
わずかに気まずい雰囲気になったが、グラスを動かすきっかけをくれたのは、ほかの客たちの喧騒か。
彼女たちの会合は、すでに乾杯の前から峠を越えていた。
「・・・あのー・・・」
やがて、おずおずと手が上げられたのは、けっこう時間が経ってからのこと。
「ちょっと、いいでしょうか・・・。今日は先生が来ないかもって、聞いたんですけど ―」
そう言い出したのは、担任を愛していた、古河である。
すぐに委員長が、クリップボードから顔をのぞかせて答えていた。
「心配ないよ、都子ちゃん。
きっちり呼び出して、となりに先生つけてあげるからね。
・・・あとは、優花ちゃんとラスト ―」
委員長は、もうすぐボーダーラインかな、とペンの動きを止めない。
「・・・保谷は遅れてくるって言ってたぞ、中城。なんか、展覧会に絵が間に合わないとか」
松塔愛がのれんをくぐりながら、姿を現していた。
「おおー、来たぞ砂漠女!
男と寝まくってるらしいじゃねーか!」
「・・・どこで聞いたんだよ習志野。各学校で、ダブらせてないはずだぞ」
「いい男を片っぱしから持っていくって、あたしんとこでは有名だよ」
「わたし女子高ですけど、愛さん知らない人いません」
久能麻衣子が、顔を真っ赤にして言った。
「なに、麻衣子。酒飲んでるの?」
「は、少し・・・」
「あんまり無理するな」
「ふぅぅ・・・」
「そんで、男は?一人もいないの?」
「ああ・・・みんな欠席だって。いくらかは来ようとしたけど、数が少なすぎて逃げちゃったらしいよ」
「ふーん・・・」
「愛さん ―。あなただけは、みんなと違って私を平等に扱ってくれたのに・・・」
「じゃ、とっくに無理が来てるってことで、乾杯しましょうか!」
そこで委員長が、ついに出欠表をほうり出してしまった。
「言うなって中城!こういうゴリ押しは、わかっててもゴリゴリやるんだよ!」
「はーい、みんな準備はいいですか?
・・・じゃあ、8割カンパーイ!」
「何でも8割オッケーにならないよ!」
了
ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。
なにしろ、続きが気にならない話なので(まあ自分がストーリーものを書いても、同じかもしれませんが)、次話を見るのがとくに面倒であったと思われます。ペコリ。
長い時間がかかりましたが、大まかな改稿は、やっと終了しました。
・・・いつか、この小ネタ集が『秋洞みずほの落とし穴』だった頃、ただ一人だけブックマークして下さった方がいて・・・。
ガラケーからスマホに替えたため、リンク切れを起こしてしまい、誠に申しわけありませんでした。
もう巡り会えないかもしれませんが、ここで謝罪させていただきます・・・。
今度は、楽しい続きものを書けたらなあと思っております。
またどこかでお会いできることを願って ―
ありがとうございました!