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006

前回の話がなぜか予想外に好評だったので、もう少し引っ張ることにしました。

この依頼の話は、昇格試験までの単なるつなぎだったんですが・・・

独自設定(ウソ設定)が加速します。


6話


◇ ◇ ◇ 



城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 第7演習場 カズヤ



◇ ◇ ◇ 



 ラッフィーニさんは煙を上げる射撃用の標的を見つめたまま、凍り付いたように動きを止めている。


「ラッフィーニさん?」


「わ゛、わ゛たし、ま゛ほう゛…できました、うてました!」


「…ええ、お見事です」


「わ゛たし、わ゛たし、いままで、ずっとしっぱいばかりで!!」


「…もう、成功したんですよ、間違いありません」


「”みかたごろし”とか、”ばくだんむすめ”とか、かげでいわれつづけて!!”」


「……」


「ずっと!、ひとりでれんすうう、ばっかりで!、だれもいなくて!!!」


 俺は無言で彼女の傍に近づくと、ᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)の魔道具を展開する。


 心の沈静化を促す冷気が俺達の周囲に産まれたのを確認した後で、あい変わらず煙を上げる標的を向いたままの彼女の正面に回り、視線を合わせた後でゆっくりと告げる。


「あなたは優れた素質を持った魔導師です。きちんと魔力の制御を覚えれば、もう誰もそんなことを言う人間はいなくなります」


「…ホントに?」


 疑う言葉を口にする彼女に俺はあえて強い口調で言い切った。


「絶対です。ですから涙を拭いて顔を上げてください」


「…え? …わたし、ないてる?」


「ええ、よかったら、これをどうぞ」


 初めて自覚したように顔に手を当てる彼女に、ᛚᛚ 水+浄化(ダブル・ラグ)の『刻印』がされたハンカチを差し出す。

 ハンカチを受け取った彼女は、自身が全く気づいていなかった涙の流れた目元から頬の辺りにハンカチを当てる。


「これ、すごいですね。しっとりしてるのに、ちゃんと涙も吸い取ります」


「布自体が濡れている訳ではないので、しばらくは汚れも勝手に落としますよ」


「フィラエさん、すごいんですね、色々」


 そういってハンカチを返そうとする彼女の手を押しとどめる。


「よろしければ、どうぞ。他にも何枚か持ってますので」


「まあ、女性の敵ですね!!プレイボーイなんですか?」


 そういうと、彼女は弾けるような微笑みを初めて見せた。

 その彼女に対して俺は苦笑を浮かべるつつ返答した。


「いえ、泣き虫の妹達が2人いますので、常備品です」


「いい、おにいさんなんですね」


「いや、泣かせる準備をしている時点で兄貴失格ですね。愚兄を自覚しています」


「まあ!!確かにそうですね!」



◇ ◇ ◇ 


 しばらく2人で語り合りあい、彼女の感情も落ち着いてきた頃合を見て、俺は口を開いた。


「さて、先程の感覚を忘れないうちに反省会です。『鉄は熱いうちに打て』と言いますから早いほうが良いでしょう」


「?? それはどういうことでしょうか?」


「失礼。鍛冶の格言の一つですね。

硬い鉄も、高熱を加えると柔らかくなります。その熱を持った柔らかな時を逃さず、形を打ち整えよ。ということです。

 そこから転じて、この場合は、精神が柔軟な若い内に自らの能力を伸ばす努力を怠るな。と言う意味あいに理解して下さい。

 時が過ぎて頭が固くなると、叩いても形を変えにくいどころか、割れてしまう場合もありますからね」


 そう説明すると、ラフィーニさんは感心したように、


「とても、含蓄がんちくのある言葉ですね。フィラエさんは鍛冶にも知識がおありなんですか?」


「いえ、たまたま格言だけを知っているだけの、上っ面の知識です。俺は単なる魔工技師ですので」


「…そうでしょうか?」


 なにやら納得いかないような彼女を顔をしているが、俺には鍛冶の知識など本当に持っていないので、そのまま彼女に確認するべきことを告げる。


「それでいかがでしたか? チャクラへの魔力蓄積をやってみた感想は?」


「あ、はい!すごいんです!。今までまるで制御できていなかった魔力が、とても大人しいと言うか、いつもは、どれだけ制御をしようしても、どこかで弾けてしまうのに!」


 ᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)の効果はまだ続いているはずなのだが、彼女はまたもや興奮を抑えられなくなってきている。


