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16話


◇ ◇ ◇ 


「アンスル」南西部 タガモラ丘陵 ネメア


◇ ◇ ◇ 


 今ボク達は丘の裾野のぽっかりと空いた洞窟の中に逃げ込んでいる。

 ギリギリ荷馬車を入れることができたくらいの小さな洞穴で、奥行きも10mもない。

 しかし、突然の大雨に襲われたボク達にとっては、この小さな洞窟が命をつなぐ救い主であり、雨で冷え切った体を少しでも休めることが出来なければ、遠からず身動きが出来なくなっていたことは明らかだった。

 そういう意味では、雨が降り出して1時間もしないうちに、この洞窟を見つけられたことは幸運であったと思える。


(この子狐達の”おかあさん”が連れて来てくれたのです。きっとそうです。)


 その子狐達は今僕の両脇で力尽きたように眠っている。おなかの左右に感じる温かさが”ふたり”が生きていることを強く主張していたが、小さな呼吸の動き以外ほとんど動きを見せていない。

 無理もない。先程この子狐達はお母さんとの”お別れ”を済ませたばかりだ。


◇ ◇ ◇ 


 この丘陵地帯に入ってからしばらく進んだ頃に、カズヤさんは荷馬車を街道から外れさせて、ひとつの小高い丘に進めた。その丘はなだらかな地形の続くこの丘陵地帯の中でも1段高くなってる場所で、特徴的な一本の木がその頂上に生えていた。


「”イチイ”の木だ。”死と再生”をつかさどる意味を持っている。昔ある神が”ルーン文字”の秘密を得るためにその身を”犠牲”としてささげたという伝承もある」


 カズヤさんは樹の幹に手を当てながら、そう説明をしてくれた。


「”彼女”の眠る場所としてはふさわしいだろうな」


 そういってカズヤさんはグランドアンカーの杭を手に持つと、”イチイの木”の前に”穴”を掘り出した。魔道具の力で地面に杭は簡単に刺さるが専用の道具ではないためあまり効率はよくない。

 ボクとチェリーさんも作業を手伝おうとしたがカズヤさんに止められた。


「チェリーは周辺の警戒を続けてくれ、ネメアは……子供達を頼む」


 そういってカズヤさんはひたすら杭を地面に突き刺しては、掘り崩すことを繰り返していく。その姿を見つめるだけでチェリーとボクが動けない中、ひとつの声がかかる。


「では、私なら問題ないな」

 カリストさんはその手に馬用の水桶を持って、カズヤさんの掘り崩した土を穴の周辺に運び始める。


「……試験官に手を借りるわけには…」

「この件は試験とは関係ない。問題はな……いや、違うな、私がやりたいんだ」

「…助かります」

 二人は泥にまみれ汗だくになりながら30分ほどの時間をかけ、”彼女”の眠る場所を作り上げた。

 そして荷馬車から”彼女”をその場所に移し変えようとした時、子供達が暴れだす。


『ママニ、ナニ スル!!』『ハナシテ! ママ ツレテカナイデ!!』

『待って! お願いです。話を聞いてくださいです!』


(ここできちんと”お別れ”出来ないと、この子達はずっと”この場”から動けなくなるのです。以前の”ボク”みたいにです!)


『あなた達の”ママ”は、二人を守るため戦ったのです! ボロボロになりながら! とてもとても辛かったのです。でもあなた達を守り抜きましたのです。』

(あの時の僕には時間がありました、でもこの子達には……。)


『『………………』』


『もう、ゆっくり休ませてあげるのです。これからは…これからはボクがいるのです!!』

『…ママ モウ クルシクナイ?』『…ママ モウ アンシン?』


『……ええ、あなた達の”ママ”はあなた達が元気でいれば、もう苦しんだりしません。……安心して眠れるのです。』

『『…ママ ボクタチ ゲンキ ダヨ』』


『…なら、”ママ”はもう大丈夫です。』

『『……ママ、ママ、ママー!!!』『


 ”子狐(こども)たち”は泣き叫びはしたが、もうそれ以上暴れようとはしなかった。ただボクの体に顔を埋めて来たため、”ふたり”を抱きしめる。そして、ボクたちの様子をじっと伺っていたカズヤさんに無言でうなずいた。

