表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

003

33話



城塞都市ᚨ「アンスル」 冒険者ギルド カズヤ



◇ ◇ ◇ 



 中央通りの交差するアンスル中心街一角に、石造りの堂々たる建物が周囲に威容を放っている。

それは、出入りする冒険者の放つ気配もあいまって、妙な緊張感が漂っているようにおもえる。


(……いつ来てもここは、なんというか『一見様お断り』の空気がするな)


 まあ、たぶんその原因の半分以上は『あの人』のせいだよな。


 ある意味失礼なこと考えつつ、目的の一角に足を向ける。


「おう、カズヤか! しばらく顔見せなかったがどうした今日は」


 そう、俺に声をかけてきた人物はオーガ族と間違えそうな巨躯を、窮屈そうにカウンターの中に押し込んでいた。


(……座っていても見下ろす位置から鋭い眼光でにらまれると迫力半端ないな)


「どうした?」


「いえ、ご無沙汰してます。マックさん。いつもの遺跡探索情報と遺物の出物の確認ですよ」


「相変わらずか、ちょっと待ってろ、今確認してみる」


 そういってカウンターの奥へと引っ込む姿が、熊の巣篭もりの様に見えたのは秘密だ。


(さて、しばらくかかるだろうし、依頼掲示板の内容でも確認するかな)



冒険者ギルドで扱う業務は多岐にわたる。


 広く世間から寄せられる各地に点在する素材の収集や、魔物の討伐、キャラバンの護衛などの、危険の伴う仕事の依頼を、危険トラブル対応の専門家たる”冒険者”に対して斡旋を行うことを主な業務とし、また所属するギルド員の活動支援として、素材・武具・情報の販売・買取、職業訓練なども行う専門機関である。


 また、依頼については必ずしも危険地帯における内容にかぎらず、街中で起きるいわゆる”厄介ごと”に属するトラブルの解決から、単なる人手が欲しい場合などの”お手伝い”的な依頼も、数は少ないながらも受付をされている。


 俺が見に行ったのも、そんな街中依頼専用の掲示板だ。


(ふむ、”店舗拡張工事の大工手伝い”、”迷い猫探し”、”引越しの荷物運び”、”新メニューのアイデア募集”、なんだこれは”代わりに想いを届けて”って告白の代行か、自分でやれ)


 つらつらと掲示板に載せられている、依頼内容を目で追っていく中で、ひとつ気になる内容の依頼が目に留まった。


------------------------------------

「魔法が暴発しない方法を教えて!」         (※注)掲示:8回目

依頼人 :レルネ・ラッフィーニ

期 日 :期末試験前日まで

受注制限:なし

成功報酬:金貨5枚

依頼内容:魔法の制御がどうしてもうまく出来ません。

     いつも詠唱の途中で暴発してしまいます。

     次の期末試験までに課題魔法を成功させないと落第してしまいます。

     誰かたすけて…

------------------------------------


(これは、なんとも依頼人の必死さが伝わる依頼だな。ここまで書かなくてもいい程の事情がよくわかる内容だし、報酬もいい。しかし、8回目か…)


 しばし悩んでみたが、結局俺は依頼書を掲示板から剥がして、近くの受付に持って行くことにした。


 俺が提出した依頼書の内容を確認したところで、それまでニコやかな笑顔で応対をしていた受付嬢の動きが止まる。

 そして俺の方にぎこちない笑顔を向けながら重そうに口を開いた。


「えーと、レルネ・ラッフィーニ嬢の依頼ですか、ご存じないかもしれませんが、この依頼は・・・」


「すでに7回も依頼失敗が続いていて、受注制限もかけられていないいわゆる”塩漬け”依頼ですね。わかります」


 彼女の指摘したい部分を先まわりした俺の言葉に、本当に深刻そうな表情で説明をはじめた。

「……はい、おっしゃる通り今回で8回目の掲示です。依頼人がどうしてもあきらめ切れないとのことで特別に掲示されてますが、ギルド内では既に達成見込みはないと判断されて、ほんとに掲示だけしている状態なんです。ですので…」


 説明を続けようとした彼女には悪いが、なんとなくその先の内容を言い辛そうにしていたので、依頼を受けるかどうかの判断材料として、俺の知りたいことを質問をする。


「依頼人の背景に問題があるわけではないんですね?

