018
入れてしまった設定のめんどくささに、若干の後悔中w
18話
◇ ◇ ◇
「アンスル」南西部 タガモラ丘陵 チェリー・スプリング
◇ ◇ ◇
あたしは目の前に浮かんでいる小さな窓枠に浮かんでいる文字の情報から目が離せない。
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name チェリー・スプリング
Level 12
Class 盗賊 → スカウト
HP 34
MP 26
STR 5 → 6(-1)
VIT 6
DEX 11 → 12(-1)
AGL 15 → 12(+3)
INT 3
MGR 5
LUK 9
CHR 7
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一番上の文字は分かる、自分の名前だ。その次の数字は12となっているが何が12なのかさっぱり分からない。左に"LEVEL"という文字があるが知らない文字だ。
あたしは17歳だから年齢ではないだろう。とりあえずは後回しだ。
次の行は"CLASS"これも読めない字だが、”盗賊”→”スカウト”となっているから職業のことなのだろう。そして続く3行目と4行目これも数字は34,16と読めるが何の数値かが分からない。次だ次。
5行目ここも数値は読めるが”STR”が何かが分からない。しかし気になる数値の並びが続いていた。
STR 5→6(-1)
2行目が職業のことなのだとしたら盗賊のSTRが5で、スカウトのSTRが6と読める。そして6の右には(-1)の数字。
(これは、もしかして盗賊からスカウトになるには”-1”つまりSTRの数値が1足りない、ということ?)
あたしは自分の推測に体が震える思いがした。もしこの推測が本当だとしたら、とんでもないことだ。世界にどれだけクラスアップに悩む人間がいるかを考えれば、この魔道具の有用さが分かるだろう。
もうこれ以上は我慢できない。すべてを知っている人間が目の前にいるのだから一から説明してもらうのが一番早いことに、あたしは今更ながら気づいた。それだけ自分がどれだけ動揺していたのかがよく分かる。
「…説明して、これは何? 名前と職業と数値は読めるけど、左端の文字が読めないわ。なんて書いてあるの?」
あたしの質問を予想していたのかカズヤは淀みのない口調で説明を始める。
「これは、”宿命の水晶”。もう予想がついてるかもしれないけどクラスアップのための条件を”大まかに”把握することの出来る魔道具だ」
ある意味、心の準備が出来ていたことで動揺は最小限に抑えられてたが、それでも質問の声が震えてしまう。
「つまり、あたしがスカウトになるには、6行目と8行目の数値が”1”足りないってこと? 何かは分からないけど…」
「ああ、そうだ。解説すると6行目”STR”は筋力値、8行目”DEX”は器用値だ。つまり、もうちょっと”力”をつけて、”細かい動作”の技術を磨く修行をすれば、クラスアップに近づくということになるかな?」
「……9行目の数値は逆に3多いけど、問題ないの?」
「ああ、”AGL”は敏捷値。チェリーの素早さは既にスカウトに必要な分を大きく超えてるようだな」
「……ありがとう、って言えばいいのかな?」
カズヤの態度に”嘘”は感じられない。彼は間違いなくあたしを褒めてくれているのだろうが、今は正直そんな気分になれない。ちょっと衝撃が大きすぎたためだ。
逆に考えるとこれは知ってはいけない”まずい情報”なのではないだろうか?