「…それは、先程の説明にあった魔力の集積場所を、体表面からチャクラに変えたことの効果が正しく現れた結果です。特にラフィーニさん程の大量の魔力を、体表面全体に均一制御するのは困難ですからね」


「そうなんです。前は、暴れ出しそうな魔力の場所を片っ端から押さえて回ると言うか、そのうち、それが追いつかなくって最後には暴発してました」


 苦労していた過去を振り返るように彼女は話すが、もうそこには辛いことを語る口調は存在しない。


(うん、いい傾向だ。)


「では、次の質問です。チャクラへの魔力の蓄積は体に辛くはないですか? 体のダルさや痛みなどはありませんか?」


「え? ハイ、特に痛みはありません。ダルさ、というのとは少し違うのですが、チャクラに魔力を集めている時に、その、何か温かいものが体の中に出来上がるみたいな感じですね」


「それは、圧縮された魔力の持つエネルギーが一部熱に変換されている副作用ですね。耐えられない程の熱さではないですか?」


「……そんなに熱くは、ありませんね。むしろ…」


「何か問題ですか?」


「!!いえ、全く問題はないということです!はい!」


 突然、慌てたように答える彼女の顔が若干赤い。本当に熱は問題ないのだろうか?


「それでは、その点はひとまず置くとして、どうでしたか、詠唱破棄での魔法行使は? 魔力消費が通常よりも多くなる傾向になりますが、負担が大きくはなかったですか?」


 何を言われたか分からないと言う顔を彼女はしている。


「詠唱破棄ですか?」


「ええ、先程の『ファイヤー・アロー』詠唱しないでコマンドワードのみの魔法行使でしたよ」


「ええっー!! ああっウソ! 私…詠唱破棄しちゃった! ホントに!?」


 どうやら魔法行使が成功したことで、詠唱破棄には気づいていなかったようだ。

 ”どうしよう、ホントに私が!”と慌てふためく彼女を落ち着かせるのに、しばしの時間を取ることになる。


ᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)よ、ちゃんと仕事してるのか?)


◇ ◇ ◇ 


「ぅぅぅ、失礼しました……。お見苦しい所を…」


「それは、もう十分伺いましたし、別に私は気にしてませんから」


「ハイ…自己嫌悪です。私ったら、あんな姿を…ぅぅぅ」


(これは、無理にでも話を進めて、他に意識を向けさせたほうがいいな)


「それでは、詠唱破棄での魔法行使もラフィーニさんにとっては影響無し、と言うことで、いや、すばらしい資質です」


「ハイ…。でも私どうして詠唱破棄が出来たのかわからないです」


(よし、このままこの流れで行こう)