 カズヤさんは”彼女”の身体を抱き上げると、”イチイの木”の元へと運び、そっと、”彼女”の眠る場所に横たえた。

 そしてカリストさんと二人で”彼女”身体をゆっくりと土で覆っていく。

 しばし”ふたり”の鳴き声と土の音だけがあたりに響く。


「あいにく、これしか手持ちがなくてな、すまない」


 カズヤさんはそういって、”彼女”の身体を覆った地面の上に何かの一つの種をいた後で、取り出した水袋から地面に水をいていった。

 すると、最初ひとつの芽が水をかれた地面から顔を出すと、すぐさま芽を伸ばし、葉を広げ、花が開いたかと思うと、実をつけて枯れた。

 しかし、その実はいくつもの”新たな種”を残した。

カズヤさんはその種をまた地面にくと、同じように水袋から水をく。花は先程と同じく枯れてしまうが、今度は両手に余る程の”種”を残す。

 カズヤさんはその種を一面にばら蒔く。そして同じく水も。

 気づいた時には、彼女の眠る場所は一面の薄紫色の花に覆いつくされていた。


「すごい、何これ……」

 チェリーが、周囲の警戒も忘れ声を上げる。


「…紫苑シオンの花か」

「ええ、調合用の薬草なんですが、これでも”花”には違いないので」

「……知らないのか? 紫苑の花言葉は、『追憶、君を忘れない』だ。手向たむけの花としてこれほど相応ふさわしい花はないと思うぞ」

「……なら、おあつらえ向きでした」

「…ずいぶん準備が良いと思ったのだが?」

「…こんなこと、あらかじめ備えることは、さすがに出来ません。俺が出来るのは…このくらいです」

「……どうだろうな」


 ボクはそんなカズヤさんとカリストさんのやり取りを聞きながら、”ふたり”を”彼女”のところへ連れて行き、薄紫の絨毯の上に”ふたり”を降ろす。


『さあ、ママに”お別れ”を……、『元気でいるから』と、安心させてあげなさいです。』

『『…ママ ボクタチ ゲンキ ダヨ …ダカラ アンシン シテ。』』


 子狐達はそういって、最後に母親の記憶を刻み付けるかのように、紫苑の花の香りに包まれた地面にしきりに小さな鼻をこすりつけていたが、やがて泣き疲れて眠ってしまった。


 すると、子狐たちが眠るのを待っていたかのように、空から雨粒が落ちてきた。

(きっと、”お母さん”もお別れが辛いのです。)

 ネメアはそう確信しながら、子狐たちを起こさないように、そっとすくい上げた。


(でも安心して下さいです。ボクがあなたの代わりに、この子達を守りますです。)


◇ ◇ ◇ 


「アンスル」南西部 タガモラ丘陵 カズヤ


◇ ◇ ◇ 


 洞窟の入り口から見える外の状況は土砂降りのまま、変化が見られない。

 ”彼女”の埋葬を済ませたあたりから、降り始めた雨は(たちま)ちその勢いを増し、視界もままならないほどになった。

 正直チェリーがこの洞窟を見つけてくれなければ、この原野の真ん中で立ち往生となってしまったことは間違いない。


(正直状況は良くない…。最悪ではないのが救いなくらいか…)


 狐人族の”彼女”達を発見した場所からは、そこそこ距離をとることが出来たが、それとて、荷馬車で半日程度のものだ。

 まだ時刻は夕方に差し掛かる前くらいの時間帯ではあるが、外の雨の状態から見ても、今日はこれ以上足を伸ばすのは無理だろう。


(それに、みんな、かなり疲労がたまっているな…)


 俺も含めて全員があの雨の中の行軍で、全身”濡れ鼠ぬれねずみ”の状態なのだが3人ともにかなりの消耗を抱えていると思える。

 チェリーはこの洞窟を見つけたあたりで既に限界を迎えていた。通常でない緊張状態でのスキルの多用は、必要以上に消耗が大きい。無理もないだろう。今も焚き火の前でひざを抱え、目を閉じている。しかし神経が高ぶったままなのか、眠りにつくことも出来ないようだ。


 ネメアは”一見”元気にみえる。今も”子狐こどもたち”を両脇に抱えしっかりと支えている。

 確かに”子狐こどもたち”の面倒を見るよう頼んだのは俺だが、彼女は俺の想像以上の働きをしてくれた。特に”彼女”の埋葬の際には”子狐こどもたち”の抵抗を覚悟していたのだが、ネメアは”それ”を独力で説得して見せた。

 しかし、どうにも”あやうい”状態に思える。必要以上に張り詰めているというか、かなりの無理をして気を張っているように見えるのだ。少しでも何かのバランスが崩れてしまえば、その一度でネメア自身が潰れてしまうような不安を拭い去ることができない。


