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004

今回、魔法の独自設定(ウソ設定)が飛び交いますのでご注意下さい。

4話



城塞都市ᚨ「アンスル」 国立魔導師協会 アンスル支部 カズヤ



◇ ◇ ◇ 



 日も落ちて、すっかり夜の帳が降り始めた頃に、俺は今日の最終目的地にたどり着いた。


「ようやく来たわね」


「お待たせしましたか?」


「そうね。今朝メッセージを出したから昼頃には来るかと思ってたわ」


「申し訳ありません。少々予定が詰まっておりまして」


「あら、師匠の呼び出しよりも優先させる用事って何かしら?」


 穏やかな口調だが、向かい合って座る応接セット越しにも、彼女の機嫌が急速に傾いて行くのを感じた。


「まあ、それは調査結果と合わせて報告します。師匠の用件もそのことですか?」


「当然よ!遺跡から戻ったのなら、まず私に報告が最優先でしょう」


 これ以上、この状況が続くことはまずいと感じた俺は、支援物資の投入に踏み切る。


「ところで師匠。スミィさんから差し入れをいただいておりますが、もう、お食事はお済ですか?」


「……まだよ。そう言えば、今日は昼食も摂ってなかったわ」


「それはいけません。規則正しい食事と睡眠は良い仕事の根幹です。それでは早速…」


 そういって俺はアイテムポーチから、お昼にスミィさんからいただいたサンドイッチとスコーンに加えて、蒸らしの完了した紅茶ポットと、師匠の好物の苺ジャムを瓶ごと師匠の前のテーブルに並べる。


 最後に、暖かな湯気を立てる紅茶のカップをソーサーに載せて差し出した。


「ささ、冷めないうちにどうぞ。せっかくのスミィさんのご好意ですし」


「そうね。スミィの好意を無駄にするのは問題ね」


 そう言って、苺ジャムをたっぷり載せたスコーンを口に含んだ途端、先程までキリキリと危険な角度に上がっていた眉が安全領域にまで下がった。


(スミィさん流石です)


 今のチャンスを逃すべきではないと判断した俺は、先日の遺跡調査報告を一気に始めた。


「それでは、先日の遺跡調査結果について報告させていただきます。Bランク遺跡『樹海迷宮』の最奥部の壁画から『ᛖ エオー』(馬)のルーンを回収に成功しました。また、今回の回収で『ᛖ エオー』(馬)の位階を一つ上げることができました」


「位階の上昇で刻印可能になった効果ですが、これまでの『ᛖ エオー』(馬)による刻印では”移動”系の速度上昇効果くらいであったものが、新たに”状態変化”の意を追加付与できることになります」


「具体的な応用範囲としては、”変化”系の魔法を、より短時間で促進させる効果得られると推察しております」


「……そのほかは?」


「…以上です」


「…1つだけか。Bランク遺跡といっても多くのルーンを回収できるとは限らないということね」


「はい。遺跡のランク設定は徘徊する魔物の脅威度やトラップの難易度を元に冒険者ギルドで設定されたものですから」


「そうね、ところで今までのルーン位階の開放状況を確認したいんだけど、いいかしら?」


「わかりました」


 俺は胸のポケットにしまっていた黒いプレートを取り出すと


『ᛒ ベオーク(起動)』


と唱えた。


 そこには先程までのプレートの上に淡い光で文字が浮かび上がっている。


<ルーン位階レベル>>

第1のルーン:ᚠ フェオ :LV1《富》

第2のルーン:ᚢ ウル  :LV3《野牛》>力>本能)

第3のルーン:ᚦ ソーン :LV3《トゲ》>魔除け>慎重さ)

第4のルーン:ᚨ アンスル:LV2《言霊》>伝達)

第5のルーン:ᚱ ラド  :LV3《風》>車輪>制御された移動)

第6のルーン:ᚲ ケン  :LV2《火》>情熱)

第7のルーン:ᚷ ギョーフ:LV1《ギフト》

第8のルーン:ᚹ ウィン :LV1《喜び》

第9のルーン:ᚺ ハガル :LV3《雹》>災害>試練)

第10のルーン:ᚾ ニイド :LV2《必要》>欠乏)

第11のルーン:ᛁ イズ  :LV4《氷》>停滞>休息>固定)