今までとなんら変わらないカズヤの態度が返って不気味に思えて仕方がなかった。
「ね。教えてほしいんだけど?」
「ん? なんだ?」
「……これ、あたしなんかが知ったらまずい情報なんじゃないの? もちろん仲間の情報を大っぴらにしゃべるようなことは盗賊の仁義にも反するから自分で言うつもりはないけど」
ある意味覚悟を決めての踏み込んだ質問だったが、カズヤの反応は拍子抜けとも言える返答だった。
「ああ、その辺は信用してる。俺は少なくとも3人にはある程度のことは話してもいいと思ったから、異空間に招待したんだし、今の状況から考えれば、”仲間”の戦力の底上げは可能な限り行ったほうがいいからな」
「仲間と思ってくれたのは正直うれしいけど。簡単に人を信じ過ぎよ」
あきれるあたしの返答にも、カズヤの態度は軽いままだ。しかし。
「一応、人を見る目は鍛えているつもりだ。それで裏切られるなら仕方がないとあきらめられるくらいにはな。それくらいチェリー、お前を見込んでるんだからな」
その言葉を聞いたとたん、胸の中でカッとする熱が生まれた。
(今サラっと凄いこといわれたよね。コイツ意外に口も巧い…。)
「…なら、その期待に応えることでお返しするのが一番ね」
なんとか普通の口調で応えることが出来た自分に、あたしは満足する。
「ああ、それじゃ一通り数値の意味を説明するな」
その後、カズヤの説明によって私の理解した内容に置き換えるとこうなる。
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名前 チェリー・スプリング
位階 12
職業 盗賊 → スカウト
体力 34
魔力 26
筋力 5 → 6(-1)
耐久 6
器用 11 → 12(-1)
敏捷 15 → 12(+3)
知力 3
精神 5
幸運 9
魅力 7
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「……一応数値の意味は分かったけど、色々と言いたいことがあるわ!」
「なんだ?」
「あたしの魅力が”7”ってこと! 誰が決めたの? カズヤ、あんた?」
「…最初の質問がそれなのか?」
「いいから応える!」
「…数値はその人の持ってる肉体や精神のエネルギー値から水晶が読み取った値を分かりやすくするため一定の倍率を掛けたものだ。だから厳密にチェリー自身の持ってる能力値だ」
「なっとくいかない! やり直しを要求するわ!」
私の”当然”の主張に対し、カズヤはゲンナリとした表情をしながら口を開く。
「…フォローするなら”魅力”は生物が持つ”カリスマ”というか、他者からの注目度の高さだ。チェリーの女性として魅力ってわけじゃないぞ」
「注目を集めるってことは魅力的ってことじゃない!!」
そこで一転真面目な口調でカズヤは語り始める。
「いや、戦闘においては決して良いことじゃないぞ。敵の注目も集めることになるから、攻撃対象として狙われやすくなる」
「え゛?」
「”隠密”の効果も薄くなるから、斥候職としては"魅力"が高すぎるのは問題だな」
「そ、そんなー!」
「あと、一般成人の各能力値の平均としては”5”くらいだ。その意味では平均以上なんだから気にすることじゃない」
「…平均は、超えてるのね。それなら……気にするわよ、やっぱり!」
「俺としては、数値の低さをいうなら、知力の”3”の方だと思うんだが」
「うっ! い、いいじゃない! 別に斥候職に知力は関係ないんだから…」
「…関係ないことはないぞ。知力は基本的な知識の学習効果や判断力に影響があるからな、頭の回転の速いほうが優秀な斥候になれると思うぞ。せめて、平均の5は必要だろうな」
「ううう…。やっぱり、そうなるのかー。今回の試験勉強でも苦労したんだよね。あたし物覚えが悪いのは、知力が低いからなのか……」
「まあ、こればっかりはクラス補正がないから地道に反復練習で努力するしかないな。チェリー、読書とかの習慣はないのか?」
「あるわけないじゃない」
◇ ◇ ◇
「アンスル」南西部 タガモラ丘陵 カズヤ
◇ ◇ ◇
「まあ、それは今後の課題としておくか。今は”投擲”の習得と、そのためのクラスアップ条件の達成だな」
俺の話題の切り替えの言葉に、チェリーはあからさまにホッとしたような様子をみせる。あまり先延ばしにしても良いことではないが、今はより優先すべきことがあるのでそちらに集中することにした。
「さっきの話だと、”筋力”と”器用”を鍛えるってことだったけど。具体的にはどうするの?」
ステータスの強化方法について問いかけるチェリーに、俺はある提案をすることにした。
「それなんだが、悠長に修行に時間をかける余裕もないので、ある"裏技"を使うことにする」
「…まだあるの? もう十分すぎるくらい"裏技"の連発だと思うんだけど、あたしの感覚がおかしいのかな?」
「まあ、これも俺と組んだことが運の尽きということで、あきらめてくれ」
「…逆だと思うんだけどいいわ。それで、どんな裏技なの?」
「ああ、これをつけてくれ」
そういって、俺は2つのリング状の魔道具をチェリーに手渡す。
「何?ブレスレット? それともアンクレットかしら?」
「どっちでも、チェリーの好きな方でいいぞ。動きやすい場所に身に着けてくれればそれでいい」