「では、そのあたりの私の見解です。

まず、魔法の詠唱は術者のイメージを構築を補助し、魔法への意識の集中を促すために利用されます。ここまではいいですね」


「はい、魔法行使の手順と効果のイメージを詠唱内に盛り込むことで術者の負担を減らすと習いました」


「そうです。つまり詠唱は必ずしも必要なものではないんです」


「ええ!?、そんなことは先生言ってませんでしたよ」


「それはそうです。魔法の熟練の少ない生徒に、いきなり詠唱破棄を教える教師は……いないとはいいませんが、まず、いません。希少です」


 少し、過去のある辛い日々を思い出したが、今は気にすまい。


「はあ、そうなんですか」


「ええ、その通りですとも。普通は詠唱のある魔法行使から教えるわけです。

ですが、”十分な魔力の確保”と”明確なイメージ”が術者の能力で出来るのなら詠唱はしなくても、魔法の行使はできるんです」


「十分な魔力の確保と明確なイメージですか?」


「はい、ラフィーニさん、あなたは既にその2つの条件をクリアしていると私は見ました。だから詠唱破棄が出来ても不思議ではないんです」


「…魔力の確保はチャクラでの魔法蓄積ですね。でもイメージの方は?」


「それは、あなたの努力の積み重ねによるものですよ。何度も何度も繰り返した練習が魔法のイメージをあなたに刻みつけたのです。それはこれまでの努力の成果です」


「……」


「一人でも頑張り続けた成果です。大いに誇って下さい」


「……」


「良くこれまで頑張りましたね。尊敬します」


「……あ゛、あ゛りがとう、ございます」


「はい、どうぞ」


「……ホントに、何枚も持ってるんですね」


◇ ◇ ◇ 


「落ち着きましたか?」


「ええ、度々すみません。もう大丈夫です!」


(おお、心なしか顔に自信が見えるな。若者は、いや女の子は変わり身の速さは凄まじいな)


「フィラエさん、一つ質問です」


「はい、なんでしょう?」


「チャクラに溜めた魔力は、どうしてあんなに安定しているんですか?

私ほどんど制御を手放していたのに。じっと(とど)まっているみたいでした」


「それはですね、チャクラがあなたの代わりに魔力を保持していたからです」


「チャクラがですか?」


「先程、血が魔力の蓄積に向いた物質だと説明しましたよね?」


「ハイ、そして血流の多く集まる部分にチャクラが存在すると」


「ええ、つまり血は魔力を引き寄せる性質があり、その血の濃い場所にあるチャクラにも魔力を引き寄せる性質があるわけです。

 …一点、重要なことですが、蓄積の時に、魔力を完全に血の中に”溶け込ませる”ようなイメージは持たないでください。血液は体中に流れて行きますから、そのイメージが過ぎるとチャクラに魔力を留め難くなります。

 あくまでチャクラの場所に集めるイメージで。いいですね」


「はい、あくまでチャクラに集めるイメージ。血に溶け込ませないように、ですね」


(一応の予防線だが、問題ないよな……)


 俺がある”懸念”について、検討していた所、一応の理解を示した彼女は更なる質問を重ねてくる。


「もう一つ、いいでしょうか?」


「はい、なんなりと」


「……あの時、第1チャクラまでは魔力を溜めることが出来ましたが、その後の第2チャクラへの蓄積がどうしてもうまく出来ませんでした。どうすればいいのでしょうか?」


「それは、チャクラの運用で最初につまづく部分ですね。あの時、第2チャクラへ魔力を溜める時に、どんなイメージで魔素を集めようとしましたか?」


「え、それは、「根から水を吸い上げる」ですけど……」


「はい、それだと第1チャクラにばかり魔力が集まって、第2チャクラへは魔力がいかない。むしろ第1チャクラが壁のように邪魔をしていませんでしたか?」


「あ、はい! まさしくその通りです!」


 ”魔力感知”のメガネを通して見ていた光景から、おそらく彼女の引っかかっている部分を解説すると、我が意を得たりというようなイイ笑顔を見せてくれる。


「…正直に言いますと、この部分はチャクラを利用した魔力制御では、数段上の難易度になります。早晩一朝一夕には会得できるものではないんです」


「……」


「魔力の暴走については、もう制御の問題も大丈夫みたいですから、これ以上の修練は急がなくても良いのですが・・・やる気みたいですね、その顔は?」


「はい!!」


 イイ笑顔でそう宣言すると、強く言い切った。


「お願いします!。私、途中であきらめることが嫌いなんです」


(それは、もう、十分分かっていますよ。)