第12のルーン:ᛃ ヤラ  :LV2《収穫》>地>1年)

第13のルーン:ᛇ ユル  :LV3《イチイの木》>死>再生)

第14のルーン:ᛈ ペオーズ:LV3《ダイス》>選択>発見)

第15のルーン:ᛉ エオール:LV4《鹿の角》友情>保護>結界)

第16のルーン:ᛋ ソウィル:LV2《太陽》>光>

第17のルーン:ᛏ ティール:LV1《剣》

第18のルーン:ᛒ ペオーク:LV3《樺の木》始まり>成長)

第19のルーン:ᛖ エオー :LV3《馬》自由なる奔走>変化の促進)New

第20のルーン:ᛗ マン  :LV1《人間》

第21のルーン:ᛚ ラグ  :LV2《水》>浄化)

第22のルーン:ᛜ イング :LV2《生命》>創造)

第23のルーン:ᛟ オセル :LV4《故郷》>家>領土>伝統継承)

第24のルーン:ᛞ ダエグ :LV3《夜明け》>1日>仮初め

第25のルーン: ブランク:LV1《無》


 師匠は俺が手渡したプレートをの内容を一通り確認すると、やや不満げに口元を歪めて口を開いた。


「まだ位階レベル1のままのルーンが結構あるわね」


「それはそうですね、どの遺跡に何のルーンがあるかは潜ってみないと分かりませんし、遺跡の状態によっては回収できずに空振りに終わる場合もありましたから」


「あなたが、このプレートを私から掠め盗って2年くらいかしら?レベル1ということはその時点から進展していないということよね」


「”掠め盗った”は酷いですね。あれは純然たる事故です」


「判ってるわよ。でもその事故がなければ、そのプレートは私のものだった訳だし、現代に唯一の”ルーン魔術の体現者”になるチャンスを目前で逃した悔しさが判るかしら?」


「それは…ですから、”弟子入り”という形で協力しているわけですし…」


「あら、無一文で路頭に迷うところだったあなたに生活基盤を与え、遺跡に入るための技術をマクガイバーに教え込ませた”恩”に比べたら安いものよ」



――2年前――


 俺はこの世界に、突然”落とされた”。


 そうとしか表現が出来ないくらい突然に、足元に広がった”黒い穴”に全身が包まれたかと思った瞬間、抵抗する間も無く引きずり込まれ、その後意識を取り戻した時には、とある遺跡の中にいたという状況である。


 その時の俺は外出中だったため靴は履いていた以外は何も持っていないというほぼ”身一つ"という格好でこの世界に来てしまうというひどい状態だった。


 その後は幸か不幸か、今目の前にいる魔導師”ルネット・フィラエ”に出会い、すったもんだの”事故”の後、”弟子入り”という身分保証を受け、その時の探索中の”お供”だったマックさんに冒険者版の”世界の歩き方”という常識を教わった。


(いささか冒険者らしい過激な教育方針だったが…)



「そうですね。その点については感謝してます。おかげで何とか自活できるまでにはなりましたから」


「…魔工技師として”おもちゃ”を売るのも程ほどにしなさいよね。変な所から横槍が入ると面倒だから」


「おもちゃではなく。ちゃんと使える魔道具ですよ。そこそこの評判の品になってます」


「馬鹿ね!。どこの世界に”魔石を使わない”魔道具があるというの?そんなものがあると世間にばれたら、今の魔工技術の常識が根本からひっくり返ることになるのよ」


「その点は一応対策済みです。魔石は魔道具の”補助タンク”としてちゃんと埋め込んでますし、ルーン文字の『刻印』は普通の魔道具のデザインとしても割と良くあるものですから」



――『ルーン魔術』


 それは失われた魔道秘術の一つ。


 この世界における現代の魔法は、世界に満ちる”素”の魔力、”魔素”に自らの魔力で干渉し、術式発動のために必要な魔力を支配下においた後に、魔力に何をさせたいかを”イメージ”によって伝えるという手順が必要となる。


 また通常の魔道具は、魔力の結晶である”魔石”に対して製作者である術者が魔法効果の”イメージ”を埋め込むことで、魔導師でなくとも僅かな魔力をきっかけにして”魔法”行使を可能としている。

 そして、その魔道具の性能は、魔石の質が大きく関係しており、質の高い魔石ほど魔法の発動のための”燃料”たる魔力をより多く、より高度な魔法の”イメージ”を込めることが出来るわけである。