俺のその言葉に、チェリーは左右の腕に装着することにしたようだ。リングはそれぞれの手に収まると、彼女の体型に合わせて密着する。
「つけたわよ。それでどうするの?」
「ああ、さっきと同じく”宿命の水晶”でスカウトになることをイメージしてみてくれ」
「りょうーかい」
そして、彼女は水晶に左手を乗せるとクラスアップのイメージをする。水晶はそのイメージに反応して、先ほどと同じくウィンドウを開いた。
俺はその結果を確認し、予想通りの結果に満足した。
「おめでとう。これでチェリーも”スカウト”だな」
俺は、ウィンドウを見つめたまま固まっているチェリーに祝福の言葉を送った。
彼女の見つめるウィンドウには次のように表示されていた。
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name チェリー・スプリング
Level 12
Class 盗賊 → スカウト
HP 34+4
MP 26
STR 5+2 → 6(+1)
VIT 6
DEX 11+2 → 12(+1)
AGL 15 → 12(+3)
INT 3
MGR 5
LUK 9
CHR 7
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俺の言ったことが、ようやく彼女の中で理解できたのか、それに対して反応しようとするが、言葉にならないのか、画面を指差しながら、パクパクと口を開け閉めしてる。
「…ちょっ、これは、いくらなんでも……」
「それは”力のリング”と”精密のリング”だ。装着時に一時的にだが”STR”と”DEX”に+2の効果が得られる」
まだ、困惑の中にあるチェリーに対し、俺は”ごく普通”という風に説明をする。実際、自分も一般常識からかけ離れているとは思うのだが、変に意識をされると話が進まないし、”効果”も薄くなる。チェリーにはなるべく早く”こういうものだ”ということに慣れてもらうのが一番なのだ。
「…これで、クラスアップなの? あたしスカウトに”なれる”の?」
そう言いながら、自分のギルドカードを確認してみるが、そこの表示は”盗賊”のままなので信じられないのだろう。
「ああ、ギルドカードはギルドの”魂の水晶”での認定結果から、本人の希望を聞いて職業をギルドの設備で”表記”しているだけだから、変化はしていないのは当然だな」
「…つまり、自覚はまったくないんだけど、もうスカウトに”なってる”んだ、あたし…」
「そういうことだな」
「……なんというか、今まで必死に努力してきたのが馬鹿らしくなるわね。こんなにあっさりクラスアップ出来てしまうと」
どうやらチェリーのやる気を削いでしまったようだ。
これは失敗だったか。なかなかうまくは行かないものだな。彼女に”今の状態”を自然に受け入れてもらうにはどうすべきだろうか…。
迷った上で、結局、俺は正直に伝えることにした。
「実はな、”スカウト”になっている”今の状態”には時間制限があるんだ」
「へ? どういうこと?」
「つまり、そのリングの効果があるのは今日一杯が限度、それを過ぎると元の盗賊に戻ってしまうということだな」
「あー。なるほどね。やっぱりそんな都合のいい話はないってことか」
「しかし、その制限時間の間ならば、スカウトとしての職業補正を受けれる。つまり、”投擲”のスキル習得にも”補正”がかかるというわけだ」
「……こうしちゃいられないわね。貴重な時間が無駄になるわ」
何とかチェリーのやる気を取り戻すことに成功したようだ。
スキルは一度覚えてしまえば、別にスカウトの職業でなくなっても”使う”ことは出来る。一度自転車に乗れるようになれば、しばらく乗ってなくても乗り方を忘れないのと同じ様なものだ。
このチャンスを逃さないように段取りを急ぐとするか。
「それなら、投擲練習用の”的”を用意するから、それを使って練習をやってくれ。うまくすればスキルを覚えることが出来るかもしれないからな」
「ああ、できれば投擲に向いたものって何かないかな。一応短剣があるけど、ちょっと投げるには大振りだし、あたしのメイン武器だからね」
そう言ってチェリーは腰に挿してある短剣を俺に見えるようにかざして見せた。
確かに投擲できないことはないだろうが、ややチェリーが投げる武器としては大きすぎるな。
「ふむ、ちょっと倉庫をあさってみるか、少し待っててくれ」
「りょーかい。それまで”壁走り”の練習をしてるわ。完全にモノにしたいからね」
◇ ◇ ◇
あいにく実験棟の倉庫にはチェリーの要求する投擲に向いたものはなかったので、もう一つの居住区にある倉庫に向かうことにした。
その時廊下の途中で、どこか掠れた声が俺の耳に入ってきた。
途切れ途切れのささやきのような声は、なにやら助けを呼ぶような響きを持っている。
「……ダ…、です…」
「……ア…くす…た…です…」
「……くっ、ん……ダメ、です…」
どうやら声は3人に寝室として使ってもらっている空き部屋の方から聞こえてくる。
なにやら怪しげな雰囲気がただよっていたので、思わず先に進むべきか迷っていたのだが、次の言葉でひとまず声を掛けることにした。
「ごめんなさいです。ママになってあげたいけど、ぼく”おっぱい”は出ないのです」
「あー。すまんネメア朝食の準備が出来ているから食堂の方に来てくれ。子狐たちの"ミルク"もあるぞ」
ドタンッ!!バタン!
