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ようやく試験2日目w

13話


◇ ◇ ◇ 


「アンスル」西部 ガリム街道 ネメア


◇ ◇ ◇ 


 ネメアは激怒した(ぼくはおこっている)

 かの第7班のリーダー(カズヤさん)を反省させなければならなぬと決意した。


 要するに見張りの番に起してもらえなかったことを怒っているのである。


 ネメアが目を覚ました時に、”すでに夜が明けている”。と気づいた時に彼女が感じたのは”絶望やってしまった”だった。

昨日の戦闘での失態を何とか取り返したいと思い、せめて”見張りをがんばろう”と密かに決意してたことが実現できなかったためだ。


 そのため、彼女の怒りはその原因を使った犯人ものに向かっていた。


「ネメアー、もういいかげんに機嫌なおしなよー」


共犯者チェリーが何か言っているが、僕は主犯カズヤさんの次に怒りを感じている人間からの進言など、一顧だにする必要性を感じないのです)


(それゆえの無言の抗議なのです!徹底抗戦なのです!)


「俺が悪かった。すまない。せめて”あの約束”だけでも果たさせてくれ」


(……主犯カズヤさんからあっさりと謝られてしまい、怒ったものの、引っ込みが着かなくなったわけではないのです。けっして、です!)


 妥協案として無言のまま首を”縦に振る”ことで、彼の謝罪を受け入れることにする。


「よかった。昨日言っていた物が出来たんだ。これを使ってみてくれ」


 そう言ってカズヤさんが差し出したのは夕べ革から取られたボクの”足型”。

それを受け取りつつも、どう使うべきなのか、わからない。


「それはブーツの中に入れて、底に敷いてくれ」


 言われた通り2枚の足型をブーツの中に入れるため、ブーツを脱ごうとする。


「ああ、すまない。革の表面にᚾ 欠乏(ニイド)ᛚ 水(ラグ)ᛚ 浄化(ラグ)の文字がある面を上にしてくれ。上下を間違えないようにな」


 確かに、革の片面にはカズヤさんの言ったような文字が『刻印』されていた。

 全く自分の読めない類の文字だったが、注意されたように『刻印』のある方を上にしてブーツの中にいれる。

 自分の足型を元に作られただけにピタリと収まった。


「では、ブーツを装備して普通に立ってみてくれ」

「ァ……」

 思わず、反射的に返事をしてしまいそうになったのを無理やりこらえる。

 意味のないことをしている自覚はあったが、もうこうなると意地だ。


 そんなボクの姿をカズヤさんが笑って見ている。

 馬鹿にされてる笑いじゃなかった。とてもやさしいかすかな笑顔で、そんな風に見られていると思うと、恥ずかしいのとは別になにか心の中が暖かくなる。


(おじいちゃんに似てますです。)


「始めは、いつもどおり。ハンマーを振ってみてくれ」


 ちょうど今、思い出していた”おじいちゃん”のハンマーを右手に握りなおすと、いつものように振り上げ、右肩上から左下へと振り下ろす流れを作る。

 すると、振り上げから、振り下ろすところまでは問題の無かった体の動きが、ハンマーが体の正面を通過した途端、ボクの体を左に引っ張ろうとする。

 いつもの様に両足を踏ん張って耐えようとするが、勢いのついたハンマーの重さは容赦なくボクの”軽い身体”を振り回す。結局大きく左に体勢を崩すことになった。


『一発屋』。以前臨時パーティを組んだときに”そう”馬鹿にされてきた。


 ボクのハンマーは当たれば”大ダメージ”を与えられるが、一度でも避けられてしまうと二度目の攻撃が続かない。


(やっぱり無理なのです? おじいちゃんのハンマーをボクが使うのは……。)


 全く”いつも”と同じ結果に落胆を隠し切れない。しかし、


「さて、じゃあ、本番だ」

「え……」


「今度は振り下ろす時に、両足に魔力を通してくれ、さっきの足型にだ」


 カズヤさんの言葉に、何かの予感と期待を促され、先程と同じハンマーの動作を始める。

 そして、振り下ろしの瞬間、両足に魔力を流すイメージを作る。すると、


(両足が……地面に吸い付いてる!!!)


 ハンマーが正面を過ぎ、身体を左へと引っ張るが、両足はびくともしない。

 結果、ハンマーは左下の地面にぶつかる直前でピタリと止まった。


「……カズヤさん……これ…」


 ボクは思わず、彼の方へ向き直ろうとするが、両足は相変わらず地面を掴んで離さない。


「魔力を切れば、離れるから」


 そうカズヤさんの言葉の通り、あまりの驚きのせいか、ずっと魔力を流したままだった。

 いうとおり魔力の接続を切ると、あれほど強固な力で地面に縫い付けられていた足があっさりとはなれる。


「どうだ、これならもう身体が浮くことはないぞ。

 その装備のままでお前は十分戦える」


(このハンマーのままで……いいんだ。)


 そう自覚した瞬間、自分の中で自然な感情がわきあがった。


「カズヤさん……ありがとう……です」


◇ ◇ ◇ 


「アンスル」西部 ガリム街道 カズヤ


◇ ◇ ◇ 


(どうやら、成功だな。)


 朝からご不満顔でねまくっていたネメアの気分は、今や絶好調のようだ。

 よほど身体の”軽さ”の問題が解決したことがうれしいのか、さっきからハンマーの素振りを”笑顔で”ひたすら繰り返している。

 ちょっと色んな意味で、危なすぎてとても近寄れない。なので、このまま声を掛ける。


「おーい、ネメア、ちょっといいか?」

「あ、はい、です!!」


 俺の呼びかけにすぐさま素振りを終えて、こちらへと駆け寄ってくる。


「どうやら、固定と解除の切り替えもスムーズなようだな?」

「はいです。全く問題ないです!」


「気づいてると思うが、これは防御の場合も使える。昨日のマッド・ウルフの体当たりも余裕で弾き返せるぞ」

「ホントです!? 防御まで!? すごいです!!!」


(気づいてなかったか……よっぽどうれしかったんだな。)

 そのあたりの説明をしておこうかとしたところで、チェリーから制止が入った。


「おーい、お二人さん。夢中になるのもいいけど、そろそろ朝食にしない?

