005
前回に続き、魔法の独自設定に加えて、怪しい人体の神秘解説が飛び交いますのでご注意下さい。
5話
城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 玄関ロビー カズヤ
◇ ◇ ◇
ランクアップ試験のあさってに控えても、特に準備が必要なこともなかった俺は、昨日の受けた依頼の件で依頼人の「レルネ・ラッフィーニ」に会うため、彼女の通う国立魔導学院へとやって来た。
現代の世界において、魔導師となれる素質を持った人間は希少であり、その素質を保護および育成のため、この国でも多大な支援を行っている。
歴史を感じさせる古い校舎ではあるが、アンスルでも閑静な高級住宅の一角に、かなり広大な土地を使って建てられた学院だけに、いかにも金の掛け方の違いを感じた。
ちなみに師匠のルネット・フィラエも、ここの卒業生とのことだ。
(万が一にもありえないが、昨日の師匠の計画では俺もここに通うことになるのか?)
自分にそんな未来が来るとは想像もつかなかった俺は、不毛なことにエネルギーを使っても無駄でしかないと判断し、ロビーに設けられた受付の女性に訪問の目的を告げた。
身分を証明するためギルドカードの提示も忘れない。
「すみません。冒険者ギルドの依頼で参りました、カズヤ・フィラエといいます。こちらの生徒のレルネ・ラッフィーニ嬢にお会いしたいのですが、お取次ぎをお願いできますか?」
「レルネ…ラッフィーニ様ですか? 少々お待ちください。係りのものを呼びにやらせますので」
その返答を受けた後、ここに依頼人が来るまでの時間を潰すため、ロビーに置かれている応接セットに向かった。
「…また?」「…あきらめ…、…呼んで…」「今度は……保つかしら…」
なにやら背後で不穏な会話が漏れ聞こえてきたが、ここはあえて聞こえないことにすべきだろうと判断する。
サワサワという囁きと、物見高い視線にさらされて居心地の悪い空気の中待つことしばし、ロビーの中に駆け込んでくる一人の少女が目に入った。
この世界の成人年齢である15歳をようやく迎えたばかりと思える少女は、ロビーの中にいる人間をせわしなく見回していたが、応接セットに座る俺の方を見た瞬間、まっすぐに駆け寄ってきた。
「あ、あの冒険者ギルドの依頼を受けてくださった方でしょうか?」
「お嬢さんがレルネ・ラッフィーニさんでしたら、その通りです」
「えっ、あ、すみません。レルネ・ラッフィーニです」
「申し遅れました、私はカズヤ・フィラエというものです。魔工技師を営んでおります。こちらは依頼書の控えと私のギルドカードです。ご確認ください」
「これはご丁寧に…、ええっ!、魔工技師?魔導師の方ではないんですか?」
「はい、その通りです。ギルドには魔工技師として登録しておりますし、魔道具の作成が私の仕事です」
俺の回答と提示したギルドカードの内容を確認した彼女は目に見えて落ち込んでしまった。
「そうですか。すみません。ご足労いただいたのに申し訳ないのですが、依頼内容に何か取り違えがあったみたいですね」
「間違っていませんよ」
「えっ、でも……」
「依頼書の控えもこうして持ってきていますし、書かれている内容も十分理解しています。魔法制御の技能向上のための指導ということで間違いないですよね?」
「は、はい、その通りです!」
「ならば、一度あなたの魔法を見せていただけませんか、その上で私にお手伝いできることがあるかもしれません。
もう期限まであまり時間もないんでしょう?」
「……わかりました。魔法実技の演習場を借りていますので、そちらでお見せいたします」
「了解です。ご案内いただけますか?」
そして、俺達は一層騒がしくなったロビーを後に、彼女の案内で演習場に向かった。
◇ ◇ ◇
城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導学院 第7演習場 カズヤ
◇ ◇ ◇
到着した演習場は屋内ではあるが魔法の実演を考慮した広めの造りで、なおかつ魔法吸収結界を施された壁と天井に囲われた頑丈な構造を持っていた。
(さすが、国立の設備だけあって、魔石の使用設備も贅沢なもんだな。)