 そのため高品質な魔石は希少で、その価値は計り知れない。


 それら通常の魔法に対してルーン魔術の恐ろしいところは、『刻印』される文字自体に”魔力を持たせられる”ことと、ルーン文字が持つ”意味”によって魔力そのものに”指向性”を持たせることが可能になると言うことにある。


 火のルーン『ᚲ ケン』を刻めば火の性質を持った魔力効果を、水のルーン『ᛚ ラグ』を刻めば水の魔法効果が、術者の魔力制御とイメージの必要なく魔素から直接生み出せると言うことだ。


 つまり『刻印』自体が魔石の機能を果たす上に、術者のイメージ精度に左右されない安定した魔法効果が得られるのである。


 その結果、ルーン魔術は現代魔法に対して、魔法行使における魔法発動スピードと、魔法効果の安定性、さらに使用魔力のコストパフォーマンスにおいて、圧倒的なアドバンテージを持つことになる。


(その『刻印』を埋め込むことが大変だけどな・・・)


 そのため俺が市場に流通させている商品は、ルーン文字の『刻印』にこめる魔力を”あえて少な目”にして、通常の魔道具との差を見せないように調整し、魔力の足りない部分は魔石で補うような作りをとっている。


 それでも師匠は俺が魔工技師として仕事することが不満なのか、面白くなささそうに鼻白んでくる。


「別に、そんなことで小銭を稼ぐみたいに働かなくても、弟子の生活保障くらいは師匠の私が面倒を見るわ」


「その話は以前にしましたが、俺のけじめの問題です。自分の食い扶持ぶちくらいは、自分で稼げる力があるなら働いて稼ぎます。それに、その”おもちゃ”を作ってると思わぬ良いアイデアが浮かんでくるんですよ」


 そういって、小さな小瓶に入った魔石の欠片を師匠に渡す。師匠は手の中の”それ”を一瞥しただけでさらに面白くもなさそうな口調で俺に問いかける。


「これは?大きさも蓄積魔力も少ない何てことないくず石じゃない。こんなの初心者の冒険者でも倒せる魔物からいくらでも取れるわ」


「……それ、一度魔力が尽きてるんです。完全に」


「なんですって!!」


 そういうと小瓶をにぎり締め、魔力の有無を再度確認した後、俺の顔を穴の開くほど見つめる。


「…確かに魔力を感じる。さっきの言葉が嘘じゃないなら、どうやったの?」


「世界を構成する4大元素”地””水””火””風”をあらわすルーン『ᛃ ヤラ』『ᛚ ラグ』『ᚲ ケン』『ᚱ ラド』を”再生”と”固定”の”結界”のルーン『ᛇ ユル』『ᛁ イズ』『ᛉ エオール』で囲うように配置した魔方陣の中にその魔力の尽きた魔石を置くことで、大気中の魔素を吸収して再び魔力を持つようになりました」


 ”魔力充填”の”刻印”の基本構成を一息で言い切った俺の言葉を理解しているのか、師匠は呆然とした顔のまま、ささやくような声でつぶやく。


「……あなた、自分が何をしたのかわかっているの?」


「えー、魔石への魔力の再充填ですが」


 俺の解答が御気に召さなかったのか、また師匠の眉が危険な角度に上がっていく。


「…人工的に魔力を保存・蓄積する方法は、世界中の魔導師の悲願とも言える課題なのよ。魔石への魔法効果のイメージングは出来ても、魔力の保存は魔物から取れる魔石が唯一の手段で、それ以外に魔力を安定して保存できる方法は今は存在していないの!!それをこんなにあっさり!」


 一気にボルテージの上がった師匠を抑えつつ、この術式での問題点を伝える。


「いや、問題もありまして、魔力の充填の時間がかなりかかります。『ライト』魔道具に使う”1日分の魔力”を再充填するのに”倍の2日”かかりましたから、改良の余地が多分にあります」


「そんなことは問題じゃないの!いい!? この方法を使えば”人造魔石”を生み出すことが出来る可能性があるのよ!下手するとその辺に転がってる石ころだって魔石に変えることが出来るかもしれない!」