開示できる内容だけ答えていただければ問題ありません」


「いや、お受けするのですか?この依頼?」


 まさかここまで説明をして、俺が受けるとは思わなかったのか本気で驚いた表情をしていた。

 ぜんぜん関係ない事だが、依頼書を提出する前の”ニコやかな笑顔”よりも、今の彼女の”素”の方が表情も豊かでずっと好感が持てそうだと思った。


「ええ、問題が無いと判断できれば。俺が事前に確認したいのは、依頼達成に不当な条件が課せられたり、妨害が入る恐れがありそうかどうかなんですが?」


「……いえ、ギルドで知る限り、そういった背景はありません。あくまで依頼内容の達成が困難なだけです」


「なら受けます」


 彼女はしばし戸惑った様子だったが、俺が引くつもりがないを感じ取ったのか、受付の手続きに入ってくれた。

「……では、ギルドカードの提示をお願いします」


 俺の差し出したギルドカードを受けとった受付嬢がカードの内容を確認する。


「はい、カズヤ・フィラエ様ですね……フィラエ?」


「どうかしました?」


「いえ、申し訳ありません。はい、Eランク…魔工技師…生産職の方ですか? 魔導師ではなく?」


「ランク制限もクラス制限もない依頼なので問題ないですよね。もちろん失敗時のペナルティ《報酬の1割負担》についても理解してます」


「いえ、ペナルティはありません。8回目ですので…」


「了解です。通常ペナルティもないなら、自分としてはこれ以上は確認することはありません」


「……」


 それ以上は受付嬢は無言のまま、ただ機械的に依頼の受注処理を続ける。

そしてしばらく後、受付処理が完了した時に、意を決したように口を開いた。


「はい、受付完了しました。あの、依頼を受けていただきありがとうございます」


「依頼内容と自分の能力とはかって条件に問題がないなら受けます。依頼とはそういうものでしょう?

そして受けた以上は”自己責任”と認識していますので」


 俺の返事を聞いた彼女は何か軽いショックを受けたような感じで表情を固めていたが、ゆっくりと氷が解けるように顔つきが柔らかくなる。


「…その通りですね。

ギルドの基本理念は『出来ないことは出来る人に、受けた以上は自己責任』。

あまりに基本すぎて忘れがちなんですけど…。

どうか彼女の力になってあげて下さい。依頼がんばってくださいね」


 彼女は実に晴れ晴れとした笑顔でそう言った。


「ありがとう」


 彼女の激励に短く応えた後、俺は依頼人の住所の確認と、後日こちらからうかがむねを、依頼人に伝えてもらうようにお願いして、マックさんの受付カウンターに戻った。



◇ ◇ ◇ 



城塞都市ᚨ「アンスル」 冒険者ギルド カズヤ



◇ ◇ ◇ 


「オウ、見てたぜ。あんまりウチの受付嬢を困らせんじゃねぇぞ」


 カウンターではニヤニヤと迫力のある笑い顔のマックさんが待ち構えていた。


「別に困らせるつもりはありません。普通に依頼を受けただけです」


「まあ、その通りだ。ただ最近は普通の依頼を”まとも”できねえ奴が増えてるのが問題なんだがな」


「…何かあったんで?」


 一瞬笑い顔を消した後、周囲をにらみつけながら恫喝するように声を上げる。


「自分達の力不足で依頼失敗しやがったのに、ペナルティの支払いをごねるだけじゃなく、その責任をギルドに、とりわけ立場の弱そうな受付嬢達におっかぶせる馬鹿がな!」


 にらみつけられた冒険者達は極力目を合わせようとせず、仲間と共に固まるように背を向けていた。


「それはひどいですね。達成可能かの判断力が甘くなってるんですか?」


「甘いなんてもんじゃねえ。ひどいのは報酬だけしか見ずに依頼を受けようとする奴もいやがる」


「なるほど、それで受付での依頼内容の再確認が念入りなんですね」


 先程の受付嬢とのやり取りを思い出しつつ、そんな感想を漏らすと、マックさんからギルドに来てからずっと疑問に思っていたことの解答を得ることになった。


「おかげで、俺の最近の定位置も、ここ《カウンター》になっちまった」


「なるほど。それでですか、何でマックさんが窓口をやっているのか疑問に思ってたんですが」


「”円滑な窓口業務の推進のため”のお目付け役だとさ。あの婆ぁ(ギルドマスター)


(この剣呑な空気だと別の意味で業務が滞るんじゃないか?)