「それで、どうしましょうか?」
「はい、そうですね。まずはあなたの一番得意な、というか使い慣れた魔法をみせてもらえますか?」
「判りました。少し離れていて下さい」
そういうと彼女は腰に挿していた魔法発動体のワンドを右手に持つと正面に構え、精神を集中するためか、じっと目を瞑った。
そして、ゆっくりとした詠唱が始まる。
それに合わせて彼女の周囲の魔素の濃度が高まるのを感じる。
『世界に満ちるマナの力よ。わが意によりて集い、灼熱の奇跡を起こせ…』
さらに濃度を高めた魔素が、彼女の詠唱によって火の魔法効果の前兆を発現させる。
『わが敵を打ち砕く、炎の矢を……《ファイヤー・ア・・・》』
そして、魔力の高まりが最高潮となった時、空気が爆発した。
それはもう見事に。
10メートルは距離をとっていた俺のところにまで、結構な熱い風がやって来たがこっそり身に着けていた防御結界の魔道具を発動させて熱風を回避した。
(なるほどな、これは見事に制御が追いついていない・・・それにしても無傷か。)
おかしなことにあれだけの爆発の中心にいたはずの彼女は、魔法が失敗したことで肩を落とした状態だったが、全く身体的にはダメージを受けていないようだ。
さらなる確認のため、俺はリクエストをする。
「火魔法以外は使えますか?」
「え、ハイ…、発動までには至りませんが、途中まででしたらできます」
自信なさげな困り顔をしつつも、あきらめきれない意思はまだ彼女の中に残っているようだ。
「では、一通りお願いできますか、結論はその後で出させていただきます」
それから、彼女は、”水””風””土””雷”と順番に魔法の詠唱を繰り返し、そのたびに爆発をした。
「……以上です」
心なしか、口調も途切れがちになっているが、ここはあえて質問をする。
「体調はどうですか? 魔力切れでかなり疲れてるのでは?」
「え、いいえ。いつもの練習はもっと長く続けてますから、休憩は1時間に一度くらいで取る事にしてますから、まだ平気です」
「……1じかん、うちっぱなしなんですか?」
「それでも一度も成功しないんです」
(これは、とんでもない娘だ、誰も気づいていないのか?)
「いつも、一人で練習しているわけですか?」
「っ…はい。最初の魔力干渉の段階までは、みんな一緒に練習していたんですが、イメージングの段階で暴発が起きるようになると、危険だからと私を避けるようになってしまって、今は一人でやってます」
「先生方はなんと?」
「あなたのペースでいいから、落ち着いてあせらず魔力を”練り込む”ことを覚えなさいと」
(んー、どうしてもその辺は感覚的な表現になってしまうわけだな。一度その”練りこむ”感覚を体で習得できれば壁を越えられることになるか…)
しばし、アドバイスの方針をまとめるため、黙考する俺の様子を見ていた彼女が意を決したように口を開く。
「あの、はっきり仰っていただいてかまいません。もう慣れっこですから、私、何とか自力でがんばりますので」
(強い娘だな…。才能を活かすことが出来ていないのは辛いだろうに、心が折れることなく、努力を続けることができることは、それだけで評価に値する)
「わかりました。お力に成れるかもしれません」
「ハイ。お付き合いいただいて、ありが……とう、えっ?」
「ええ、なんとかなりそうです」
「ホントに?」
「そうです。あなたの魔力の流れを見ていて気づいてことがあります」
「魔力の流れ? 見えるんですの? 流れが?」
「ええ、これでね」
そういうと俺は”魔力感知”命・発見の『刻印』を施された魔道具のメガネを取り出して見せた。
「これを目の前にかざして、魔力を流してみて下さい。ゆっくりね」
そういうとメガネを彼女に手渡して使い方を教える。
メガネを受け取った彼女はおっかなびっくり自分の目の前にメガネをかざすと持ち手に魔力を集める。
「これが…魔力の流れ?」
おそらく、彼女の今の視界には世界を取り巻く魔素の姿を初めて目にしているのだろう。
「どうです、生物の俺達の周りは魔力の光が強くまとまって、地面や射撃用の的などの無機物にも薄いながらも魔力の層があるのがわかりますか?」
