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008

88話


◇ ◇ ◇


城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 玄関ロビー カズヤ


◇ ◇ ◇


 ランクアップ試験の明日に控えても、昨日と同じく、俺は再びここに来てた。


 もちろん昨日の約束を果たすために依頼人の「レルネ・ラッフィーニ」に会うため、ではあるが、まじめに試験を受ける気があるのかと問われると、正直自分でも受験生としては不適切な行動だと自覚している。


 しかし、受けた依頼が完了していない以上は、依頼人対しての責任があると思っていることと、個人的にも彼女の一生懸命な姿は、とても微笑ましいと感じている。


 そのことがここに来ることに大きく背中を押した原因だと考えていた。


(彼女の頑張りを見てると、なにか力になってやりたいと思うんだよな……)


「あの方ですの? 思ったより若いですわね」

「ちょっと、失礼でしょ!」


 最初は、また昨日と同じ詮索の雑音かと思ったが、声のひとつに聞き覚えがあったので、受付に向けていた足を、声のした方へと振り返る。

 そこには、予想にたがわずラフィーニさんが、同い年くらいの女性と並んでたっていた?

(友達かな?)

 その女生徒は俺の方を真っ直ぐに見つめている。


 その視線にさらされていると自覚した瞬間、何か自分が実験動物のように全身を隅々まで分析されているような居心地の悪い感覚を受けた。

 そのため俺は少しだけ気を引き締めてから彼女達に声をかけた。


「こんにちは、ラフィーニさん。お出迎えをいただけるとは思いませんでした」

「……」

「ラフィーニさん?」


 どうかしたのだろうか、彼女からの反応がかんばしくない。

 友人?の女生徒とは違い、頻繁にこちらに目を向けては来るのだが、すぐさま目を逸らしている。


「どこか、お加減でも悪いのでは?」

「いえ、そ、そんなことありません!」


(レルネさん、固くなりすぎですわ。もっと普通にしないと)

(だって、どうしたって意識してしまうもの……)


 なにやら二人で、しばしやり取りをしていたが、意を決したように俺に向き合うと


「と、とりあえず、ここではなんですから、昨日のところへ」

「? はい、行きましょうか」


 そのまま、俺は2人に挟まれて案内《連行》される形で昨日の演習場に向かった。


◇ ◇ ◇ 


城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 第7演習場 カズヤ


◇ ◇ ◇ 


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。わたくしマディスン・セレインと申します。

 レルネさんのルームメイトですわ」


 案内された昨日の演習場に入るなり、そう名乗った彼女はまたあの目で俺の事を観察し始める。

 いささか、彼女からの視線はお世辞にもあまり居心地が良いものではなかったが、その次の言葉で印象を改めることになる。


「…あなたがレルネさんの長年の重石を取り除いていただいたことに、感謝をいたしますわ。本当にありがとうございます」


 どうやら彼女の視線は、俺がラフィーニさんに害をなす者かどうかの”見極め”のため厳しくになっていたようだ。それが自分の友人を守るためのものだということがわかったことで、むしろその冷たい視線を暖かく感じてしまう。

 そこで気が緩んでしまったのか、ついつい出てしまった軽口が事態の悪化につながってしまった。

 

「いえ、私は自分の出来ることをやっただけです、今回はそれが彼女の力になれたのなら、それは神のお導きでしょう?」


「――教会関係者の方ですの?」


 なぜか、彼女からの視線の圧力が上がった。冷たさも増したような気がする。どうしてか師匠に対応する時のようなプレッシャーを彼女から感じることになった。俺は警戒レベルを引き上げると慎重に言葉を続ける。


