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2話



城塞都市ᚨ「アンスル」 魔道具商会『魔機那マキナ』 カズヤ



◇ ◇ ◇ 



 かつて隆盛を誇った魔法文明が衰退して、約1000年以上たった現在。


 今の文明は、過去の魔法文明の遺産の残りカスで、かろうじて文化水準を維持できているレベルであり、一部の遺跡から発掘される遺物(アーティファクト、武具、魔道具など)を超えるものを作り出すことはほとんどできていない。


 しかし、人々の生活には魔道具は欠かすことの出来ない生活道具であり、その神秘性とは関係なく広く日常に浸透しているため、それら魔道具を扱う店舗も普通に商店街の一角に存在していた。


「いらっしゃいー、あら、こらカズヤはん、毎度!!」


 俺を出迎えてくれた20歳そこそこの人間族の店員は”香蘭”。

この魔道具商会『魔機那マキナ』の会頭の孫娘でもあり、城塞都市ᚨ「アンスル」支店の店長代理兼看板娘でもある。


「こんにちは、香蘭さん。”毎度”って、この辺ではあまり聞かない挨拶ですね」


「ん、ああ、そうやね。ウチの故郷の独特な言い回しやな。いや、カズヤはんを見るとつい、出てしまうねん」


「それって、以前言ってた、この”黒髪”のせいですか?」


「そーやね。この辺で黒髪でその肌の色の組み合わせは珍しいんで、どうしてもな。ホントに”ヤマト”の出身とちゃうん?」


「ええ、俺の生まれはもっと北の山里で、海運国のヤマトとは、正反対ですね。でも”黒髪の一族”は世界中に商売をして回っていますから、先祖のどこかで血が混じってるのかもしれませんが」


「それも、そうやね。ウチもキャラバン途中にオトンがオカンを見初めて生まれたんやし、別におかしな話でもないやね……それで今日はどんな御用で?」


 世間話の軽い前置きの後、すかさず本題を俺に切り込む姿は、それまでの人懐っこい娘の姿から、いつの間にか一端の商売人の顔に切り替わっていた。


「いや、この間の試作品の反応と魔道具の市場調査かな。あと在庫が減ってるようならその補充も」


「ホンマに!それはナイスなタイミングで。丁度、追加を頼めんかと思っとったから、助かるわー。」


 一転、うれしそうな顔を隠そうともせずに、突然身を乗り出しそうな勢いで俺の両手を取っくる香蘭をやんわりと押し戻し、試作品の件を確認してみた。


「ということは、結構好評ということで?」


「好評も好評!『携帯ライト』『凍結石』『ライター』の3つはもうあらへん。それと数は出てないんやけど『タイマー』と『重量計』は料理人や薬師に、『光測定器メジャー』と『光刻印機レーザーポインタ』は鍛冶と木工職人の人がメッチャほめとったで!」


「それは何より、でも基本使い捨て品ですから、中の魔石の魔力が尽きたらお仕舞いなんで、そんなに長くは使えないですけど、その辺の評判はどうでした?」


「ああ、それは事前に説明してから使ってもらったから問題あらへん。試作品ってことで、値段も安くしとったし連続使用するような『携帯ライト』や『凍結石』以外は、大事に使えば結構魔力も持つみたいやで」


「その2つはもって2日が限度でしょうね。そのへんを買って行くのは、やはり冒険者達ですか?」


「メインのお客は確かに冒険者連中やけど、以外に夜店の屋台のおっちゃんたちも結構買ってくで」


「なるほど、そうなると補充は前回と同じ数50個ずつでいいですか?」


 そういうと、香蘭さんはまた商売人の顔に戻る。


「それなんやけど・・・カズヤはん、その3つの納品数なんやけど、もっと増やせんかな? 思った以上に評判のせいか、今まで分も購入制限設けんといかんくらい数が出てしもて、リピーターの人にもっと仕入れてくれって頼まれてん」


「……そうですか。しかし、俺の方も個人生産なのでそれほど数を増やすのも難しいんですよね」


「そんなら『魔機那マキナ』《ウチ》と専属契約をお願いできへん?」


「専属契約ですか?どういった内容で?」


「つまり、ウチとしてはカズヤはんの商品を安定して大量仕入れしたいんで、カズヤはんの生産数を上げるための支援をするっちゅうことやね。

 具体的には素材収集の依頼を冒険者ギルドに出したり、生産手伝いの職人の手配なんかで。

 もちろん仕入れ価格も正規商品として今以上に上げさせてもらうで。詳細は後で詰めるとして基本はこんな感じでどうや?」


「……契約内容での提案なんですが、いいです?」


「なんや?受けてくれるんやったら大抵のことは契約に盛り込んでもかまへんで。」


「いえ、仕入れ価格については今と同じでかまいません。それとは別にお願いしたいことが・・・」


「な、なんや、まさかウチの事を~×××とか!いや●●●とか!」


「いや、そのへんは丁重に辞退させていただきます。欲しいのは商会がキャラバン中に持ち寄る各地の遺跡の探索情報を教えてください」


「なんやつまらん…。え?そんなんでいいん?魔工技師のカズヤはんがなんで?」


「遺跡は過去の魔法文明の高度な技術の塊です。そこから発掘される遺物からは新たな商品開発のヒントになります。特に未発掘の遺跡の価値は計り知れません。

 そして情報は鮮度が命です、そうですよね?」


「!確かに売れ筋の時期を外すほど損することはあらへん。新商品も早いもんが一番儲けるのは確かや。しかし、その発想はウチら商人の考え方やで、普通職人はそんなこと考えへん」