「わかりました。ではこれを」


 そういうと、俺はアイテムポーチから、手のひらの大きさくらいの一本のクリスタルを取り出す。


「これは?」


「これは、7つのチャクラの修練用に私が作った魔道具です」


「きれいな色ですね。中の”花”というか”風車”みたいのがチャクラなんですか?」


 そう、今彼女が言ったようにクリスタルの中心軸に沿って、7色の風車が縦に重なるように積みあがっている。

 一番下の第1チャクラが(赤)、第2(橙)、第3(黄)、第4(緑)、第5(青)、第6(紫)そして一番上の第7チャクラが(白)の風車として収められている。

 そしてそれらには本来、ᛃヤララグケンラド虚空ニイド第六感ペオーズ万物流転イングの意味を持っているのだが、これは単なる魔力制御の練習道具なので、魔力を流しても中の風車が回るだけの”おもちゃ”である。


(マリーとマーチには結構好評なんだけどな、これ)


「では、ちょっと練習方法の実演をしますので、良く見ていて下さい」


「あ、はい。お願いします」


 俺は、彼女の正面に正対するように立ち、そのクリスタルを両手で挟み込むように持つ。

 そして両手に魔力を集めて、それをクリスタルの下から吹き上げるように魔力を通した。

 始めは、一番下のᛃヤラの第1チャクラが回りだし、それが勢いを増すと、その風を受けた一つ上のᛚラグの第2チャクラが動き出す。

 そして、徐々にクリスタルに通す魔力の量を増やし続けていくと、第3、第4と次々にクリスタル内の風車が回り始めた。

 そうして、第5、第6風車を回し、最後の第7風車が回り始めると、ほのかな光が、クリスタル内に満ちた。


 それをを持って、俺は魔力の供給を止める。


 しかし、クリスタル内の風車は回り続ける。


「キレイ……」


 俺は魔力感知のメガネを彼女に渡すと、


「メガネをつけて、見て下さい」


「あ!!すごいです! 廻ってる! 魔力が、下から上に突き抜けた魔力が、また下に戻ってぐるぐる廻っています」


「それが、魔力の”永久機関”、チャクラの全開状態ですよ」


「これが、目指す先ですか…」


 しばし、クリスタルの見せる光景に魅入られたような表情を向けたいた彼女だったが、


「あ、光が、散っていきます」


 そうさびしげな声を漏らすと、ほぅと一息、ため息をついた。


「いかがですか、チャクラの動かし方をイメージするために作ったものですが、上手くイメージがつかめましたか?」


「ええ、これなら。早速、やってみたいです!」


 今までにない程、一生懸命なやる気の見せる彼女に、何か妹達を見るような気分になりながらをチャクラ・クリスタルを手渡す。


「最初は、同じように第1チャクラに魔力を集めて、そこから少しだけクリスタルに魔力を流して下さい」


「ハイ!」


 先程と同じく彼女の足元から魔素が吹き上がり、第1チャクラへの蓄積が行われる。


(最初のステップはもう全く問題ないな、確実に壁は越えたみたいだな。)


「いいですよ、ではすこしだけクリスタルへ魔力を通してみて下さい」


「わ、わかりました」


 クリスタルへとつながった魔力を受けて第1風車が回りだす。


 そして、それ合わせるかのように第1チャクラの魔力が臨界に達し、メガネを通して強い光を確認する。


「いいですよ、ではその力を第2チャクラへぶつけるようにつなげてみて下さい。


「///は…ハイ……。いき…ます」


 やはり、チャクラに蓄積される魔力の余剰エネルギーが発熱しているのか、若干上ずった声でラフィーニさんは答える。


 すると、第1チャクラの放つ光の上面がゆっくりと縦に引き伸ばされたかと思うと、一本のひも状の光が第2チャクラへと伸び始める。

そして、クリスタルの第2風車がかすかに動いた。


(おお、これは意外に早く第2チャクラを動かせるか。)