「?? いえ、ただの魔工技師です。魔道具の作成をして、糊口ここうしのいでいるフリーの生産職人ですが…」


「ちょ、ちょっとマディやめて、カズヤさんは教会とは無関係よ。…たぶん」


「いえ、やはり、ここは一度しっかり確認しておきましょう」

「ちょっと!!」


「カズヤ・フィラエさん?」

「はい? なんでしょうか?」


「あなたは、”あの”フィラエ先輩の関係者の方ですの?」

「……」


「どうなんですか?」

「あなたがおっしゃってるのが、”ルネット・フィラエ”のことについてだとしたら、その通りです」


 そう俺が答えた瞬間、それまでマディスンさんの陰に隠れるようにしていたラフィーニさんが前に乗り出してきた。


「あ、あの……、やっぱり、”おくさん”なんですか?!」


「……はい?」


 一瞬何を問われてたのか、まったく理解が追いつかない状態に陥る。


「や、やっぱり、そう…なんだ」

「落ち着いてください、レルネさん。今の”はい”は疑問系の発言ですわ」

「……」

「改めてお聞きしますが、あなたは、”ルネット・フィラエ”先輩の旦那さまなのでしょうか?」

「ど、どうなんでしょうか?」


 ようやく、彼女達の質問の意図を理解した俺はひどい脱力感に囚われながら答えた。


「……違いますよ。どうしてそんなことになったのでしょうか?」


 そして、俺は彼女達が何故そのような推論に至ったのか、その過程を聞くことになった。


(…師匠、孤児院の出身だったのか……結構苦労したんだろうな…。)


 今の姿や生活環境とは、あまりにもかけ離れている過去話にちょっと神妙な気持ちになる。


「では弟さんでしょうか? 失礼ですが、少しお年が離れているようですが?」


「いえ、内弟子でしです。たしかに少し離れていますかね。私が今年20ですから5,6歳くらいでしょうか?」


「「20!!!」」


(いや驚くのそこなのか、確かに日本人が童顔なのは理解してるけど…。)


「…失礼しましたわ、てっきり私達とそんなに違わないくらいに見えましたので…

「5つも上…。えっ…お弟子さん?!」


(…夫婦なら10歳の差はいいのか? 魔導師の感覚ってずれてるな……)


◇ ◇ ◇ 

 

 弟子であることを明かした時から、なぜかラフィーニさんのテンションが高い。

 先ほどまで、マディスンさんの陰に隠れていたのが嘘のようである。


「あの、お弟子さんということは、カズヤさんやっぱり魔導師を目指されてるんですね!!」

「…レルネさん。嬉しいのはわかりますが、さっきから呼び方が変わってますわ。気づいていませんの?」


「っっ、す、すみません。フィラエさん…」


「いいですよ、”フィラエ”は弟子入りした時にいただいた名前ですが、その名前に負けない魔導師になるには、まだちょっと実力不足ですけどね。

 師匠とも混同しやすいでしょうから、どうか”カズヤ”と呼んでください」


「……そんなこと、ないと思います。でも、ありがとうございます。では、あの私のことも”レルネ”でお願いします」

「わたしも”マディスン”でいいですわ。家名のままだと堅苦しいですから」


「わかりました。では改めまして、レルネさん、よろしくお願いしますね。

マディスンさんも、ご懸念のことは解決でしょうか?」


「ええ、”あの”フィラエ一門の方でしたら、万に一つも教会にかかわっているとは思えませんし。

 ごめんなさいね、疑ってしまいまして」

「私からもすみません。マディの教会嫌いはちょっと筋金入りなんです」


「神聖教会となにかあったんですか?」


「……別に、ただの水を”聖水”とかうたって暴利をむさぼっているのが気に入らないだけですわ。

 あんな連中に”医療”の大部分を握られていると思うと、おちおち病気になれませんし」

「…あの、マディは”人体の神秘を学問で解き明かす”ことを目指しているんです。魔法も、その研究の為に必要な解析系や魔法薬の調合とかばかりで……」


(なるほど、レルネさんが医学知識を持っていたのは、マディスンさんの影響なのか。)


「私のことは今はいいでしょう? 

 レルネさん、今はあなたのことを優先すべきではないかしら?

 せっかく、”お願い”して来ていただいたのでしょう?」

「……言わないで、お願い…」


「まあ、話がそれてしまいましたが、レルネさんをどのように”しつけ”たのか興味がありまして、様子を見に伺ったのですわ」

「しつけたって何よ!人をペットみたいに!!」

「では、”しこんだ”でしょうかね♪」

「~~~~~!!!」


(3人いなくても、かしましいもんだな。女の子同士って。

 でも、彼女がいたからかな? レルネさんが”擦り切れず”にいられたのは…。)