「ええ、判ります。特に壁と天井は強い光を放ってますね」
「それは魔法結界ですね。実習時の魔法の流れ弾を、外に飛び出さない為のものだと思います」
初めて目にする魔素の存在にかなりの感動を受けたのか、さまざまな方向を見ては小さく声を上げている姿は、年相応の少女のものだった。
「それでは、よろしいですか?」
俺が声をかけたことで、あまりに夢中になった姿を見せてしまったことに気づき、彼女は恥ずかしげに謝る。
「すみませんっ」
「いいですよ。いま見た”魔素”を自らの制御下において行使するのが魔法です。これは判りますよね」
「はい、改めて目してとても驚きました。この魔道具はあなたが?」
「ええ、魔工技師ですので」
余程メガネの見せた景色が気に入ったのか、手元のメガネにチラチラ視線を落としている。
自分の作品に興味を持ってくれたことは非常に喜ばしい気分であるが、ここは本題に話を戻そう。
「まずは正しい現状認識が必要と思います」
「はい、私の魔力制御が拙いということですね…」
そういうと先程までのはしゃいだ気分がまた下降しだす。
「そうですね。まずはそれを別の道具で説明したいと思います」
”別の道具”のという言葉の部分が、彼女の興味引いたのか、俺の話に集中する姿勢を見せた。
その機を逃すことなく、俺はアイテムポーチからあるアイテムを取り出した。
「それは?何か風船みたいですが・・・」
「はい、普通のゴム風船です」
この世界にもゴムの木が存在しているのか、素材として天然ゴムも流通しており、マリーとマーチに強請られて買ったゴム風船のいくつが残っていた。
彼女から若干期待はずれの気配を感じていたが、それを無視して説明を続ける。
「まず、魔法を使うために魔素を集めた状態がこれになります」
俺はそうして、普通に空気を吹き込んで風船を膨らませた風船を彼女に見せる。
「そして、膨らんだ状態の魔力に術者は自らのイメージングによって魔法効果を持たせ、それを対象に対して魔法を放ちます」
俺が風船の吹き込み口を押さえていた指の力をゆるめると、当然の様に中の空気が外へと噴出されてきた。
「これが通常の魔導師の魔法行使のモデルと思って下さい。そして次がラフィーニさん、あなたの場合です」
そうして俺は新たに”吸気パイプ”風・移動の『刻印』を施した魔道具をポーチから取り出すと、先程の風船の吹き込み口に差し込み、魔道具を起動する。
魔道具の力で強制的に空気を送り込まれた風船は、あっという間に先程の大きさを超え、限界いっぱいの5倍以上の大きさにまで膨らんだ。
「……これが私の状態、なんですか?」
彼女は今にも破裂しそうな状態の風船を目にして、信じられないというような口調で疑問の言葉を述べる。
「そうです。そしてあなたの魔法発動の段階がこうなります」
そして俺は胸ポケットに入れていた針を取り出すと、風船の表面に突き立てた。
バァンッ!!!
既に限界まで膨らんでいた風船が針を受けて耐えられることなど出来るわけもなく当然のように破裂した。
突然の破裂音にビックリしたのか、彼女は呆然とした顔で俺のほうを見つめていた。
そんな彼女に俺なりの”暴発”の見解を伝える。
「ラフィーニさん、あなたの魔法の干渉力は強すぎるんです。
集められた膨大な魔力が、魔法発動の際に出口を求めて一気に外へと向かいますが、出口は針の穴のように小さいため、その勢いに風船自体が耐えられずに破裂してしまいます。これが、暴発の原因と私は考えています」
「………」
「そして、これを認識いただいた上で、2つの解決案があります」
「一つは魔法干渉力をあえて抑える方法をとる。もう一つは集めた魔力に負けない制御方法を確立する。このいずれかになると思います」
「………」
「どうしますか?」
「……私…魔法干渉の力が強いんですか、普通の人より?」
そうゆっくりと俺に改めて確認するように問いかけてくる。
「ええ、メガネを通してみた景色は壮絶の一言でしたよ。職業柄多くの魔導師の魔法行使を目にする機会がありますが、その中でもラフィーニさん、あなたの力は群を抜いてすばらしいと思います」
俺の言葉をしっかりと耳に入れた彼女は、ある決意を秘めた目で俺を見つめ、はっきりとした声で答える。