「…わ、わかったのです! すぐ行くので、呼びに来なくても大丈夫なのです!」
なにやら、必死さが伝わってくる声が飛び込んできたので、状況はなんとなく理解した。
「あー。焦らなくていいぞ。こっちもゆっくり用意してるから」
「ア、ありがとうです。わかったのです」
チェリーにはすまないが少し食堂に寄って、ネメアと子狐たちの朝食を用意することにした。放置すれば、なにやらネメアの大事なものが危機的状況を迎えそうな予感がしたからな。
チェリーに用意した朝食と同じメニューで飲み物だけはフルーツジュースにして、子狐たちには、昨晩と同じくミルクとミンチ肉のパテを用意する。
準備がほぼ出来たところで、子狐たちを両脇に抱えたネメアが食堂に飛び込んできた。なにやら、服の裾がはみ出していたり、髪がほつれていたり、妙に顔が赤く額に汗まで見えるのは、余程あせって来たためだろうな、うむ、きっとそうだ。
「…ハァハァ、お、おまた、せしました、です」
ちょっと乱れた息の口調でそんなセリフを言うネメアが妙な色気をかもし出しているのは幻覚だろう。子狐たちが、さっきから前足でネメアの胸元を引っかいたり、鼻面を彼女の首元にもぐりこませようとしているのも関係ないことだな。
「ネメア、ひとまず先に子狐たちをこっちに、ミルクを用意してある」
「た、助かりますです」
そういって、床に置いてある皿のところに何とか降ろそうとするのだが、妙に子狐たちがネメアから離れようとしない。仕方がないので、俺も手伝ってようやくのことで引き離すことができた。今は余程腹が減っていたのか、かなりの勢いで皿に向かっている。
「…ありがとうです。ちょっと大変でしたのです」
朝一番から疲れたような声で語る彼女に俺はフォローのアドバイスをする。
「今度から子狐たちが腹が減っているようなら、勝手に食糧庫からミルクや肉を上げていいから、場所が分からなければミニオンに言えば持って来てくれるぞ」
「助かりますです。一時はどうなるかと…」
「ネメア、頼んだ俺が言うのもなんだが、無理しすぎてないか?」
「大丈夫です。さっきはその……起き抜けの不意打ちで、ビックリしただけなのです」
「…わかった。でも手に余るようならすぐに俺達にも手伝いを振ってくれていいんだからな」
「ハイ、です」
そういって今度は自分の朝食を取り始めたネメアを見て、ふと思いついたことをたずねてみた。
「ネメア。確か鍛冶も出来るっていってたな。小さな金属片の加工も出来そうか?」
「…大掛かりなものでなければ、手持ちの補修道具があるので作れると思いますです」
俺は、簡単なイラストを書いてそれをネメアに見てもらう。
「こんな感じの形の武器を頼みたい。鉄棒と鉄板の方は俺の方で準備できるんだが…」
「…面白い形です。大きさはこのままのサイズでいいのです? ずいぶん小さそうです」
「ああ、基本、投擲用の武器だからな。大きすぎると意味がない。まあ、手に持ってナイフ代わりにも使えないこともないけどな」
「なるほどです。持ち手の部分はそのためなのですか。でも投擲武器だと重心は刃先の前寄りです?」
さすがに本職だと理解が早いな。俺の下手なイラストでも投擲武器としての特性を的確に持たせてくれる。
「そこは任せるよ。あと柄尻のこの部分は小さくなってもいいので残しておいてくれ」
「バランスを考えると、あまり大きくはできないですが、いいです?」
「十分だ。細目の紐が通せればいいだけの”穴”なんでな」
「了解です。いくつくらい作りますです?」
「そうだな。とりあえずは5本くらいか、最終的にはもう10本くらい必要になるかもしれないのが、それはチェリーに最初の試作分を試してもらって確認した方がいいかな」
「ほえ? これはチェリーの武器なんですか?」
「ああ、今チェリーは”スカウト”にクラスアップして”投擲”のスキルを覚えようとしてるんだ」
「???どういうことです?」
俺は、朝からのチェリーとのやり取りを説明して、この投擲武器が必要になった経緯を説明した。ネメアは最初”宿命の水晶”のことで驚いていたが、急に真顔になると俺に質問をしてきた。
「あ、あの、そのクラスアップの条件ですが、僕もお願いしてもいいです?」
「ん? もちろん、いいぞ。ネメアも強くなってくれるなら、パーティの安全度が上がるだろうからな」
◇ ◇ ◇
じゃ、先に確認するか、そう言って俺は食事の終えたネメアを実験棟に連れて行く。当然、子狐たちも一緒だ。実験棟に入ると誰もいなかった。いるはずのチェリーの姿も見えない。
「…どこいったんだ、チェリーは? トイレか?」
「いませんです」
ネメアと二人して実験棟の広場だけでなく外周の回廊部の通路や小部屋を回ってみたがどこにもいない。ところが子狐たちが広場から動かずにある一点を見つめていた。
(…なんだ、どこをみてるんだ?)