 あたし、おなかすいちゃたよ」


「そうだな、朝食を取りながらでもいいか。ネメア行こう」

「はいです!!」


 どうやらチェリーとカリストさんで朝食の準備を済ませてくれたようだ。


「すみません。カリストさん。チェリーもありがとうな」


「かまわん。パーティの雰囲気が悪いままだと、危険度も増すしな。

 まあ、早々に解決したようだし、今回は減点を見逃してやる」

「…あ、ごめんなさいです」


 そんなネメアの様子を見たチェリーがすかさずフォローを入れる。

「まーよかったじゃない。ネメアの問題も解決したみたいだし。結果オーライで。 それで、種明かしは?」

「ああ、そのあたりは食べながらでいいだろう。みんなも気になっているようだし」

「もちろん!!」

「はいです!」


◇ ◇ ◇ 


「それで、いったいどうやったの? ネメアの足が地面に吸い付いてたみたいだけど」

「それは、あれだ」

 そう言って俺は、テントの天幕を固定している「杭」を指差した。


「あれって、”グランド・アンカー”とかって言ってた魔道具よね?」

「そうだ、あれと同じ魔術式を、ブーツに入れた”足形”の革に仕込んである」


 そう俺が説明してもネメアとチェリーの疑問は解決されないらしい。

 俺はもう少し、細かく説明をすることにする。


「”グランド・アンカー”は、ああいう杭の形をしてなくても地面と対象物を”固定”できるんだ。

 普通の杭の様に物理的に地面に穴を開けて繋がるって訳じゃなくて、杭型も足型も”地面の一部”として”一体化&同化”させるイメージの魔法なんだ。

 ”同じ一つの塊”だから、結果的に動かなくなる、つまり”固定”されると言うことだ」


「んー、分かったようで、よく分からん」「んー難しいです」


「そうだな、難しい原理はいいか、”魔力を通せば地面に吸い付く”そういう魔道具と覚えておけばいいさ」


「うん。そっちの方がいいね、シンプルで」「ですです!」


 ようやく納得したような顔を見せる二人に、さらなる追加説明を行う。

「それと、今回は他の機能も追加してる」

「なにそれ?」「??」


「今回は”間に合わせ”の材料しかなかったんで、”革”の足型をブーツの中に入れる形になったんだが、今の時期ブーツの中は特に”蒸れる”だろう?」

「あー、確かにね。下手すると冬だって”蒸れ”はあることだし」

 そう言ってチェリーは自分のブーツを見つめ、憂鬱そうな顔をする。

 まあ俺にも、その意見には同意する。

「そこに”革”の足型が追加されると”蒸れ”が悪化するらな。

 中の水気を取るための”脱水”と、ついでに中を清潔にするための”浄化”の機能も付けたんだ。

 あの足型は2枚の革を貼り合わせてあって、下側に”グランド・アンカー”上側に”脱水&浄化”が来るようになってる」

「あ、ホントです。あれだけ動いたのに、今、全然、蒸れてませんです」


「ふーん、いいわねそれ。あたしも欲しいかも」

「……ちぇりー、まさか足に水む…」


 すぱーん!!! 衝撃の告白に驚きの声を漏らした俺に、容赦のない突込みが入った。

「それは、あたしへの”宣戦布告”と受け取るけどいいの?」


 剣呑な雰囲気でじりじりと俺に迫ってくるチェリーに疑問に思ったことを聞く。

「しかし、ネメアと違ってお前は”動き回る”のが戦闘のスタイルだろう?」

「ちょっと、やってみたいなー、と思うことがあってね」


 ”疑い”は残ったが、改善の積極的な姿勢は”買う”べきだろう。

「……いいだろう、後で足型を取らせてくれれば、ネメアと同じ物を作ってやる。

 パーティの戦力強化になるなら出来ることはやっておくべきだしな」


「……”足型取るときにチェックしてやろう”なんて考えてないでしょうね?」

「……」

「……」

「……」

ちゃきん!!ずさささ!


「思ったわね!。今絶対思ったでしょ!!!」

「……言いがかりだな。事実無根だ。それより危ないじゃないか。避けなければ刺さってたぞ」

「当然よ、そのつもりで刺したんだし」

「……」

「……」

「……お前達、いいかげんにしないと、減点だぞ」


 あきれるカリストさんの声に、俺たちはすばやく朝食を終えると荷物をまとめ、試験2日目の行動を開始した。


◇ ◇ ◇ 


●ブーツの中敷き

(上面)”脱水浄化”ᚾ 欠乏(ニイド)ᛚ 水・ᛚ 浄化(ダブルラグ)

(下面)”グランド・アンカー”ᛃ 地(ヤラ)ᚦ トゲ(ソーン)ᛁ 固定(イズ)


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