 そして、カリストさんも例外とはいえない。ただでさえ人間に比べ体力面では劣るエルフ族の身で、俺でも苦労した”埋葬作業”をほぼ同じレベルで行ったのだ。疲れていないはずはない。

 それに彼女は時折”過敏”な反応することがある。何か心に大きなものを抱えて、気丈な精神力でそれを押さえ込んでいるような、そんな風に見えることがある。そして、そのことが彼女に精神的な消耗をいていると感じるのだ。


(…これは、もう手段を選んでいられる状況ではないな…)


「みんな、ちょっといいかな? 相談したいことがある」


 俺の呼びかけに3人が一斉に俺を見る。


「…なに?」「なんです?」「どうした?」


「俺は今、この試験を放棄すべきか、と考えている。その上でこの現状を改善する”手段”を提案したい」


 俺の提案に対する反応は激烈だった。

「いきなりなに言ってんのよ! ここまで頑張って来たんじゃない!」

「そーです、僕も納得行きませんです!!」

「……理由を言え。どうしてその結論に至った?」


「まず、この雨の中の行軍で俺達の体力はかなり落ちてしまっている。この状態のまま『廃都ᛋ ソウイル』を目指しても、何かトラブルが起きた場合に”重大な事故”になりかねないと思う。ここまではいいかな?」


 その回答に、自分で消耗の自覚のあるチェリーがまず目を落とす。ネメアは反論しようとしたが、カリストさんの次の言葉で口を閉ざした。

「トラブルというのは、魔物の襲撃以外のものを考えているのか? つまり”追っ手”がこちらに来ると?」


「ええ、俺自身で『廃都ᛋ ソウイル』行きを提案しましたが、”追っ手”の可能性は低いと考えただけで”(ゼロ)”ではありません。現状で何の対策もないまま襲撃されば、ひどい結果になると思います。”子狐こども達”は奪われ俺達もただでは済まないでしょう」


 俺のその言葉にネメアの”子狐こども達”を抱く手に力がこもる。その圧力で”ふたり"が身じろぎしたのを感じたネメアはあわてて力を緩める。


「そこまでは理解した。確かに現状はあまりいい状態とは言えん。しかし、その改善の”手段”と試験の”放棄”が、どうつながるのかがわからん」


「実は…”これ”を使ってしまうと”試験”をかなり優位に進められますので、これまで使わないでいたんです。ほぼ反則と見なされるかと」


「? 魔道具の類は特に試験で制限をしていないぞ。それを入手することも能力・実力の一つと見なされるからだ」


「……わかりました。一度お見せします。その上でカリストさんが判断してください。チェリーとネメアはどうだ? 今の状態のままで試験の続行を望むか?」


「……冷静に説明されると、このままじゃまずいのがわかったわ。残念だけど…」

「ボクもこの子達を危険にさらすようなことは出来ませんです」


「理解してくれて助かったよ。俺も二人とは”いいチーム”が組めて、ここまでこれたのに残念だと思ってる。…すまないな」


 俺は二人に短めの謝罪をした後、俺は焚き火の傍から立ち上がり、ポーチからその”手段”を取り出す。


「? それが? カズヤの言う魔道具(手段)か?」

「何かの部品?……どこかで見たことあるような?」

「……それ…”ノブ”みたいです」


「そう、正解」


 そう言って俺は洞窟の壁に、その”ノブ”を突き刺すと、チャクラによる魔力活性によって蓄積した魔力を”ノブ”に注入した。


◇ ◇ ◇ 


 俺が”ノブ”を突き立てた洞窟の壁に起こった変化は一瞬だった。

でこぼことした岩の表面がのっぺりと均一化し、”ノブ”の周辺に”ドア”を作り出し一体化する。

 その変化の終了を待って俺は”ドア”を引き開けた。

 俺のその行動を3者3様の呆然とした表情で見つめる3人に注意点を告げる。


「ちょっとドアの前で待っててくれ。先に登録をしないと”色々”まずいんだ」


 そう言い残して、俺は"ドア"の中に入って、”留守番”役を呼ぶ。

「すまん。”ミニオン”玄関まで来てくれ!」


 しばらくして奥の待機部屋から現れたのは、俺の作成した”土人形”の「ミニオン」だ。背丈はネメアと同じくらいで俺の半分もないが、パワーはそこそこの膂力を備えており、良い助手役もこなしてくれる。残念ながらしゃべることは出来ないが、一つしかない目の点滅と短い駆動音だけで、意外と上手にコミュニケーションをとる器用さも持っている。