「…でしたら、私はこの力を殺したくありません。目一杯この力を伸ばす方向で活かしたいと思います」
「力を抑える魔道具ならいくつもありますが、制御力強化の方法は通常のやり方では既に限界にあると考えます。ですので、かなり特殊で困難な方法になりますよ?」
「かまいません。私うれしいんです。私にも何か人に勝るものがあると分かっただけで、がんばれると思うんです」
(ホントに強い娘だな、こうなると俺も本腰を入れて取り組むとするか。)
「すばらしい考えだと思います。私も出来る限りの方法を提示しましょう」
「よろしくおねがいします!!」
◇ ◇ ◇
彼女の決意を聞いた俺は、更なる情報の把握のため、より詳細な質問を行うことにした。
「それでは質問ですが、ラフィーニさんは魔法干渉で支配下においた魔素を、どこに集中させるイメージを持ってますか?」
「えーと、こう、体中に固めるようにでしょうか……。
すみません。うまく説明することができません」
「なるほど、確かに私が見たのも魔素が全身を隈なく覆うように見えましたね。
ただ、その集め方だと、全身に均一な制御が必要になるので、ラフィーニさんの膨大な干渉力で集めた魔力をコントロールするには不適切でしょうね」
「そうですか、もっとコンパクトに小さく圧縮するように集める必要があるということですか?」
「まさにその通りです。制御の容易な状態の場所にまとめる方が、コントロールの難易度を下げることにつながるとおもいます」
「なるほど、そうしますと体のどこに集めるのが良いのでしょうか?」
「…そのことを話す前に、少し話が変わりますが、ラフィーニさんは魔力の蓄積についての知識はお持ちですか?」
突然の俺の話題転換に、目をパチパチと瞬かせてた彼女は、いささか自信なさそうな口調で回答を述べる。
「えーと、それは”魔法の難問”の一つですね。
人為的に魔力を保存することは現時点では不可能、という結論だったとおもいます」
「実は、限定的な条件ですが魔力の蓄積に向いた物質があるんです」
「まさか、本当なんですの? それが本当ならホントならすごいことです!!」
「はい、それは”血”です」
「”血”って私達の体の中に流れている”血液”ですか?」
「ええ、その”血”です。ただ”血液”は体外に取り出せば、すぐ劣化してしまいますので、恒久的な保存は出来ませんが、魔法行使の際の蓄積媒体とするのには非常に優れた物質なんです」
「まさか、体内の血液に魔力を集めるんですか?
でも、そんな動いてるものに集めるのって、逆に難しいように思うんですけど…」
彼女から飛び出した意外な回答に、俺は少し疑問を感じた。
「”血液”の循環についてご存知なんですか? どなたか医療関係のお知り合いでも?」
「え?、ええ、実は知り合いに”医術”の心得を持った者がいますので…」
何か、言葉を濁すような様子を見せた彼女の態度に、そこはこれ以上触らないほうが良い雰囲気を感じたため、説明を先に続けることにする。
「それならば、より理解が早いかと思います。生物は心臓なる臓器から全身に隈なく張り巡らせた血管を通して、生きている限り血液を絶えず巡らせています。ただ肉体にも血液の流れが多い部分と少ない部分があるんです」
「多い部分と少ない部分…ですか?」
「はい、それは体の中心部分ほど多くの血が集まり、手足などの末端部分には少ない部分しか流れていないことになってます」
「あっ!、ということは、魔力を血液の集まる部分に集中すれば、安定した蓄積ができるということなのですか?」
「…すばらしい理解力です。その通り、人体には体の中心部分に魔力の蓄積に適した箇所が幾つか存在しています。それを”チャクラ”と呼びます」
「”チャクラ”ですか?」
「ええ、先程述べました血液の集まる体幹部分に、7つの”チャクラ”が存在している考えられています。
その場所は体幹部分の中心線に沿って下から、”会陰”、”丹田”、”鳩尾”、”心臓”、”喉”、”眉間”、”頭頂”の7つです」
「えいん?たんでん?みぞおちって、胃の辺りでしたかしら?」
「あー、誤解のないように先にお断りしておきます。これは決して口からの出任せではなく実際に医学的見地からの検証結果によるということを、ご理解下さい」