◇ ◇ ◇ 


「……失礼しました。お見苦しい所をお見せしました」


「いえ、良いお友達をお持ちですね。

 あんな風にはおっしゃってますが、レルネさんを心配して来てくださったんでしょう?」

「…どうしてそう思うのかしら?」


「そうですね…。ロビーでお会いした時から、ずっと”観察”されてましたようですので、お眼鏡にかなっていると良いのですが」


「それはこれからじっくりと、確認させていただきますわ♪」

「もう、マディったら! ごめんなさい、カズヤさん」


 不敵な微笑を崩さないマディスンさんに対して、レルネさんは申し訳なさそうに俺に対して謝罪の言葉を述べるが、それには及ばない。


「いいえ、あなたにも心強いお味方がおられるようで安心したんですよ。

 昨日の様子では学園内で厳しい状況のように思えましたので」


「あ…そうですね、マディはいつも傍にいてくれて、ずっと私の味方でいてくれました…ありがとうね、マディ…」


「……よく見ておられますのね。すこし評価に加点をさせていただきますわ」


「それは何よりです、赤点をもらわないようにがんばります」


 俺の軽口にはマディスンさんはご不満のようで、そっぽを向いている。


「それでは、レルネさん、練習を始める前にいくつか確認させてください。

「はい、何でしょう」

「昨日の練習後から体の方の変調はありませんか? 具体的には発熱とか倦怠感とかそういう類のものですが」

「いえ、全くありません。むしろ、今すごく体が軽い感じです!

その…昨日ちょっと寝付けなくて寝不足になると思ってましたのに、不思議です」

「どうやら、チャクラ運用での副次効果がレルネさんは良い方に出ていますね」


「どういうことですの、人体に影響のあることなら問題ですわ」


 さっそくマディスンさんからの追求が入るが、ここはきちんと説明すべきだろうな。


「影響といっても個人差のレベルです。チャクラによる魔力蓄積では各チャクラの周辺部位の肉体活性を促進する副次効果があるんです。

 レルネさんのように”適正”レベルでの肉体活性が行われれば、良い効果が得られますが、効果が過剰に出る人には”疲れやすくなる”体質の方もいるということです」


「具体的にはどんな効果ですの、個人的に少し興味がありますわ」

「ちょっと、マディ今は私の質問中よ」


「いいですよ。ここで変に誤魔化すようではマディスンさんの信頼は得られないでしょうから、少し横道にそれるかもしれませんが、レルネさんも復習と思って聞いていてください」


 そして、俺は”魔力と血の親和性”、肉体に存在する”チャクラの位置”についてマディスンに説明する。

 その内容に、彼女は次第に驚くほどの積極性で聞き入ってくる。


「…ですので、その7つのチャクラへ魔力を蓄積することで、チャクラが存在する周辺部の血流、臓器、リンパの働きが活性化されるのです。

 それによる効果としては、部分的な肉体強化や代謝機能の促進、5感の拡張、また免疫系・消化器系・内分泌系の促進による病気への抵抗力の上昇などがあげられます」


 いつしか、メディスンさんの手にはメモが握られており、俺の説明を一言一句を書き記すため、すごいスピードで動いている。


「すごい、すごいわ!もっと、もっと教えて!」

「……マディ、お願い、正気に戻って!」


◇ ◇ ◇ 


「……失礼しましたわ。少し興奮してしまったようですわね」


 クールダウンのために、おなじみのᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)の魔道具を展開するが、いま一つ効果が薄いと感じる。


「なるほどそれで、その副次効果が強く出過ぎると肉体が必要以上に活性して、”疲労状態”におちいるということですね」


 先ほどの興奮状態をなかったことにしたいのか、極力冷静な声で話しているが、若干顔の赤みは隠せていない。

 ここは、大人の対応として見て見ぬフリをしてあげるべきだろうな。


「はい、その理解で問題ありません」


 それ以上の追求は無いようなので、待たせたままのレルネさんの方に話を振る。


「それではレルネさん、お待たせしました。よろしければ、昨日の復習から始めましょうか?」

「はい!」


 俺はレルネさんに昨日行った第1チャクラへの魔力蓄積チャージからの呪文詠唱を指示して、後ろから見守ることにした。


「ファイヤー・アロー!」

「ウォーター・ショット!」

「ウィンド・カッター!」

「アース・ジャベリン!!」

「ライトニング・ボルト!!!」


 どうやら、レルネさんの調子は絶好調らしい。

 昨日まであれだけ苦しんでいた魔力制御を難なくこなし、詠唱破棄による呪文の”つるべ撃ち”でターゲットを粉砕するような勢いで魔法行使を行っている。


 すると、俺の隣にマディスンさんが音もなく立つ。

 目はレルネさんの姿を追っているようだが、俺に用があるのは間違いないな。


「…あなた、何者ですの?」

「ですから、依頼を受けてやってきた魔工技師です」

「わたし、フィラエ先輩の学会に提出された”チャクラ”のレポートを読みましたが、先程のような内容までは載っていませんでしたわ」

「……あのレポートは、学会の中でも上級役員の方にしか閲覧権限がなかったと思いましたが、どのような伝手つてで入手されたのです?」

「秘密ですわ」

「……」

「チャクラは、わたしにも使えますの?」

「医療魔術としてですか?」

「わかってしまいます?」

「あれだけ熱心な様子を見れば」

「……わたし本気で医療魔術の発展を考えておりますの、神聖魔法を盲信する多くの人の目を覚ませるために!