「ミニオン。こちらの3人と2匹の”ゲスト登録”を頼む。とりあえず期限は未設定でいい。施設の利用権限は”工房”区画以外は”使用可”でたのむ」

「びゅぃ。ぴぴーぴ!」

 俺の要請に即座に行動を起こし、今だドアの前に立ちすくんだままの3人を”一つ目”(モノアイ)に収めると”ゲスト登録”と室内の”権限設定”を行った。

「ぴっぴー!」

 どうやら無事完了したようだな。

「登録完了した。3人とも、中にどうぞ」

 そういって3人をロビーに入ってもらうと、ドアを閉じてノブを回収する。


「…ここは、まさか異空間か?」

「そうです。といっても魔力の問題で、ちょっとした庭付きの家くらいの大きさですが」

「あの”ノブ”でこれを作っていると?」

「…いえ、あれは”ここ”への入り口をつなぐ為のもので、この中で消費する一日分くらいの魔力を注ぐくらいの力しかありません」

「すると、ここは一体……」

「その辺は、時間もかかりますから、後ほど。まずはその冷えた体と濡れた服を何とかしましょう。こちらへ」


 カリストさんの質問を途中でさえぎり、俺は3人を浴室へ案内する。

 ここは限りあるスペースの中で日本人たる俺の要望を最大限に詰め込んだ広さを確保してある。6畳の浴室内の半分を浴槽のスペースが占めている。もちろん、自動浄化機能を備えた特別製の浴槽だ。入浴の習慣があまり一般化されてないこの世界の常識からすればとんでもないことだろう。


「こちらの赤い玉に魔力を流せば、浴槽の温度が上がります。適当な温度になったところで解除してください。温度が上がりすぎたと思ったら、隣の青い玉に魔力を流してください。今度は温度が下がります」


 そう説明しつつ、俺は赤い玉に少し魔力を流してみせると、常温の水だった浴槽から湯気が立ち始めた。適当なところで魔力を切る。


「それと、身体の汚れを落とす時はこちらの”タオル”を使ってください。髪や身体の表面に当てれば汚れを落としてくれますので。

 あと濡れた衣服はこちらの”洗濯箱”に入浴中に入れておいてくれれば、”浄化”と”乾燥”をやってくれます。使ったタオルもこの"箱"の中に入れてくれれば、後はミニオンが畳んで整理してくれます」


「なにこれ……」「ほえー、すごいです」「…なんと言う贅沢な」


「そうだ、もし”のぼせた”場合は、こちらの"保冷庫"に冷やした”おしぼり”と飲み物が入ってるので、遠慮なく使ってくれ。風呂上りに飲むのもサッパリして気持ち良いぞ」


 冷やした”おしぼり”を一つ取り出すと先にチェリーに渡す。

「ひゃっ、なにこれ、ひやっこい!」

「チェリー、今日はスキルの多用で脳の神経が高ぶっているはずだ。身体は風呂で温めるのはいいが、頭は冷やしておいた方が良い。最初は目に当てると良いぞ」

「こう? んー、ホントだ。これ、気持ちいい!」


「浴室での説明はこんなことろだな。まずは、少しぬるめの温度にしてあるから、じっくり身体を温めて疲れを抜いてくれ。俺は食事の準備をしておく」


 俺は一通りの説明を果たすと、早々に浴室から退散した。男の俺がいる限り、いつまでも踏ん切りがつかないと思ったからだ。

 こういうのは勢いだ。風呂の良さは浴槽に漬かれば長々説明するよりも一度で理解されると俺は信じている。


「ミニオン。彼女達が風呂から上がったら食堂に案内してきてくれ」

「びゅぃ」


◇ ◇ ◇ 


 自室で塗れた服を着替えた俺は、食堂に行き3人に振舞うメニューを考える。


 さて、メニューはどうするか。疲労が溜まっているだろうから、なるべく消化に良くて栄養補給ができるものがいいな。スープ系とパスタ系を基本として少し細かく刻んだサラダを用意すれば良いか。ほとんどは師匠のためにスミィさんが用意してくれたもののストックで足りるな。デザートは冷やしたフルーツでいいか。