「いい感じです。徐々に第1チャクラの力を上に押し上げるように」


「ハ…イ。徐々に…上に…ああ、押し上げて…くる」


「クリスタルの風車の動きを、体内のチャクラで再現するイメージで、ゆっくりと」


「わ…かりました…、同じように…風車の…動き……をっ!!!」


 その言葉と共に第1チャクラに蓄積した光が風車の動きを真似るように、渦を巻き始め、足元からの魔素はその渦に吸い上げらるように勢いを増す。


「あ、はぁ…動いて…ます。おなかの中で、チャクラが動いてるのが、わかります」


 先程まで、上へと伸びていたひも状の光も第1チャクラの動きに合わせて、蛇のような螺旋の形に姿を変えていく、そしてその先端が、第2チャクラへとつながる。


「!!!あ、あ、これ……、ムリ…、足、力が…」


 そこまでいうと、彼女の膝がカクンと力なく折れた。


「あぶない!!」


 俺は、緊急避難として彼女の体を支えると、念のために設けていたクリスタルの安全装置が、チャクラにたまった魔素を体外に強制排出させていた。


 彼女の様子を見ると、顔が真っ赤に染まり、息も若干荒くなっている。


「…大丈夫、ではないみたいですね。ラフィーニさん、今日はこれ以上は…」


「まって…、待って下さい…。すみません。もう大丈夫です」


 そう言い切ると、彼女は自分の足で立ち上がる。

 すぅ、はぁー。と体にたまった熱を逃がすように深い呼吸を繰り返す。


「本当にすみません。第2チャクラにつながった時に、ちょっと、そのビックリしただけです」


「いや、しかし……。やはり、熱が体によくない影響を与えているのでは?」


「いえ、その、そうじゃないんです。熱は関係ないんです。…イイだけで…。

いえ、とにかく大丈夫ですから!!」


 俺の追及をぶった切るような強い口調で、彼女は大丈夫を繰り返す。


「…分かりました。確かに、突然倒れこむまでは順調でした。とても今日初めてチャクラを知った人とは思えません」


「…私、有望ですか?」


 先程までの影響がまだ残っているのか、少し潤んだ目で俺の顔をまっすぐ見上げる。


「ええ、少なくとも私よりは余程優秀です」


「そうですか、あなたに言ってもらえると、私自信が持てます」


(俺なんかの言葉にそんな力はないと思うが・・・)