 さすが師匠この”魔力充填”の利用手段を即座に思いつくとは、俺がほかの素材で試してみようを思い立ったのは最初の実験が成功して三日もたった後だというのに。


「いえ、残念ですが、試してみたんですが普通の石ころでは1週間たっても変化ありませんでした。同じように手近かな無機物・有機物で試してみようと、今回の調査前に”魔力充填”の処理をしておいたのですが、まったく変化が生まれませんでした。

 やはり、ある程度は魔力との親和性を持つ物質でないと効果が見込めないと思います」


「スミィもまさか自分の宿屋で、世界をひっくり返す実験が行われているとは思っていないでしょうね。……危なくないんでしょうね?」


「それはもちろん、俺の自室には対物対魔法結界を4重にかけておりますし、外出中は人払いの結界も発動させています。それと3人には個人用の”お守り”も渡してありますから」


「いったい、どんな”お守り”なんだか。それで、行き詰まっているわけ?」


「正直その通りです。ルーン魔術の基礎知識は師匠から御教授いただいた知識とプレートからのイメージ補助で何とかなってますが、基本的な魔法陣の構成なんかは完全な我流ですから、どうしても冗長で無駄な構成になってるんでしょうね」


「我流でも発動できるなら十分よ。

 普通は発動するための術式構成を試行錯誤のしながら構築するんだから。答えがすでにわかってる問題なら、そこに辿り着く道を解くのは難しくはないわ。

 ルーンの構成から現代の魔法術式に置き換えるのはまかせなさい」


「お願いします。一応魔力補充のサンプル確保は、魔機那マキナから定期的に回収できる目処がつきそうなので、それまでは現状の術式でまわしてデータを取るようにしておきます」


 ”魔力充填”の”刻印”魔法陣の設計書を師匠に渡すと、彼女は目を設計書に向けたまま注意を促す言葉を上げる。


「あそこの魔道具屋か、変に勘づかれることはないでしょうね?」


「ええ、なるべく主な顧客層が一般庶民と冒険者で、店主も口の堅そうな信頼の置ける店を選びましたから、一定数のサンプル確保のため、ある程度の数をばらまくことのリスクはありますが、そこからルーン魔術に辿り着く人はいないでしょう」


「分かったわ、どちらにしろ実証実験でのデータは必要だしね。

 それでしばらく時間が稼げるようなら、その間にもれても問題ない環境を私が作ればいいわけね。

 信用してるけど慎重にやるのよ」


「ええ、そうなるとまたフィラエの”新作”が世間を騒がせることになりますか?」


「ルーン魔術の復活のための下地作りには必要なことよ。

 今のままじゃ、すべてを公表した途端、成果を奪われて潰されるわ。

 まだ私達には力が足りない」


 師匠がこれまで発表をしたルーン魔術を下地にした魔法術式は未だプロトタイプの試作段階だが単なる魔道具の枠にとらわれない大掛かりでなものが多数ある。


 大規模な儀式魔法結界を利用した異空間での大規模農園。ゴーレム馬による重装戦車隊の作成案。遠見の鏡による遠距離通話の実現。転移ゲートついては転送対象の重量制限と魔石の消費が大きな問題となって実験段階どまりの状況だが魔道学会からは実用性についての一定の評価は得られているらしい。


 今回の”魔力充填”の術式が公式に認められるようなら、その応用範囲は計り知れないことになり、それは師匠の影響力の増加につながることだろう。


 今後の展望について俺が考えていると、師匠がじっと顔を見つめているのに気づいた。


「どうかしましたか?」


「正直あなたの規格外さに呆れているのよ」


「まあ、それは俺はこの世界の人間じゃありませんので発想が独特に見えるのでは?」


「それは多分にあるでしょうけど、起こした成果に対する執着とか誇りとかの反応も淡白すぎるのよね。普通ならもっと調子に乗って傲慢になりそうなもんだけど」


(いや、そうなったら確実にあなたが叩き潰すでしょう?)