「それともう一つ、これがお願いできれば、素材の手配はともかく手伝いの職人は無しで納品数が増やせるはずです。」


「何やねん、そんな魔法みたいなうまい手があるんかい!?」


「今の魔法には、それほど奇跡は起こせませんよ。

 お願いしたい方法は、魔力切れになった商品を持ってきた人には新しい商品を”割引で販売”して欲しいんです。もちろん魔力切れ以外での破損したものは対象外です。

 そして、回収品は俺が”仕入れ値の半額”で引き取りますので、その辺を考慮して回収時の販売割引率を決めていただければ良いのですが、できるだけ”お得感”の出る値段設定でお願いします」


「何や、そのややこしい商売は!そんなん聞いたこともない!」


 つまり俺からの仕入れ値が”銀貨1枚”の商品の場合、回収品を半値の”銅貨50枚”で俺が引き取るということだ。

 この場合、魔機那の販売価格は俺が回収品に支払った”銅貨50枚”までなら値引きしても儲けは同じになる。しかも割引を利用するために来店するならリピーターとしての販売促進効果も望めると思う。

 そして俺は回収した商品を”再生”して、また銀貨1枚で魔機那に納品する。


「変やないの、その条件、それだとカズヤはんが一方的に損するだけやん!」


「いや、実は魔石の交換作業だけなら、それほど俺の手間はかからないので、今後の新規生産分と回収した商品の再生分を合わせれば、回収した分だけ徐々に納品数を増やしてしていけるんです。

 お客さんも割引購入ができるとなれば、自然と商品を大事に使って、積極的に”回収割引”を利用するんじゃないかと思いますから」


 これは、俺の魔道具が基本”使い捨て”の商品であるため、使用期間自体が短いことが、逆に商品本体の劣化を抑ることになり、”使い捨て”商品を実際は”捨てずに回収”して”再利用”(リサイクル)していけると判断したことから思いついた提案である。


 しばらく、俺の言ったことの意味を吟味していた香蘭さんだったが、次第に内容を消化することができたのか徐々に顔つきが落ち着いてきた。そして再確認するように声を上げる。


「一応、”再生品”の品質については検品させてもらうで?」


「それは当然ですね、問題あれば仕入れ値を別途に再検討しましょう」


「よし、わかった。それで契約しよか。まずは仮契約で、再生品の確認して問題なければ本契約ということで。

 期間はとりあえず半年間くらいを見とけばええか?問題ないなら自動延長するよって」


「はい、あ、でも遺跡情報は契約前でも欲しいので何かありましたら言って下さい。相応の情報料を別途支払います」


「なるほど、できるだけ早く見極めようか、早速お客には回収品での割引のこと伝えて、契約書は次回納品時までに用意しとくようにするわ」


「お願いします。では今日は同じ分だけ追加補充しておきますね」


 そう伝えた後、俺は魔機那のカウンター奥にある商品倉庫へと向かい、前回置いた商品棚の空いたスペースに、数量を確認しながら、持って来た商品を並べて行く。

 その補充作業の途中でカウンターの香蘭から声がかかった。


「カズヤはん、ウチなー、昔おじぃに聞いたことあるねん。『最高の商人になるにはどうしたらいいんや?』ってな」


「……それは究極の商売の命題ですね。会頭も困ったんじゃないです?」


「そうでもないで、おじぃ即答で返しとったから」


「それはそれは、さすがにヤマトの中でも指折りといわれる魔機那の会頭ですね。それでなんと?」


「”誰も損しない商売。それができれば最高の商人になる道は開ける”ってことらしいで」


「……」


「商売すれば”得する人間”と”損する人間”の2つに絶対分かれてしまうとウチは思っとったから、おじぃに”そんな商売あるわけないやん”って怒ったんやけど、なんか、今日その道がな、ちょっとだけ見えたようが気がするねん」


「……そんな大層なもんじゃないですよ。たまたまうまく行きいきそうな案を思いついただけですから」


「そんでもなー、カズヤはん商人でも十分やっていけると思うで、ただでさえそんな希少なマジックアイテムもっとるし」


 そういって、香蘭さんは先程から商品を取り出していた俺の手の中の「アイテムポーチ」を指差す。


「これは借り物なんで。これで今以上の商売するのちょっと気が引けます。それに俺の本質はやはり”職人”ですから」


「そっか、残念やね。有望そうな新人の確保も店長代理の役目なんだけどね」


 そうしたやり取りをしながら、空いた商品棚に商品をすべて埋め終えた俺は、カウンターの香蘭さんのところへと戻る。


「終わりました。とりあえず販売分の商品を埋めておきましたので後で確認しておいてください」


「ということは納品数はこの”タグ”の分だけってことね。しかしこれも便利やね。販売数のチェックが早い早い」


「ああ、それは自分用の覚書おぼえがきというか、使っている魔術回路の”目印”みたいなものなので」


「そうなん?、このタグに書かれている”文字”みたいなのなんなん?あまり見たことあらへんけど」


「それは、”ルーン文字”です。昔の魔道具には必ず刻まれている刻印で、それにあやかって自分の作品にも使っているわけです」


「なるほど、カズヤはんは昔のアーティファクトのような魔道具を目指しているわけやね」


 そういいつつ、タグの種類と数からすばやく合計金額を算出し、今回の納品分の金額を俺に手渡してきた。


「はいな、今回分の合計で3万2700リンやね。金貨3枚と銀貨27枚でええかな?」


「毎度」


「お、いい間合いで使いこなすなー」


「まあ、それは俺にも”黒髪”の血が流れているということで」



◇ ◇ ◇ 

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