 おっと、子狐達のメニューも用意しないとな、一応ミルクとミンチ肉の両方を準備すればいいかな。


 ポーチから頭の中で構成したメニューの品を取り出すとスープは保温用のコンロの上に置き、パスタは温冷それぞれの種類に分けて、”保温皿”と”保冷皿”に盛り付けて行く。


 そうして、いつでも食事を始められる準備が整ったところで、ミニオンに連れられた3人と子狐達が食堂に入ってきた。

 見事に全員の頭の上から、ほかほかとした湯気がうっすらと立ち上っている。

 服も”洗濯箱”を使ったのかきちんと乾いた綺麗な状態になっているようだ。

 チェリーだけは何が気に入ったのか、おしぼりをそのまま頭に載せている。


(初めてだから入浴時間の感覚がわからなくて長く入りすぎたのかな?)


「みんな、湯あたりとかしてないか? 結構長く入っていたみたいだけど」

「「「………」」」『『キューン』』


 子狐達は匂いに先に反応したのか用意したお皿に乗った食事を要求している。

 ひとまず、子狐達の要望を先にかたづけるか。待たせると可哀想だし。

 俺は用意した2種類の皿を”ふたり”の前に置きそのまま離れる。すると”ふたり”は待ちかねたように皿へと飛びつくと元気よく食べ始めた。

(ミルクも肉もどちらでも良いみたいだな。それよりも”お代わり”がいりそうだ。)


「三人とも席について好きなものを食べてくれ。もし、食べられない食材とかがあれば別のものを用意するから遠慮せずに言ってくれ」


「うん。ありがと」「はいです」「…出来れば、野菜系のもので頼む」


 チェリーとネメアの二人には肉系のシチューとミートパスタを、カリストさんには野菜系のスープとキノコクリームパスタをすすめる。

 最初はゆったりとしたどこか弛緩した空気のまま食事が続いたが、一度風呂で緊張がリセットできたことが良かったのか、次第に普通の食事のペースになっていった。


(食欲が戻ってきたのは良いことだな。食べなければ体力を回復できない。)


 そうしてようやく本来の調子を取り戻すことが出来た3人の様子を確認できたところで、カリストさんに預けていた結果を伺う。


「いかかですか? 既に危険な状態は何とかできたと思うので、俺としては目的を果たせたのですが、この場所は本来昇格試験に使ってはまずいですよね」


「……確かにお前の主張したいことは理解した。この”施設”が試験中にいつでも使えるような状況は明らかに”差”が出てしまうだろうな。食事、衛生管理、安全な睡眠、どれをとっても有利すぎる」


「そうですか。やはり…」

「特にあの”お風呂”! なんなのだ、あれは!! 温かな湯に全身を包まれるあの感覚といったら、とても言い尽くせるものでは!!」

「……あの、カリストさん?」


「…お風呂上りの果物の味がしたミルク、おいしかったです……」

「……あたしは、甘い中にもちょっと苦味にあるほうが良いかな」

(ネメアはフルーツ派でチェリーはコーヒー派か……いや、今はそういう状況では。)


「けしからん! 実にけしからん! あんな良いものがこの世にあったなんて!!」

「……あの、つまりは試験に”ココ”を使うのは”反則”。”今後一切使用禁止”ということですか?」


 俺の確認の質問に対する反応は激烈だった。

「ココを?」「今後一切!」「使用禁止だと!!」


(そんな、この世の終わりみたいな顔をそろってしないでくれ)


◇ ◇ ◇ 


《今日の魔道具》


●”成長促進水”ᛜ 創造(イング)ᛚ 水(ラグ)成長(ぺオーク)ᛖ 変化の促進(エオー)


●”異空間接続”ᛜ 創造(イング)ᛟ 領土(オセル)ᛁ 固定(イズ)ᛞ 1日(ダエグ)

●”土人形作成”ᛜ 創造(イング)ᛃ 地(ヤラ)ᛗ 人(マン)


●”温水蛇口”ᛜ 創造(イング)ᛚ 水(ラグ)ᚲ 火(ケン)

●”冷水蛇口”ᛜ 創造(イング)ᛚ 水(ラグ)ᛁ 氷(イズ)

●”浄化浴槽”ᛚ 浄化(ラグ)ᛖ 変化の促進(エオー)

●”浄水タオル”ᛚ 水・ᛚ 浄化(ダブルラグ)

●”洗濯箱”ᚾ 欠乏(ニイド)ᛚ 水・ᛚ 浄化(ダブルラグ)

●”保冷庫”ᛁ 氷(イズ)ᛉ 結界(エオール)



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