 ”私、絶対引きません。”と体現するイイ笑顔で彼女は続行を促す。

 とてもじゃないが、彼女のやる気を折る為の言葉がどこを探しても見つからない。


「……続けるわけですね?」


「はい!!」


 それはもう、イイ返事で俺の心配を駆逐する。


「それでは、今日は次で最後にして下さい」


「でも、私まだやれます!」


「その代わり、最後は俺も手伝います」


「え?、手伝うって、どうやってですか?」


 これをつけて下さい。


 そういって俺は2つのネックレスをポーチから取り出す。

 その2つのネックレスには、いずれも同じルーンが刻まれた石がチェーンによって繋がれている。


 そのネックレスを彼女の髪をたくし上げて、首に通してあげると、おれ自身もネックレスを首にかけた。


「まず、そのネックレスに魔力を軽く通して下さい。それで魔道具が起動したら、クリスタルを持って立ってください」


 俺の言われるままネックレスの起動を果たしたラフィーニさんはクリスタルを

両手に挟むと俺の正面に立つ。


「あの、これでどうするんですか。これでチャクラ連結を練習をすればいいんですか?」


 そして俺もネックレスの起動をした後、目の前の彼女に訓練の開始を促す。


「細かい制御は俺に任せて、ラフィーニさんは、ただ魔素を集めて下さい。何かあっても、また支えますので」


「??、はい。集めるだけでいいんですか? では……」


 そういうと、おなじみの魔素が足元から巻き上がる流れが産まれ、第1チャクラへと魔力を集める体制に入る。


「ええ、そうです。これは2人の魔力の同調を行う魔道具で、集団魔法で息を合わせるときなどに利用しますが、こういう使い方も出来ます」


 そういうと、俺は彼女の集めた第1チャクラの魔力を練り、2本の螺旋を作る。

クリスタルでは第1風車が回転し、すぐさま第2風車へと力が流れ出す。


「え、あぅ、わ、わたしの、チャクラが勝手に、動いてます」


 突然のチャクラの回転に驚いたのか、いきなり腰が砕けそうになるが、折込済みのため、彼女の肩を持って、体制を保持する。


 そして、俺の作った2つのチャクラ・ラインは、ねじり合うように上へと向かい第2チャクラへとつながった。


「か、はぁ、ああ、つながって……ます」


「そうです。そして連携にはチャクラをこのように動かします」


 そういうと、俺は2つの螺旋の回転を上げる。


「ああぅ、まわってます、ちゃくらが。竜巻みたいに、魔素を上に持ち上げています」


「ええ、この感覚を忘れないで、覚えておいて下さい。一度チャクラが回りだせば、魔素の吸入量はチャクラの回転数で調整出来ます」


 クリスタルを見ると第2風車は完全に廻っており、魔素の蓄積順調に進めていく。


「は、はぃ、わすれません。絶対、おぼえま…す」


 クリスタルを見れば第2風車も既に臨界を示す勢いで回転している。


「第2チャクラも魔力が一杯みたいですね。どうします?

 先に行きますか、それとも、やめますか?」


「っっ、お願い、さいごま…で見せて下さい。この先、のせかいをみたいです。


「分かりました。一気にいきますよ」


 そういうと、俺は第1・第2チャクラの回転数を限界まで上げると、第2チャクラからのラインを、一気に頭頂の第7チャクラまで突き通した。


「はああぅ!!!」


 そして、ラインを下から順に捻って行く。それにあわせて、第3,4,5,6のチャクラが動き始める。回転数は下から徐々に上がっていき、すべてのチャクラの回転が臨界間近まで高まると、ようやく第7チャクラが動き始める。


 そして、2人の第7チャクラから圧縮された魔力の奔流が吹き上がると、重力に引かれるように再び足元へと降りて行き、再び各第1チャクラへと取り込まれていく。


 魔力感知のメガネがなくても感じられるくらい感覚が敏感になっているのか、彼女はその様子をしっかりと見ているような口調でつぶやく。


「これが、魔力の永久機関・・・」


「そうです。あなたなら、ここまで一人でもこれますよ」


「あの…もう少し、一緒に教えて下さい。えっと、まだ試験まで、2週間ありますから…、お願いします」


 何かを期待するような、そんな神妙な顔でお願いされてしまっては断ることは非常に困難だと思う。

(まあ、問題ないだろう。彼女は優秀だし)


「わかりました。いいですよ」



◇ ◇ ◇ 


《今日の魔道具》

●”浄水ハンカチ”ᛚ 水・ᛚ 浄化(ダブルラグ)

ウェットタイプの肌触り、簡易的な汚れの分解除去も行う。


●”休息結界”ᛁ 休息(イズ)ᛉ 結界(エオール)

精神の安息と体力の回復を促進する冷気の結界


●”魔力感知”ᛜ 命(イング)ᛈ 発見(ぺオーズ)生体および魔力のエネルギーを”光”として感知可能にするためのメガネ。


●”チャクラ・クリスタル”

ヤララグケンラド虚空ニイド第六感ペオーズ万物流転イングのルーンが本来なら『刻印』されるが一部ルーンが未開放のため、単なるチャクラ連携の練習用具。安全装置として、体内のチャクラに溜まった魔力を対外に排出させる機能を持つ。


●”魔力同調のネックレス”ᚨ 伝達(アンスル)ᛉ 同調(エオール)ᛜ 生命(イング)ᛗ 人(マン)


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