 そのためでしたらどんな犠牲も払ってでもやり遂げる覚悟ですわ」

「…教会に目をつけられますよ」

「かまいませんわ、望むところですわ」


 そう意気込む彼女に対して、俺は告げる。

「難しいでしょうね」


「……どうしてでしょうか。わたしに才能がないと」

「いえ、それは関係ありません」

「どういうことでしょうか?」


「チャクラを使った肉体活性は本来自分用のものです。他人の肉体に対して効果を及ぼす手段がないわけではありませんが、それのためには条件があるんです」

「それはなんですの?」


「術者が患者に及ぼす魔法を、患者自身が”受け入れても良い”と思わなければ、効果がないんです」

「……」

「それはそうですよね、自分の体の中を他人に任せるのは怖いことでしょうから」

「……」


「あなたのお嫌いな教会の”聖水”ですが、どうして未だに求める人が絶えないのかわかりますか?」

「…それは、教会が、信者達を騙して…」


「”ただの水”でもなおってしまう人がいるからです」


「…そんな、まさか…そんなことありえないわ!!」


「『この水は神が与えてくれた「聖水」。飲めば治らないはずがない』

 そう強く信じることが、自らの回復力を活性化させて病気を治してしまうんです。もちろん、全員ではなく、ほんの一握りの人でしょうが、それも”信仰”が持つ力の一端とも言えなくありません」


「…どうしてそんなことを、あなたは知っているんですの?」

「秘密です」

「……」


「逆に言えば、人から信用されない手段は、どんな優秀な効果があっても助からない人が出てくるかも知れないということです」

「……」


「患者にとっては直す手段は神聖魔法でも医療魔術でも、”なおれば”どちらでもいいんです。

 まず患者との信頼関係を結ぶことから始めることが私は最善だと思います。

 ”ただの水”で荒稼ぎする教会は私も許せませんが、それは別の話ですね」

「……」


「むしろ、神聖魔法の良いところを使って、新しい医療魔術を生み出せたら、教会に一泡吹かせられるかもしれませんね」

「…それは、考えてもみなかったわ。とても面白そうですわね」


 そういうと、マディスンさんはとてもイイ笑顔で、俺に微笑みかけた。


◇ ◇ ◇


 思う存分、チャクラからの魔法を撃ちまくったレルネさんを一度制止して、レルネさんを休めさせるために、再びᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)の魔道具を展開する。

 マディスンさんには、この結界の持つ沈静・回復効果に非常に興味を持たれ、また新たな質問を受けることになった。

 ついでに今日は人数もいるので、いつも師匠のためにストックしている紅茶と軽食のセットも振舞うことにした。

 アイテムポーチからテーブルセット+イス3客を取り出したあたりで、2人の顔があんぐりとなったのに、僅かばかりの優越感を感じたのは、俺の心が貧しいのだろうか。


「びっくりしました。テーブルやイスが出てきた時は」

「それに、このお茶とスコーン、絶品のできですわ」

「喜んでいただければ、大盤振る舞いした甲斐があります」


 しばし、歓談をしつつ、レルネさんに練習の手ごたえを確認してみる。


「どうですか、魔法行使での問題はありませんか?」

「ええ、第1チャクラでの制御には全く問題ありません。

 少々狙いのつけ方がまだ甘い所がありますが、実際に魔法が撃てるようになってまだ2日目ですから仕方ありませんね。練習あるのみです」


 ぐっと、かわいらしく拳を胸の前に作り気合を入れるレルネさんを見ると、自然と口元が緩んでしまう。


「それはなにより。しかし、少々派手に撃ち込んでましたが、設備の補修は問題ないのですか?」


 俺は彼女の練習(はかい)の跡に目をやって、おそらく全面改修が必要であろう射撃標的を見ながら、ここの後始末について確認する。


「大丈夫ですわ、この演習場は今のところ彼女の”暴発”を前提に確保されてますので、試験期間まで貸切になってますのよ。設備の修繕も織り込み済みですわ」


(その辺の手配はマディスンさんがフォローしてるのか…)