「なんだ?」


 俺は、微妙にマックさんから視線を横にそらしつつ、冷静に気を落ち着けて口を開く。


「いえ、ギルドマスターも随分贅沢(ぜいたく)な人員配置をするなと、Aランクのギルドハンターを受付に置くなんて」


「そうか? 適切な配置だがな、ウチのかわいい娘達の番犬としては」


「なんだと……、お前、何でここに!」


 すぱーん!!


「”お前”だと? マクガイバー。私のことは”ギルドマスター”と呼べといったと思うが、忘れたのか? ん?」


 俺がそらした視線の先には、長身の壮絶な美貌の美女がマックさんの隣に立っていた。


「それに、先程不遜(ふそん)な呼称も口にしていたな? ん?」


「なんだと、300歳もいってりゃ十分婆ぁじゃ…」


 すぱぱぱーん!!


「間違えるな、私はまだ298歳だ!!エルフでは十分若いわ!」


(そこ、重要なんだな…それにあれはたぶん、素手じゃなく無詠唱の『エア・ハンマー』限定応用だな、無駄に高度な使い方だ)


 しゅうしゅうと後頭部から煙をあげながらカウンターに沈んだマックさんを見下ろして美女は、その視線を俺に向けてきた。


「カズヤか、よく来たな。ようやく昇格試験を受ける気になったのか?」


「いえ、単なる情報収集です。それに俺はランク昇格しても宝の持ち腐れになりますから、今のランクで十分です」


「そうか?各ギルド施設の使用料の割引率や情報閲覧権限の開示範囲もより上位のランクが優遇されているぞ」


「訓練施設は生産職の俺には無用ですし、図書室の閲覧権限は魅力ですが、今のところ必要ないですから」


「Aランク以上の遺跡攻略や禁呪魔法には興味ないのか? お前の研究対象だと持っていたが?」


「俺が興味あるのは遺跡の出土品がメインですので、禁呪などあまり興味ですね。強力な魔物の出るAランク遺跡はそれこそ入ることも出来ない実力ですから、誰かが遺物を持ち帰ってくれるのを気長に待ちますよ」


「……そうか、となると今日も?」


「ええ、新しい遺跡の発見と出土物の情報があればと思って」


「なるほど、そう言えば確か…」


 そういって、マックが準備していた遺跡の探索情報の記された台帳を、気にすることなく拾い上げると最新部分と思えるところを開いた。


「先日、新たにCランクの遺跡として認定されたのが1件あるな。既にあった同じCランク遺跡の下層に別時代の遺跡への入り口が偶然見つかってな。年代的にはさらに古く800年くらい前のものらしい」


「…出土品はまだ見つかってないんですか?」


「ああ、正式に認定されたのは3日前だしな。ギルドハンターチームの広域調査によると、出没する魔物のランクは上部遺跡と同じ程度だったし、変質的なデス・トラップも存在しないとの報告のため同じCランクになった」


「そうなると本格的な探索が始まるのはこれからですね」


「そうだなCランク遺跡となれば、探索可能な冒険者ランクはDランクパーティから可能だ。一番人数が多いランク帯でもあるから、これからしばらくは挑戦する人間が増えるだろうな」


「ちなみ場所はどこの遺跡ですか?」


「ん、ここから歩きで3日ほど南に行った『廃都ᛋ ソウイル』遺跡だな。新たに見つかった下層遺跡も同じ名称になると思うが。どうした?」


「……今度の昇格試験って、いつでしょうか?」



◇ ◇ ◇ 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