「はい?」
「つまり、鳩尾(胃)の下に2箇所、血の集まる場所がありますよね? そこが”会陰”と”丹田”になります」
「………」
「わかりましたか?」
「ハイ。…確かにありますね」
「………」
「………」
「つまりですね。その7つの場所に魔力を集めることで、より安定した魔力制御が可能になるということなのです」
「……本当に嘘ではないのですね? 私、あなたを信用していいんですね?」
「天地神明に誓って嘘は申しておりません」
「……わかりました。私やってみます」
「ありがとうございます。ちなみに魔素を集めるのは下のチャクラから順番に上へと集めるようにして下さい」
「下から?!…ですか?」
「ええ、チャクラのへの魔力の蓄積は、『植物が水を根から吸い上げるように行うべし』という教えがあるんです。人体を一本の樹木のようにイメージすると分かりやすいかもしれません」
「一本の樹木…根から水を吸い上げる…」
まじめな性格なのだろう、俺への心情はどういうものなのかは不明だが、教えについては真摯に受け止め、実践しようとする姿勢はなかなか出来ることではない。
先程、魔法行使を行った位置に立った彼女は、俺の説明した言葉を反芻しながら、周囲の魔素を集める体制に入った。
”魔力感知”のメガネを通してみると、言葉の通り足元から徐々に上へと巻き上げる上昇気流のごとき魔素の流れが生まれていた。
「最初は、もっとゆっくりでいいですよ。少しずつ最初のチャクラに魔素を集めるようにしてみて下さい」
「…ハイ。わかりました。ゆっくりですね…」
先程の巻き上げる魔素の流れの速度が落ち始め、徐々に両足を登ってきた魔素が足の付け根にある第一チャクラに集まりだす。
「あ…なにか…温かい流れを感じます。足元から私の中に集まってくるみたいな…」
「いいです。その感覚を逃さないで、徐々に集める力を増やしていって下さい」
「ハ…イ。徐々に…増やす…」
彼女のその言葉と共に、また足元を登る魔素の流れが加速し始める。それにあわせて第一チャクラに集まる魔素の量が増大し強い魔力の光を持つのが、メガネを通してわかった。
「ああ…おなかの下が…あつい…です」
微熱を感じるのか上気したような表情で、吐息を漏らすような言葉をあげる。
「ええ、そろそろ第一チャクラで溜めれる量を超えそうですね。次はその上の第2チャクラに魔素を集める場所を引き上げてみて下さい」
「はい…やってみます」
そうして彼女は第一チャクラを通して第2チャクラへと魔素を集めようとしたが、足元から次々に上がってくる魔素の流れの制御が追いつかないのか、どうしても第2チャクラへの連絡がうまくいかないようだ。
(これ以上は彼女の体への負担が大きいな…、最初からそう簡単にうまく行くわけもないな)
何とか魔素の集中を引き上げようと苦戦する彼女を俺は制止する。
「よし、いったん魔素の集中を止めてみてください」
「えっ、ハイ、止めます」
俺の言葉を受けて、それまで集中を続けていた彼女から力が抜けた。
その様子を見て俺は確認するように彼女に問いかける。
「どうですか、今、魔力が暴走する気配はあります?」
「え…。!!いえ、魔力の制御を意識していないのに暴発する気配がありません。
それどころか、まだ魔力の塊が私の中にとどまっているのを感じます。
これ、なんで?」
「落ち着いて、うまくいっている証拠です。
そのまま、とどまっているチャクラから、発動体の杖に魔力を流すイメージをして、そして『ファイヤー・アロー』!!」
彼女の困惑する彼女の意識を俺の言葉にひきつけたまま、畳込むように魔法の行使を命じる。
「っっ『ファイヤー・アロー!!!』」
俺の命令に反射的に魔法の言葉を唱えた彼女の杖の先から、炎の矢が発現し、20メートル先にある標的に飛んで行く。そして。
ドゥゥン!!
「あ…」
「おめでとう。成功ですね」
◇ ◇ ◇
《今日の魔道具》
●”魔力感知”ᛜ 命・ᛈ 発見
生体および魔力のエネルギーを”光”として感知可能にするためのメガネ。
●”吸気パイプ”ᚱ 風・ᛖ 移動
一方向に空気を移動をする。逆に使えば排気パイプとなる。