「そうですね。その辺は”拾い物”の幸運に過ぎないと思っていますから。

 実際、世に出た成果は師匠に力がなければ実現できないことですし、俺が自活できるのもマックさんやスミィさんのフォローがなければ、絶対今のようなことにはなっていないでしょうし」


「それでも謙虚すぎると思うわ、むしろ嫌味にみえる」


(それは言いがかりと思いますが…)


 返答に窮する俺を面白げに見つめながら師匠は続ける。


「正当な評価は甘んじて受けるものよ。あなたにはその意気が、いや起こした結果に対する配慮が欠けているわね」


「それでは、どうしろと?」


「そうね、いっそ学会にデビューしてはどうかしら?」


「!!!本気ですか?」


「まあ、それは単なる思い付きだけど、今後のことを考えれば意外と悪くないかもしれないわね」


 いかにも名案を思いついたとも言いたげな口調で俺の学会デビュープランとやらを語りだす。


「そうね、魔術学院の卒業資格と術式や魔道具の研究論文の発表実績をクリアすれば出来ないことも…、私の推薦だけではまだ足りないかな・・・」


 とまらない師匠の独り言(学会デビュー計画)を俺はあわてて止めに入る。


「いや、待ってください。師匠、困ります。俺は今の生活が結構気に入ってるので学会デビューなんて!」


 俺の制止の言葉を受けた師匠の動きがピタリととまった。


(…やばい、コレは”踏んで”しまったかな?)


「……『今の生活』?それは、スミィとのかしら?私と同じ学会に出るよりもそちらの方が良いのかしら?」


 導火線に火がついたようなピリピリとした空気があたりに漂いだす。

 一体どこに地雷があったのかと頭をフル回転して今までの会話を振り返りながら、慎重に爆発物処理に入る。


「え?いや、確かに別に”宿屋暮らし”に不満があるわけではないですし、それだけじゃなくて自由に魔道具の開発ができますし、自分の作った魔道具が売れていくのを見ているのも楽しいので…、学会に所属したらそんなことが気楽に出来なるなるんでしょう?」


 そう、師匠の生活を見ていると良くわかるのだが、学会に所属すると発言力や影響力の拡大は間違いなくあるのだが、定期的な学会への出席や研究報告レポート提出など、時間的な拘束がかなり面倒になる。長期の遺跡の調査など年に何度行けるか判らない立場ということだ。


「それに、俺まで学会に出るようになったら”ルーンの回収”が出来なくなりますよ?」


「……そうね、確かに今”それ”が出来るのはあなただけなのよね」


 いかにも不満たっぷりというべき深いため息をつきながら、お怒りを納めていただけた。


(…解体成功)


「それで次の遺跡の調査候補はどこになりそう?」


「ええ、いくつか候補はあったのですが、一件、緊急で潜りたい遺跡があります」


「緊急?めぼしい遺跡の候補は既にリストアップしていると思ったけど?」


「以前潜った『廃都ᛋ ソウイル』遺跡ですが、下層に800年前の遺跡が存在していたそうです。前回空振りだったことから”外れ”と思ってましたが下層部があるとすると、かなり期待が持てます」


「確かなの、それ?」


「はい、先程冒険者ギルドでギルドマスターに直接教えてもらいました。3日前にギルド公式認定されたそうです」


「3日前公式認定なんて最新情報もいい所ね。各所への通達の手間を考えると一般公開されるのは明日あたりかしら? あい変わらず見込まれてるわね」


「一点、問題が。認定されたのはCランク遺跡ですので一般開放された場合、探索する冒険者の数が一気に増えることが考えられます」


「それは、いつものようにソロで遺跡に潜った場合、人目につくということね」


「ええ、ソロの冒険者もいない訳ではありませんが、今のEランクでCランクの遺跡に一人でいた場合いろいろ面倒なことになりそうです」


「なるほど、それでどうするの?最初の探索ラッシュが終わるまで待つ、なんてことはないんでしょ?」


「それはもちろん。未踏地の遺跡なら保存状態もかなり期待できます。枯れた遺跡と違って荒らされていることもないでしょうから、早めに探索するべきでしょうね」


「具体的には?」


「ランクを1つ上げてDランクになろうと思います。そうすればどこかのパーティに潜り込んで一緒に探索できますので」


「昇格試験には落ちることは…、考えるまでもないわね」


 マックさんの”ご指導の賜物”の内容を理解している師匠ならではの発言である。


「それは出発はいつごろになりそうなの?」


「試験は3日後ですので、早ければ1週間くらいで潜れそうですね」


(ただ、俺が試験を受けると知った時のギルドマスターの笑顔が、何かたくらんでそうなのが気になるところだな…)



◇ ◇ ◇ 


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