「ちょっと、失礼じゃない!”暴発”で壊した訳じゃないのよ」

「それはそうですが、結果はあまり大差ありませんもの。補修する人間も気づかないと思いますわ」


 そう言われては反論することも出来ないのか、レルネさんは悔しそうしながらも口をつぐむ。


「第1チャクラのみの魔力蓄積チャージで、どのくらいの魔法が使えそうですか?」

「ええっと、”ファイヤーアロー”クラスで5回くらいでしょうか…」

「それは、また…すごいものですね」

「はい!! あ、それと、今はこれだけで精一杯なのですが…」


 そういうと、彼女は左右の両の手のひらを上に伸ばすと、2つの光の玉を生み出した。


「…無詠唱の2重詠唱ダブルキャスト。レルネさん。いつの間に……、お見事です」

「ありがとうございます!!」


 今の彼女は正に昇り調子の真っ只中にいるのだろう、自分で限界を考えなければ、おそらくどこまでも昇っていけるだけの勢いがある。


「では次は、チャクラ連携の練習に行きましょうか?」

「は、はい」


 そういうと、彼女の様子が急にソワソワと落ち着きの無い様子に変わる。

 先程までの自信に満ちた姿からの変化をいぶかしく思い、声をかける。


「どうかしましたか?」

「あ、あの、出来れば、また一緒に……。お願いできますか? 

 早くチャクラを繋ぐ感じを掴みたいので…」


「ええ、いいですよ。焦る必要はありませんが、今はその意気を買います」

「あ、はい。『鉄は熱いうちに打てですね』」

「その通り、正しい使い方です」


 俺は”魔力同調”のネックレスをポーチから取り出すと、一つをレルネさんに渡して、俺自身も首にかけた。そして、


「マディスンさん。あなたもどうですか?」

「え!?、えーー!!」


 俺が”3つ目”のネックレスをマディスンさんに差し出したのを見たレルネさんが、突然声を上げる。



◇ ◇ ◇ 


城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 第7演習場 マディスン・セイレン


◇ ◇ ◇ 


 カズヤさんの差し出したネックレスを手にしながら、私は彼に尋ねる。


「どういうことかしら? 何が始まるんですの?」


 レルネさんが両手をクロスして×字(ばってん)を作り、わたわたと首を横に振るというおかしな踊りを踊ってるが、カズヤさんは私の方を向いているため気づかないまま説明をしている。


「チャクラ同士を連携させる訓練なのですが、レルネさんはまだ慣れておられないので私がこの”魔力同調”の魔道具でチャクラの練り方の補助をしているんです。

 そしてこれが外から他人のチャクラを活性化させる”手段”の一つになります。ただ、参加されるには……」


 そこまで聞いて納得がいった。

 正直、彼の物言いについてはしゃくさわることも多く、実際腹の立つことも多かった。

 しかし、示された知識は深く、興味が尽きない。

 いや、もっと多くのものを彼から引き出したくてたまらない自分がいる。


「わたし自身が”受け入れても良い”と思わなければ効果がない、参加しても意味がないということですのね?」

「その通りです」


 わたしに”患者”の立場で参加するか? という問いかけだということは分かった。


「でしたら是非にも参加させていただきますわ。普段出来ない”体験”でしょうから」

「そうですね、あなたの将来のかてになればと思います」


 私の回答を聞いた彼は微笑み、レルネさんはがっくりと肩を落としている。


(レルネさんは、私を参加させたくないみたいですけど…彼女自身が経験済みだと言うことは危険なことはないでしょうに。なんででしょうか?)


 疑問に思いつつも、彼の説明の通り魔道具を起動してスタンバイする。


「では、レルネさんは昨日と同じく魔素を集めた後は、私の制御を受け入れてください。マディスンさんは私たち2人の魔力を”受け入れる”イメージを持っていただければ魔道具が”魔力同調”を後押ししてくれますので」


 彼の説明に軽くうなずき、練習の開始を待つ。


「では、始めましょうか。レルネさん、お願いします」


 カズヤさんの開始の言葉を受けたレルネさんは、なぜかわたしをひと睨みした後、魔力の集中態勢に入る。


 私は、彼の言ったとおり2人に合わせるように”受け入れる”イメージを強く想い描く。


 そして、そのまま、意識を飛ばしてしまった。


◇ ◇ ◇


《今日の魔道具》

●”休息結界”ᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)

精神の安息と体力の回復を促進する冷気の結界……のはず

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