子狐たちの視線を追ってみるとそこに目的の人物の姿を発見した。
「…チェリー、お前の応用力の高さは分かったから、もう”降りて来い”。あんまり驚かすな」
「えっ? ほえー!!チェリー凄いです!」
「ちぇー、もうちょっと粘れるかと思ったんだけどなー」
そこには天井から”逆さま”にぶら下がったチェリーの姿があった。声を自ら発生たことで隠密が解除されたのだろう。
「いや、気づいたのは子狐たちのおかげだ。”隠密”との相性は想定通り効果が高そうだな」
「そっかー。やっぱり獣人の野生の”カン”ってやつは侮れないね。あたしの”隠密”もまだ完全じゃないかな」
そういうと、チェリーは天井との"固定を"解除して、下の広場に見事な半回転をして着地を決めて見せた。
(ここの天井10mはあるから、3階建てのビルより高いんだけどな…)
「で、ネメアも起きて来たんだ? 疲れは取れた?」
「……ダイジョブです。僕は元気です!」
「??まあ、いっか。それで、投擲に向いたものってありそう?」
「ああ、それならネメアが作ってくれるみたいだ。こういうやつをな」
俺は先ほどネメアに見せた”投擲武器”のイメージイラストをチェリーにも見せる。
「どれどれー。……え、これってまさか…」
「どうやら、知っていたみたいだな。さすがは”くの一”を目指す女だ」
「やっぱり苦無!! マジで? カズヤはよく知ってるね。相当マイナーな武器なのに!」
「まあ、その辺の知識には、ちょっとした伝手があってな。どうせ投擲を覚えるなら、コイツがチェリーには相応しいと思ってネメアに頼んでみた」
俺の見せたイメージ図を握り締めて、チェリーは大興奮だ。どれだけ忍びに憧れがあるのか知れないが相当な入れ込みようだな。
「これは、俄然”投擲”を習得せねば! くー、待ちきれない。ね、ネメア。これすぐ出来るの?」
「え? えーと単純な構造なんで、少し時間をもらえれば、ここでも作れますです。材料はカズヤさんが用意してくれるです」
「おおー、やったー。これで、あたしの忍道も一歩前進!」
「チェリー、興奮するのは分かるが少し待て。先にネメアの要件を済ませてからでも遅くないだろうしな」
「へ? ネメアの用件って?」
「お前と同じだよ、ネメアもクラスアップ条件を知りたいそうだ。だから少し待ってくれ」
俺の制止の意味が分かったのか、チェリーも納得の顔を見せる。
「ああ、そういうことか。いいわよ。ネメアもクラスアップで悩みがあるんだろうし」
「チェリー、ありがとです」
「よし、じゃネメア。この水晶に手を置いて、クラスアップ先をイメージしてくれ、それでクラスアップの条件がわかる」
「分かりましたです。…こうですね」
そう言って、ネメアは”宿命の水晶”に右手を乗せると目を閉じた。
水晶に上に半透明のウィンドウが浮かぶ。
「…どういうことだ?」
表示された内容に俺は思わず疑問の言葉を口にしていた。
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name ネメア
Level 14
Class 戦士 → ガーディアン
HP 82
MP 34
STR 11 → 10(+1)
VIT 15 → 13(+2)
DEX 12
AGL 5
INT 7
MGR 5
LUK 6
CHR 7 → 7(±0)
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《今日の魔道具》
●”宿命の水晶” ᚨ 伝達・ᚾ 必要・ᛒ 成長・ᛗ 人間・ᛈ 発見・ᚢ 本能の力
現在のステータス情報に加えて、潜在能力の認識も可能にする。
●”力のリング” ᚷ ギフト・ᛏ 剣・ᛞ 1日
一時的に”STR”に+2の効果。
●”精密のリング”” ᚷ ギフト・ᚦ 慎重さ・ᛞ 1日
一時的に”DEX”に+2の効果。